アナログ放送終了とテレビの行方。一視聴者の視点で考える3つの変化

2011年7月24日 1953年から58年に渡って続いたアナログ放送が遂に、その幕を閉じた。

長かったアナログ放送が終わり、新しい時代が幕を開けようとしている。どのような時代が訪れるのだろうか。従来のアナログ波の正当後継機としてデジタルテレビが主流になるのか、それとも、インターネットテレビ、スマートテレビが新たな市場を開拓するのだろうか。

新たな市場に期待を寄せる一方で、国内のテレビ業界には視聴者離れや、広告収入の低下等で閉塞感を感じる。
一視聴者の立場から、そんなテレビの行く末について私の考えを書いてみたい。

■変化する「テレビの存在意義」
アナログ波、デジタル波、インターネットTV、スマートTV、視聴者にとっては「箱の名前」はどうでも良い事だ。視聴者の興味はそこに何を表示するかであり、そこに表示される物が、どれだけ自分達を楽しませてくれるかだ。

私の家にあるテレビという名の「箱」は、DVDプレイヤーでもあり、PS3用でもあり、パソコンの画面を表示する物でもある。この画面を専有しているのは、「テレビ放送」だけでは無いのだ。

そして、更に視聴者はとにかく、自分の自由なスタイルでコンテンツを楽しみたいと思っている。例えばTVゲームだ。家のテレビで遊んでいたものが、携帯端末で遊ぶようになり、それが携帯電話になり、今はスマートフォンや、タブレットで遊ぶスタイルに変わってきている。

コンテンツ提供者側は、そういった「人」を取り巻く技術の進化と、それによって起きるライフスタイルの変化に合わせて、提供する「方法」を変化させてきた。これは、至極当然な事であり、テレビ以外の業界ではとっくの昔に起こっている事だった。

コンテンツ提供者は「きまぐれな視聴者」の気に入るスタイルを見つけ、その形にあった内容を提供していた。しかし、テレビだけは、「放送波」という競争の中には自分達しか居ないという「特権」に守られ、自分達の流儀を貫いてきた。テレビはコンテンツ配信の王様であり、テレビのチャンネルを回せば数千万人に配信出来る。「視聴者が自分達のスタイル」に合わすのが「テレビの楽しみ方」なのだ。

コンテンツがテレビ以外に無い時代ならそれでも良かったが、テレビ以外に「無料」で遊べるコンテンツが大量に溢れる時代にあって、なぜ視聴者はそんな「流儀」を守らなければいけないのだろうか?

テレビという「箱」は、今や視聴者にとって様々なコンテンツを表示するディスプレイとなっている。そして、その何かを表示する「箱」自体も、居間に置くもの、部屋を移動するたびに持ち運ぶ物、外に携帯する物と多様性に飛んでいる。

その昔テレビと呼ばれていた「箱」の存在意義は、視聴者の間では20年前と今では、大きく異なっているのだ。

■変化する「番組の見方」
「あと、三分したら始まるね~」。10年も前なら、見たい番組が始まるのをテレビの前で心待ちにする光景も珍しく無かったかもしれない。こういった「お行儀の良い視聴者」に対して、旬な芸能人を使ってテレビ雑誌やCMで視聴者の「見たい」という気持ちを煽り「今か、今か」と番組が始まるのを心待ちにさせる。そういった「お行儀の良い視聴者」が、番組を冒頭から、終了までCMも飛ばさずに1時間きっちり見てくれる。

これがテレビ局の考える理想の視聴者像では無いだろうか。「昔は良かったな」と思う人も居るかもしれないが、残念だが、もう、そんな時代は来ない。

これからは視聴者は60分の番組を冒頭から見るのでは無く、3分31秒の「話題になっているシーン」から番組を見始める。そして、そのシーンが面白ければ、それ以前の内容に遡り、冒頭から見始めるのだ。

テレビ側が期待する「番組の見方」なんて、視聴者はもうしない。そして、番組を見るきっかけを与えてくれるのは、新聞や雑誌では無く、ソーシャルメディアや、周囲からの口コミだ。「あのシーン見た?」だ。それが、視聴者がシーンを見るきっかけになるのだ。

そういった視聴者の視聴スタイルに合わせるなら、「番組を切り貼り」して、楽しめる提供方法を考える必要があるだろう。番組の好きなシーンを切り出して、友達に送付したり、動画サイトにアップロードする。そこで「いいね」で共有したり、コメントを書いたり、番組をみんなで楽しむ。そして、気に入れば全編視聴する。そんな楽しみ方が「今風の視聴者」の視聴スタイルだろう。

「なんて便利!」と思われるかもしれないが、コンテンツ課金型の海外では別に珍しくは無い手法だ。日本の特殊な放送事情がそうなる事を拒んでいるだけなのだ。

文化や放送事情が異なる海外の文化をそのまま持ち込んだ所で成功するかどうかはわからない。しかし、何故そういった手法が海外で登場しはじめたのかを良く考える必要があるだろう。「視聴者の望む視聴スタイルに答えた」結果そうなったのであり、それはソーシャルメディアが普及し、バイラルによって人々がコンテンツに辿り着く傾向がある事に気づいたからだろう。

そして、このスタイルのポイントは、「コンテンツの質」が悪ければ、全編見て貰えない事だ。運良く話題になったとしても、話題になったシーンだけを見られて、残りの59分は見られる事は無いだろう。力を入れるポイントが番組宣伝とタレント集めでは無く、「番組の質」を向上させる、そういった発想の転換が必要になるだろう。

■変化する「スポンサー」
「番組の合間にCMを挿入する」このやり方はもうこれからの時代には通用しない。技術の進歩は「CMカット」という技術を生み出し、録画番組から事実上CMをカットする事は可能だが、大人の事情で自動では実行されていないが、本音を言えば視聴者の大半はCMなんて見たく無いと思っている事だろう。万が一CMが目に映ったとしても「CM」というだけで、心には響かない。そんなCMに対する負のブランディングが出来ているのでは無いかと感じる。

それ以前に広告出稿側としても効果測定の出来ない「視聴率」という大雑把な指標に対して、現時点でも通用しなくなってきているのでは無いだろうか。

CMという枠を設けるのでは無く、例えば番組中にNikeの商品を羽織った主人公が活躍し、「主人公と同じ物が着たい」そんな気持ちにさせる、シーンに溶け込むCMの作り方が重要になるだろう。グローバルにコンテンツを流通させて行こうとするなら、違法コピーの問題も考慮しなければならない。こういった手法なら、違法コピーされても見られた分だけ認知度向上には繋がる。

そして、製品個々のPRよりは、番組というコンテンツを通して、ブランドイメージ、認知度アップに繋げていくことがスポンサーにも重要になっていくのでは無いだろうか。「お金を出して終わり」では無く、共に番組コンセプトに共感し、クオリティを上げていく。そんな関係を構築する必要があるのでは無いだろうか。

更に大切な事は、従来のスポンサーと共に、自分たちの本当のスポンサーは視聴者であるという視点に立ち返るべきだろう。従来のスポンサーから制作費は負担して貰うが、それ以上の収益は「視聴者」から回収する。スポンサーの顔色を伺い、スポンサーが納得すれば収益に繋がっていた時代とは違う、「普通の商売」の感覚を取り戻す必要があるのでは無いだろうか。

■テレビは誰のもの?
私の周辺のマスメディアの方々とお話していると、テレビの将来について本当に真剣に考えられている方がたくさん居る。皆さん大変勉強家であり、ソーシャルメディアやスマートテレビに対しても非常に詳しい。

しかし、ふと時折疑問に感じる事があるのだ。

「テレビは誰のもの?」という問に対して、一体どんな答えが返ってくるんだろうと。
テレビ局の物だろうか?広告会社の物だろうか?それとも視聴者の物だろうか?

誰の物と考えているかで、そこに表示されるコンテンツの内容は変化するだろう。昨今のテレビ離れに嘆く原因の多くは多様化するコンテンツと、細分化する市場の原因は大きいだろう。しかし、番組を作る側が「誰が見ているのか」が分からなくなってきているのであれば、その影響は小さく無いだろう。

もし、テレビというコンテンツが終わりだというのなら、それはアナログ波の停止や、スマートテレビ等の技術の変化では無く「テレビを見ている人がだれなのか」わからなくなってしまった原因にあるのでは無いだろうか。

そしてもし、幸いな事に「テレビという物が視聴者の物」だという案が出たなら、その視聴者がテレビに求めている物は何かを、ほんの少し考えてみて欲しい。

そして、私はこう思う。「勿論テレビは視聴者の物だ。視聴者が望むものを望む形で提供しているだけだ」と自信を持って笑って応えるのが、GoogleでありAppleであり、Netflexだと。もし、彼らが日本に上陸し仮に市場の3%を確保したとしよう。国内の放送関係者にとっては「たった3%取られただけ」かもしれないが、彼らにとっては「3%の新規開拓」だ。この意味の捉え方の違いは大きい。

そして、私はこうも思う。
国内の放送関係者の多くは、「本当は自分達が何をすべきかを知っている」。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。