ドラゴンクエスト10の発表と、失望に満ちたファンの声。しかし、それでも私は期待したい。

2011年9月5日 「ドラゴン・クエストX(10) 目覚めし五つの種族 オンライン」の発売が発表された。
 公式サイト http://www.dqx.jp/
 対象機器 : 任天堂 Wii、WiiU
 発売時期 : Wii版 2012年、WiiU版未定
 商品価格 : 未定(継続利用料金が必要になる模様)
 ジャンル : オンラインRPG

■熱気に包まれた発表から失意の底に変わった
 14時から行われたUstreamによる発表会では三万人近くが視聴し、注目度の高さをうかがわせた。しかし、ゲームデザイナーの堀井雄二氏が、今回の10はシリーズ初のオンライン対応作であり、「仲間も村人も実際の人間になる。キャラクターの暖かさが伝わるものをつくろうと思った。『ドラクエ』の進化系の一つと思っていただければ」と力を込めて説明すると、ネット上では失望の声が多く出た。

 スクエアエニックスの株価も急落し、9月2日の1805円から、9月6日現在で1565円と、14%近く下落している。

■不評の原因
 不評の原因は大きく3つあると考えられる。

 1.オンライン前提であること
 オンラインが前提となることでインターネットにWiiが接続されていることが前提となる。一般家庭がインターネットに接続されているのは極当たり前だと思われるが、Wiiがインターネットに接続されているかというとまた別の問題である。ライトユーザ層の多いWiiのユーザにとっては、障壁となることも予想される。
 
 2.MMORPGであること
 2つ目は今回のドランゴンクエストXがオンライン上で複数のユーザが集まってプレイするMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)と呼ばれるジャンルであることが挙げられる。
 ドラゴンクエストシリーズは、一人でじっくりと、その作りこまれた世界に入り込み、勇者となり世界を救う。旅の途中で様々な仲間と出会い、共に戦い、新たな発見をする事で少しずつ物語が進んでいく。作りものの世界であるが、その絶妙なバランスが、プレイヤーをドラゴンクエストの世界に引きこんで行った。
 これがMMORPGになることで、勇者は自分一人だけでは無くなってしまう。勿論、大勢の現実の「人間」とパーティを組み、共に戦う楽しみは勿論あるだろうが、今までドラゴンクエストの世界観が好きだったファンには、「期待」よりも、ドラゴンクエストの世界が崩れてしまうような「不安」が大きかったのだろうと考えられる。

 また、MMORPGの特徴として、長時間遊べる代わりに、時間短縮のために経験値やアイテムを実際のお金で購入し、プレイの時間を短縮させる課金タイプのシステムを取るものが多く、無料で遊ぶことも出来るが、これらの課金アイテムを購入しなければゲームの攻略が中々出来ない仕組みになっている。そのためMMORPGでは長時間を費やしたユーザ、あるいは大量に課金したユーザがゲームを有利に進められるのが一般的だ。こういった従来のMMORPGの仕組みがドラゴンクエストの世界観に合わないのでは無いかと不安に感じるユーザの声も多いようだ。

 3.コンソール機用であること
 不評の原因の3つ目は、対応機種だろう。以前からWiiで発売されるという噂はあったものの、時代は「ソーシャルゲーム」を中心としたスマートデバイスに移ろうとしている。今更「コンソール機か」ということに失望を覚えたユーザも多いのでは無いだろうか。実際、私もその一人だ。家庭にそもそもWiiが無いのも理由の一つだが、仮にあったとしても、もう自宅のWiiの前で何時間もじっとしている姿が想像出来ない。せめてDSのように外に持ち運べる携帯機ならプレイしようかとも思うが、据え置きタイプのゲーム機では、ちょっと気が引けるというのが正直な感想だ。

以上、上述した三点から
 1) Wiiを持っているユーザの中でもインターネット接続が可能なユーザに販売対象が限定される。
 2) MMORPGのシステムが、従来のドラゴンクエストの世界観に馴染まない
 3) 現在のゲーム業界の売れ筋では無い
ファンと、投資家が共に「不安」になり、株価下落、不評を招く結果になっていると考えられる。

■堀井雄二氏とゲーム
しかし、それでも私はドラゴンクエストXに期待している。それは他でも無い、堀井雄二氏の作品だからだ。私は小さい頃から氏のファンで、古くはポートピア連続殺人事件から、オホーツクに消ゆ、軽井沢誘拐案内を経て、小学生に入学した頃、初めて「ドラゴンクエスト」に出会った。その時初めてプレイしたRPGというジャンルに、私は夢中になった。

このファミコンで初めて登場した本格的RPG「ドラゴンクエストI」には、堀井裕二氏のこんなエピソードがあったのだ。

 当時は、ファミコンゲームもアクションが主流。「文字が出てきて、自分が動けてというRPGを出しても、何をどうしていいか分からないだろう」――アクションゲームしか知らないユーザーに、RPGは難しいと考えた。

 アドベンチャーゲーム「ポートピア連続殺人事件」ファミコン版は、初代ドラクエ発売の前段階として、ファミコンユーザーに、「文字が出るゲーム」に慣れてもらおうと作ったものだったという。
 引用:「ポートピア」は「ドラクエ」の前フリだった 堀井雄二氏のゲーム哲学

「当時、海外で流行していた「ウルティマ」「ウィザードリィ」といったRPGの面白さを日本のゲームにも知って貰いたい」。しかし、そうするためには、ゲームで「物語」を楽しむことに慣れていない日本のゲーマに、まずはゲームを楽しんで貰う下地を作らないといけない。そこでいきなりRPGをリリースするのでは無く、操作の簡単なアドベンチャーゲームで「物語」に慣れて貰った。

このエピソードから分かることは、堀井裕二氏とは、単なるゲームデザイナーでは無く、日本のゲーム業界の「開拓者」なのだ。そんな堀井裕二氏がMMORPGに挑戦する。従来のMMORPGのイメージを払拭する「暖かい」新しい遊び方を提案してくれるんでは無いだろうか、私はそう期待している。

■ゲーム業界の未来を考える点でも注目されるドラゴンクエスト10
今、ゲーム業界は揺れている。昔ながらのゲーム作りを得意とする任天堂が赤字になり、ソーシャルゲームを得意とするDeNA、GREEが絶好調なのだ。

言葉は悪いが、時間を掛けて如何にユーザに楽しんで貰うかを考えて丁寧に作りこまれたゲームより、如何にゲームに夢中にさせ「マネタイズ」するか?を考えたソーシャルゲームの方が数倍儲かるのだ。

丁寧に作り込むためには開発費も高騰する。高いものでは10億を超えるものもざらである。しかし、大半がフィーチャーフォンやスマートフォンの小さい画面と、スキマ時間に遊ぶ事を前提とされたソーシャルゲームは、制作費も数百万~数千万程度で、制作費も安い。それでいて、収益率はソーシャルゲームの方が高く儲かるのだから、ゲームを「ビジネス」として考えれば「ソーシャルゲーム」の方が当然魅力的だ。

ユーザに楽しんで貰いたいと考えるゲームパブリッシャーや、デザイナーはパッケージ型のゲームを丁寧に作りたいと考えるが、ビジネスとして考えれば「ソーシャルゲーム」の方が儲かる。ユーザの満足か、ビジネスかを天秤に掛け、多くのゲーム関係者が日々悩んでいる。「ソーシャルゲームの収益率の高さと、ゲームとしての楽しさ」、この2つをどうすれば実現出来るのかを日々模索し、答えが出ない状態となっている。

MMORPGというジャンルになる事で、ドラゴンクエストは「ソーシャルゲーム」に片足を突っ込んだ状態となる。ドラゴンクエストというブランドが「マネタイズ」に傾倒していくのか、それとも、ソーシャルゲームの良さと、従来のゲームの良さを兼ね備えた、今後の「ゲーム」のお手本となってくれるのか。

日本のゲームシーンを支えてきた堀井裕二氏が、新たな一幕を切り開いてくれることを、多くのゲーム関係者は望んでいることだろう。

■ドラゴンクエスト11への期待
まだドラゴンクエスト10の正式な発売日も決定していない中で、気が早いが、ドラゴンクエスト11には、次のようなことを期待したい。

 ・マルチデバイス対応
 エニックス時代から、ドラゴンクエストは「最も売れているハードに提供する」というのが伝統であった。ドラゴンクエスト11の発売が仮に3年後だとしたら2015年になる。2015年に最もゲーム機として世界的に普及している機器は何だろう?恐らく、PS3でもWiiでも無く、「スマートデバイス」では無いだろうか。

 いや、もっと極端な事を言えば、HTML5が動作する「全ての機器」という事になるかもしれない。PCは勿論、スマートフォンでも、タブレットでも、ひょつとしたらスマートテレビでも動作するような、ネットに繋がる環境さえあれば、いつでも、どこでもプレイ出来る、時間や場所に縛られないスタイルを実現して欲しいと思う。

 そうなることで、忙しい大人も、時間のある子供も一緒になって遊ぶ事が出来る。今や誕生から25年を迎えた「ドラゴンクエスト」は世代間を超えて楽しめる、数少ない娯楽の一つとなっている。親子揃って一緒にクエストに行くようなことも夢では無いだろう。

 ・世界同時リリース
 コンソール機器にこだわらないのであれば、世界で同時にプレイすることも簡単なことだ。「ドラゴンクエスト」という世界観を世界中の人と冒険することが出来る。
 チャットによる言葉の会話だけでなく、アイコンやしぐさによる会話も取り入れれば、言葉がわからなくてもある程度のコミュニケーションを取る事は可能だろう。

 住んでいる地域によって、選択出来る部族が異なる等の制約があれば、クエストによっては、異国の人とパーティを組む必要も生まれ、ゲームを通して異文化交流が出来るのでは無いだろうか。

長々と書いてしまったが、ゲームというものを良く知り、ゲームという「文化」を育ててきた堀井裕二氏なら、現状のソーシャルゲームに傾倒しつつある、ゲーム業界の課題は良く認識していることだろう。そんな氏のことだから、きっとネット上の失望の声に対しても「良い意味で」裏切ってきてくれるでは無いかと思う。

最後に氏が同発表会で語った印象的な一文を紹介する。

「コンピュータの世界は冷たいイメージがあるので,DQではあたたかい世界を作ろうとしてきた」

氏がこのように考えている限り、「マネタイズ」に傾倒したドラゴンクエストが誕生することは無いだろう。



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プロフィール

大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。