インターネット3.0 – 変化の兆候 – ② FCCとCP

前回のでは、FCCと通信事業者という関係について記述しました。
今回はFCCとコンテンツプロパイダーの関係を記述します。

■蜜月の中のFCCとCP■
蜜月…とまでは言い過ぎかもしれないが、少なくとも「FCCと通信事業者/ISP」という関係よりは、ずっと両者の関係は良いだろう。何故なら、オープンネットワークを望むFCCと、インフラの性能や不公平によって、自社のイノベーションを阻害されたくないCPと方向性は一致している。

両者の望みは、インフラがより高速になり、常にオープンで中立なネットワークであり続けてくれる事だけだからだ。
2009年10月19日にAmazon.com、Google、eBay、Facebook、Twitter、Skype、Tivo等の世界のCPを代表するCEO達は、共同署名した声明文をFCC宛に発表している。

「ブロードバンド・プロバイダーが特定のWebコンテンツやアプリケーションを選別して遮断したり、低速で伝送したりすることを禁止するネット中立性ルールにより、インターネットでは、どの商品が成功あるいは失敗するかが消費者の選択によって決まるようになる。そうなれば、小規模な新興企業から大企業まで、あらゆる規模の企業が競争できるようになり、経済成長とチャンスが最大化される」

CPの中でもGoogleは特にオープンネットワークに強い拘りを持ち、自らも果敢に行動を起こしている。

■オープンネットワークを自ら推進するGoogle■
Googleは様々な技術と策を駆使して、ネットがオープンである事を維持するために尽力している。

 ・ISPのP2P帯域規制状況を診断するツールを提供
  GoogleはMeasurement Lab(M-LAB)という機関に対して資金とサーバを提供している。M-LABは15箇所に設置された45台のサーバで構成されている、ネットワーク診断ツールだ。ユーザがこのツールを利用する事で、P2P規制や、過渡なトラフィックを発生させた時に、自分が契約しているISPがトラフィックを絞るような仕組みを組み込んでいないかをテスト出来る。言わば「オープンでないネットワークを検出する」ツールだ。ISPが新しい帯域制御装置を取り入れる度に測定ツールが開発され、現在もnanoと呼ばれるツールが開発中で公開されている。

  Network Diagnostic Tool
   ネットワークの帯域幅、パケットロス値、遅延等様々な実測値を測定。
  Glanost
   ISPがBitTorrentに対する帯域制御を行っているかを測定。
  Network Path and Application Diagnosis
   エンドユーザのPCのパフォーマンスも含めたラストマイルのネットワーク診断を行う。
  Pathload2
   1TCPストリームによるUPload、Download速度を測定。
  ShaperProbe
   トラフィック転送量を一時的に低下させる「シェイピング」と呼ばれる技術が利用されていないかを測定。
  nano
   ユーザ、アプリケーション、宛先ネットワークに対する帯域制御が実行されていないかを測定。

 ・700Mhz帯オークション時のオープンプラットフォーム条件の請求
  700Mhz帯オークションとは、LTE等の次世代モバイル通信において最も有利な周波数帯と呼ばれている「700Mhz帯の利用権」を巡る競争であり、この周波数帯を手に入れる事は米国市場における次世代モバイル通信において非常に有利になる事を意味する。
  Googleはこちらにあるように、この700Mhz帯の落札者に対して、以下の4点を考慮したオープンなプラットフォームを実現するための、オープン・アクセス条項をライセンス条件に盛り込むことをFCCに求めた。

  - 消費者は任意のソフトウエア、アプリケーション、コンテンツをダウンロードあるいは利用することが可能
  - 消費者は任意の通信デバイスを用いて自身が望む無線接続手段でアクセスすることが可能
  - サードバーティー(リセラー等)は、700MHz帯ライセンシからホールセール・ベースで帯域を購入することが可能
  - サードバーティー(ISP等)は、技術的に可能な任意のポイントで、700MHz帯ライセンシのネットワークに接続することが可能

  この条件に従えば垂直統合モデルと呼ばれるビジネスモデルを実行する事は出来ない。端末はSIMフリーとなり、携帯電話上のアプリケーションの実行もキャリアは関与する事が出来ず、水平モデルのビジネス展開を余儀なくされる。

  だが、このオークションでGoogleは落選する。しかし、通信業界の間では、Googleにそもそもオークションで落札する意志は低く、オープン・アクセス条項をライセンス条件に盛り込む戦略であったと言われている。そして、見事このライセンス条件の含まれた周波数帯はVerizon Wirelessが96億3000万ドルで落札。Googleは$1も支払う事なく、700Mhzのオープンプラットフォームを手に入れた事になる。その後暫くして、皆さんの記憶にも新しいSIMフリーのGoogle Nexusが発売された。このオークションの真の勝者は落選したGoogleでは無いだうか。

 ・1Gbpsブロードバンド計画の発表
  私が以前書いた Google ブロードバンドサービス参入の目的と影響を考察する でも紹介した通り、2010年2月10日Googleが1Gbpsによるブロードバンドの試験提供を開始すると表明した。
  詳細については過去の記事をお読み頂きたい。重要な点は、このGoogleの1Gbpsブロードバンド計画の真意は既存の事業者に対する牽制目的であると考えられる点だ。

このように、GoogleはISP/キャリアによるトラフィックコントロールを検出するツールの研究、モバイルキャリア、固定キャリアに対するプレッシャーをかけ、オープン・ネットワークを維持するために尽力している事がわかる。

■CPはなぜオープンネットワークに拘るのか■
 CPがどれ程素晴らしいコンテンツを作ったとしても、CPとユーザを繋ぐISPやキャリアのアクセス回線で自分達のアプリケーショントラフィックを遮断したりすれば、CPはコンテンツをユーザに届ける事が出来ません。

 そんな事をISPやキャリアがするわけが無いとお考えになるかもしれないが、最も有名な事例は前回も紹介した「コムキャストによるP2Pトラフィックに対する操作」であり、ISPによる特定のアプリケーションに対するトラフィックコントロールは既に発生している。この時のコムキャストの行動はあくまでも、自社のユーザの利益を守るために行った措置ではあるが、CP側にとって、ISPの判断によって特定のアプリケーションに対するトラフィックコントロールが許される事になれば、いつ自分達が提供するアプリケーションにも制限がかかるかわらない。

 ISPが提供しているコンテンツと競合するようコンテンツをCPが提供した時に、トラフィック転送速度に差をつけられれば、「道路」を提供しているISPのコンテンツの方が絶対的に有利な事は明白だ。

 CPにとって、インターネットがオープンである事が義務づけられるという事は、「安心して商売を続けていける」という事に保証を得る事に他ならない。逆にこれが保証されないのであればCPはいつISPやキャリアによって廃業に追い込まれるかわからない。

 想像してみて欲しい。どれだけGoogleが世界中のユーザから支持されていたとしても、全世界のISPがGoogle宛のトラフィックを止めてしまったとしたら?どれだけユーザが望んでもGoogleのサイトへアクセスする事は出来ない。そうなってしまえば例えGoogleといえどもインターネット上でビジネスを継続していく事は不可能だろう。

 ※この記事は2010年3月11日にITmediaオルタナティブブログに掲載されたものです。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。