IT勉強会の目的は、勉強するため?異性と出会うため?

“女性が参加しやすいITイベントの作り方”という記事を見つけた。

私自身も、過去に何度か「今旬なテーマを学ぶ」という主旨の勉強会を開催しているが、勉強会の開催の目的は、共に切磋琢磨しあう仲間が集まるためであり、「飲んで騒ぐ」事を目的とはしていない。

そのせいか、「女子を呼ぶ」という事が目的となっていないため、女性用に「スイーツ」を用意するという発想に対して、理解に苦しんでいる。最終的には「女性を呼び、それに釣られた男性陣が増える事で、イベントを盛り上げよう」というのが狙いなのかもしれないが、勉強会のテーマに共感した人間が集まるのでは無く、「女性に釣られた」人で人数が埋まる事になんの意味があるのだろうか?

そんな人達で枠を埋める位なら、意識の高い「学生」を優先的に招待してあげる等の配慮が必要なのでは無いだろうか。性別より、収入の差、経験の差等を配慮し、「勉強したい」と考える人が参加しやすい環境を整える事が必要では無いだろうか。

ここで、IT業界の現実について少し書いてみたいと思う。

■性能向上と価格低下によって、二極化が進むインフラエンジニア
ネットワーク機器販売最大手のシスコシステムズが1万1500人のリストラを発表した。

ネットワーク機器最大手の同社でも、厳しい状況にある。これは、古くはハイエンドルータ一台売れれば一億円だったものが、機器の性能向上によって、10分の1の価格で、同じ事が出来るようになってしまった。価格が10分の1になっても、性能は同等以上になっているので、リプレイスと同時に集約化も検討される。簡単に言うと10台で構成されていたネットワークが1台で構成出来るようになる。「階層化されていたネットワーク」から、「フラット化」が現在の主流であり、この流れもあり、ネットワーク機器の台数は減少傾向に有る。

そんな状況下で、中国勢等が低価格攻勢を仕掛けてきたため、「売れても、儲からない」、いや「昔ほどには儲からない」という状況が生まれているのだ。

ネットワーク機器はまだ良いほうで、サーバの方はもっと悲惨な状況になっている。100万円もするサーバ一台あれば、そこに何十台も仮想化技術によって詰め込めるのだ。IT業界の流れは確実に「物は売れない」状況になってきている。

物が売れないならどういう状況が生まれるか?「インフラエンジニアの供給過剰」だ。

「クラウド化」によって、iDC等にネットワーク機器もサーバも集約化される方向にある。こういった巨大iDCの設計や運用を担当する「ハイレベル」なエンジニアの需要が求められる中で、その他のインフラエンジニアに対しては「仮想化・統合化」の波が一巡した後の先行を心配する声は大きい。当然その後には(いや、既におきているが)「自動化」の流れも頭に入れておかなければならない。

■購買力を高め、価格交渉能力を高める通信事業者
今年に入り、AT&TがT-Mobileを買収するというニュースが話題になった。

様々な経営戦略の一貫ではあるが、重要な要素として、ネットワーク機器等の設備の購買力を高める狙いがある。通信事業者のようなビジネスは基本的に加入者数に依存する。そのためねある程度その国の中で普及率が高まれば、成長は頭打ちになる。勿論、電話以外のIP接続を増やすということは当然だが、そう簡単に行くものではないし、新たな競争が始まり、そこで勝ち抜かなければならない。

そういった状況下で、成長を維持するためにはどうすればよいか?加入者不足により、売上が伸び悩むなら、利益を確保する方向で考える必要がある。巨大な企業同士が一つになることで、設備投資の購入数を大幅に増やし、メーカ等に対して値下げ交渉を有利に運ぶのだ。

通信事業者のような設備産業において、機器の調達コストは馬鹿にならない。ここを下げる事で利益を確保するのだ。そして、そういった利益確保の動きは、設備だけで無く、当然人件費にも回ってくる。自動化や、オフショア等によって、より安くインフラを作る方法を模索している。グローバルの競争は待ってはくれないのだ。

■米国の就活事情。就活なんてしない、大学生
インフラエンジニア以外のウェブサービスの開発エンジニアの話も少ししてみたい。

先日、facebookのカントリーマネージャーの児玉さんのお話を聞く機会があった。その中で印象的だったのは、「米国のエンジニアを志望する学生は、就活なんてしない。何故なら、大学一年の時から、Facebook等でインターンとして企業に採用され、月収60万円程貰う。それを三ヶ月間隔程で、Facebook、Google、Linkedin等を転々とし、その場で採用される者も居れば、次に行く者も居る。だから、就職活動なんて必要無いんだよ」と、言っていた事だ。

更に
「大学一年の時のインターン採用の時点で、彼らは既にプログラムが組める。米国でエンジニアを志望する学生は、高校の時から、大学でインターン採用される事を目標にしてプログラムの勉強を始める。勉強というよりは”好き”で夢中になっていく、そんな奴がゴロゴロ居て、はれて大学生になりインターン採用される」

これを聞いて愕然とした。仮に高校1年の頃からプログラムを学び、大学で社会人に混ざって実戦経験を積む。仮に日本と同じように、高校3年、大学4年という時間を過ごして、社会人一年目になったと仮定すれば、社会人一年目の時点で、7年ものプログラム学習の差が付いているのだ。(日本では新卒になって初めてプログラムの勉強を開始する人が多いのでは無いだろうか)

恐らく海の向こうでは、「プログラムの勉強」をするために「スイーツ」を求めてやってくるエンジニアは、少ないのでは無いだろうか。

■「楽しい」を共有する事は良い事。しかし、馴れ合いからは何も生まれない
勉強会をする目的には色々とあり、勿論、「ワイワイがやがや」遊ぶ勉強会があるのは何ら問題無いと思う。しかし、今回の記事は残念で仕方がなかった。

2000年の頃のITバブルの事とことなり、国内のIT産業は体質転換に迫られ、エンジニア一人一人が、3年後、5年後の自分を見据えて「どうなっておくべきか」を本当に考えておかないと、危険な状況になっていると感じている。「スイーツが無い」という理由で「勉強出来ない」という人たちが生き残っていられる程、甘い状況では無くなってきていると思う。

そんな状況下で「エンジニアの明日を先読むニュースマガジン」という触れ込みのエンジニア向けのサイトが、今回のような記事を特集していた事に本当に残念に感じる。

これは、私の個人的な思いであるが、勉強会を主催する力のある人は、ある程度影響力を持っている事が多いのでは無いかと思う。主催者自身が素晴らしいエンジニアであり、あなたに憧れて集まってきた人たちなのだから、その集まってきた人たちの三年後、五年後のことも考えて、イベントを開催してあげて欲しいと思う。

少なくとも、スイーツが無いと勉強出来ない人や、異性との出会いを目的にした人たちを喜ばせるために、あなたたちの影響力を使って欲しく無いと思う。

国内のIT産業を取り巻く現実は「スイーツ」ほど、甘くは無いのだ。



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プロフィール

大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。