専門家からスーパージェネラリストが求められる時代

翔泳社さんが経営層向けに発行している情報誌「ITイニシアティブ」の最新刊に、「スマートデバイスとクラウドの普及がワークスタイルを変革する」を寄稿させて頂きました。執筆陣には元総務省大臣 原口さんも加わっており、通信担当のSEとしては光栄の極みです。
※ウェブ版の記事はこちら

この記事の依頼があった時、私は常日頃から通信業界の関連している分野に関しては幅広く情報収集することを心がけて居ますから、勿論大変光栄な話なので、快諾させて頂きました。

しかし、世の中には私よりもスマートデバイスについて詳しい方は大勢存在する筈です。そこでふと考えてみると、私に対してスマートグリッドに関する書籍の執筆依頼もあったし、ソーシャルメディアに関する書籍も先日二冊発売しました。特に私は各々のジャンルに対して「専門家」と言える状態では無いにも関わらず、です。

良く考えてみたら、テレビのチャンネルでも「何かの解説をする」のは、今はもう専門家では無く「池上彰さん」になっているなとも気づきました。

■世の中の情報に求める「価値」の対象が変わってきた
 ・速報性から、まとめ記事が求められる時代
 ウェブ媒体の登場した時から、速報性では新聞もテレビもウェブには叶わないと言われて居ました。徐々にではあるものの、ウェブ登場以降、紙媒体からウェブ媒体へのシフトが動き出し、先行する米国では新聞という紙の媒体は、もはや風前の灯と言われています。
 ウェブ媒体が変えた物は、速報性のみならず、メディアの情報流通量コストを大幅に下げる事にも貢献しています。そのため、参入障壁が低く競争の激しい世界でもあります。最近では、ソーシャルメディアも加わり、ニュースを伝えるのは、メディア企業が報道する情報サイト、ブログ、Twitterと、ありとあらゆる手段で情報が流通し、最早誰でも情報を発信する時代になりました。

 こんな時代になり、単に起きた事象を伝えるだけなら、ニュースのソースさえ持って居れば誰でも出来る時代が訪れました。そして、誰かが一次ソースとして発表しても、数十分も経てば同じような内容のニュースは至る所で見かける時代になりました。

 誰でも簡単に出来てしまう事なら、それは必然的に価値は低下します。速報性は既に価値という点では、一部の重要な情報を除いては、大半が価値が無いのでは無いかと感じます。

 それよりは、一次情報から数日程度遅れても良いので、一つの事柄に対して言及している情報をまとめ、大きな塊として解説してくれる媒体が求められているのでは無いかと感じます。

 ・専門知識から、咀嚼力が求められる時代
 私が良く執筆を依頼される時の要求事項に、分り易く書いて欲しいと求められる事が多くあります。私自身も何かを書くという事は、自分のために書くのでは無く、伝えるために書くのだと思って書いて居ますから、読み手に伝わるように意識しています。専門的な言葉を羅列すれば「知性の高い人だ」と感心されるかもしれませんが、読んで貰った人が理解出来ているかというのは違うと考えています。

 「専門知識のある人の難しい言葉」より、「自分達に分り易く伝えてくれる人」を求めているのでは無いかと感じます。

■ビジネスモデルの変化がスーパージェネラリストを必要としている
専門家の方の知識は、狭く深くの特化型ですが、最近起きている物事を理解するのに、「広く浅く」知る力で全体像を掴む事が重要なのでは無いかと思います。

 例えばソーシャルメディアです。TwitterやFacebookの個々のサービスに精通しているだけでは、ソーシャルメディアというものを理解しているとは言えないのでは無いかと感じます。ソーシャルメディアというプラットフォームが有り、その中のサービスの一つにTwitterや、Facebookが有り、それを広告に利用する広報の方、メディアとしての価値の模索を続けるメディアの方、ソーシャルゲームで一儲けしようとしている開発者の方、などなど、様々な業界や、色々な思惑のある方々が関連しています。どれか一つの業界視点だけでは、全体像を掴む事は難しいでしょう。

 スマートフォンについてもそうです。日々発表されるスマートフォンの新機種やアプリケーションだけに心踊らすだけでは、その背景にあるビジネスオポチュニティに気付く事が出来ません。スマートフォンが従来あったものをどのように変え、これからどういった方向性に進むのかを考えるには、メーカの動向や、通信事業者の戦略だけを見ていたのでは、予測出来なくなってきていると感じます。今まで主役だったプレイヤー以外の業種が、新たな市場を作っていくのでは無いかと感じています。

 そして、一見関係の無さそうに見えるソーシャルメディアは、スマートフォンを扱う通信事業者にも大きな影響を与えます。何故ならソーシャルメディアの生み出すトラフィックは、通信事業者の設備投資に大きな影響を与えます。Facebookが流行し、Facebookのトラフィックが増加したからといって、それに合わせて設備投資を行うのが大切なのか?それとも、一過性のブームと考えるべきなのか?物事は以外な所で、繋がって来る事が多いのです。

 最近世の中を賑わしている様々なキーワードに大して、特定部分について精通しているだけでは、通用しなくなってきているのではないかと感じます。 流行しているサービスや、製品一つ一つに精通し、そこで成功することを考えるより、それらを取り巻くエコシステムに気付き、エコシステムの中でどうやって生存して行くかを考える事が重要なのでは無いかと感じます。

 反対の見方をすれば、専門領域に特化しすぎると、複雑に絡みあうエコシステムが見えず、将来予測や、これから求められるサービス等を考える事が難しくなってきているのでは無いかと考えています。全体を見通す事で、より的確な答えを導き出す事が出来るのでは無いかと思います。

■情報の価値の変化と、ビジネスの変化が新たな語り手を求めだした
 そして、こういった状況にある現在のビジネスについて、記事を書いたりする場合には、細かい情報を速さを競って発信するより、複数の関連する情報をまとめて発信する力、全体像を咀嚼して説明する力が求められているのかなと思います。

 こういった状況を創りだしたのは池上彰さんの力が大きいかなとも思います。専門家が語るより、わかりやすく伝えた方が、受けるということを証明したのですから。

 ジェネラリストなら単なる浅く広く知っているだけの人で終わりますが、そこにプラスして、全体像を掴む力、それを誰かに分り易く伝える能力が加わると、スーパージェネラリストになるのかなと考えています。そして、メディアの方々はそういった語り手や書き手を探しだしているように感じます。

私自身もスーパージェネラリストを目指しつつ、各論が求められる部分では専門家になれるように目指していきたいと思います。
 ※この記事は2011年4月9日にITmediaオルタナティブブログに掲載された内容に一部修正を加えた物です。

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    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。