デザインの力で新聞を復活させた男。ジャチェック・ウツコ

デザイン。今、これほど重要だと考えられる要素は他に無いのではないだろうか?優れたテクノロジーを使い、優れた素材を使い、優れたアイデアを使ったとしても、優れた製品は瞬く間にソーシャルメディアの波に乗って世界中に広まり、ほんの一瞬輝きを見せた後、コモディティ化の波に飲まれ、多数の中の一つになってしまう。

インターネットの普及と共に加速したデジタル化の潮流は、あらゆるコンテンツを限りなく「Free」に近づけ、一生かけても消化しきれない情報の波に人々を包み込み、あらゆるコンテンツが人々の時間を奪い合っている。

値段も無料、際限なく溢れるコンテンツを前にして、私たちは商品やコンテンツを選択する時に何を重視するでしょうか?そう、私なら「デザイン」が大きな決定要素になると考えます。

今回はデザインの重要性を理解する話を一つ紹介します。

■デザインで新聞を救った男
「世の中のニュースを伝える」ことを目的として400年以上の歴史を持つ「新聞」。活字を中心として、ニュースを伝えるという特徴ゆえに同一の地域であれば、それほど特色の出ない媒体でもあります。そのせいか、「ニュースを伝える」という役割はインターネットへとシフトし、世界中で新聞の売上は右肩下がりを続けています。

そんな先行きの見えない「新聞業界」で「デザインが新聞を救う」と主張し、見事購読数を100%増加させたポーランドのデザイナー ジャチェック・ウツコ氏を紹介します。
 ※TEDのジャチェック・ウツコ氏の講演ビデオ

新聞を救うすべき手段はあるか?様々な意見があるでしょう。
ある人は言います。「無料であるべきだ」と。そして、様々な意見があるでしょう。
 - タブロイド版かもっと小さいA4サイズがいい
 - コミュニティ毎に発行する地方紙がよい
 - 小さなビジネスなどニッチを狙うべき
 - 新聞は意見主体であるべきだ
 - ニュースは少なく、見解を多く
 - 出来れば朝食の時に読みたい

それぞれに良い所はあるでしょう。しかし、このどれも時間稼ぎに過ぎません。長い目で見たときに、「今の新聞」である限り、生き残る意味は無いと思うからです。

そこで、私達に一体何が出来るでしょう?

私は新聞のアートディレクターです。
ある日、祖母にこう聞かれました。
 「お前は何で生計を立ててるんだい?」
 「新聞のデザインだよ」
 「新聞なんてデザインするものなんて無いじゃない、あるのはつまらない活字だけ」
 私は笑うしか無かった。彼女は正しかった。私は常にフラストレーションを貯めていました。

そんな時、私はシルクドソレイユのパフォーマンスに出会いました。そのショーを見た時、私はかつてない衝撃を受けました。「こいつらは、サーカスみたいなくだらない”見世物”を”最高のパフォーマンスアート”に仕立て上げた」と。

そこで、私は思いました。「つまらない活字だけの新聞でも同じ事が出来るかもしれない!」

そして、私はすぐさま実行にとりかかりました。一つ一つデザインし直したのです。そうあのつまらない活字だけらけの新聞をアートにするために。

私たちは一面を特徴づけるようにしました。チームワークや共同作業なんて言うつもりはありません。私の考えは利己的でした。私はアーティストとして主張したかった。
そう、私が作りたかったのは新聞ではなく、ポスターでした。

雑誌でも無い、写真でも無い、ポスターです。私は字や写真にもとても気を配りました。
そして、それらはすぐに結果をもたらしました。ポーランドでは私達の作品は「Cover of The Year」に3年連続選ばれました。

でも、私達の本当の秘密は新聞全体を作品として扱っていた事。そう、ポスターは一面だけでは無かったのです。新聞全体をまるで楽曲のようにデザインした。

音楽にはリズムがあります。そして、紙面にもリズムがあるのです。デザイナーはデザインで、これを読書に体感させる責任があるのです。読書はページをめくりながら、様々なリズムを感じる。私はその体験に責任を持っているんです。

我々は見開き2ページを1つのページとして捉えました。何故なら読書はそう感じるからです。

そして、私達の新聞はニュースデザイン協会から「世界一素晴らしいデザインの新聞」と謳われるようになりました。

その後、新聞の発行部数はどんどん増えました。
 - ロシアでは一年後に11%増、更に三年後には29%増
 - ポーランドも同様、最初の一年で13%、三年後には35%増
 - 最も凄かったのはブルガリアで100%増加した。

   

何年も停滞を続けた新聞は、デザインを変更した後で発行部数はグングン上昇するようになりました。

しかし、紙面のデザインだけがこれを成し遂げたのではありません。紙面のデザインはプロセスの一環に過ぎません。我々のデザインは、外見を変えるだけでなく、新聞という商品そのものを改良する事でした。私は建築における機能と形式の鉄則を新聞の内容とデザインに応用しました。更にその上に戦略を載せました。

そして私は気づきました。デザイナーは新たな役割としてプロセスの最初から最後までに関わらなければならないんだと。

これらから得た私の一つ目の教訓は、
 デザインとは商品を変えるだけでなく
  ワークフローも変えられる
  会社の全てを変えるられる
  会社をひっくり返す事が出来る
  あなた自身も変えてしまえる
 
 誰のせいかって?そう、「デザイナー」です。

 だから、もっとデザイナーに権限を与えて下さい。

でも、二つ目の教訓はもっと重要です。
私のように貧しい国に住み、小さな会社のつまらない部署で働きながら、予算も何も無い所でも、それでも「自分の仕事を最高レベル」に持って行くことが出来ます。

誰でも出来るんです。必要なのは、閃きと、ビジョンと、決断力だけです。
そして、「ただ良い」だけでは足りないと覚えておくことだけです。

ありがとうございました。

■所感
私はデザイナーでは、ありませんが、最後の部分にとても感動しました。サラリーマンとして働いていると、どうしても会社や部署が悪いであったり、予算が無いから、、、とつい口に出してしまう事はきっと、誰にでもある事なんじゃないかなと思います。

しかし、常に自分自身が「閃きと、ビジョンと、正しい決断力を持っている事」これは誰のせいでも無く、自分自身の事だという事。「ただ良い」だけでは自己満足。何かをするためには、戦略があり、誰のために、何のためにするかが企業の方向性と一致していなければなりません。

これは、デザイナーでなくても、SEにも当てはまる事では無いかと、どんなに酷い環境であったとしても、自分の仕事に誇りを持ち続ける事は出来る。そして、そう思って働く事が大切なんだなと感じました。

■ジャチェック・ウツコ氏のデザインした紙面等
 http://www.utko.com



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。