「バルス」騒動に見るテレビの終焉とソーシャルメディアの偏向性

昨日、「天空の城ラピュタ」が放送され、すっかり定番となったTwitterによる「バルス」騒動が二年ぶりに発生した。二年前と比較してTwitterユーザも増加したことから、バルスの呼び声はTwitterの呟き世界新記録を塗り替える程に熱狂した。


このバルス現象を見てテレビ局関係者は「テレビの力凄い!」「テレビは終わっていない!」という声をあげ、ソーシャルメディア業界の者は「テレビとソーシャルメディアの相乗効果」の凄さを口々に語って。しかし、本当にそうだろうか?私には今回の騒動は、テレビというコンテンツの終焉と、ソーシャルメディアの持つ危うさを浮き彫りにする事象に見えた。

■25年前のコンテンツが世の中を夢中にさせる
「天空の城ラピュタ」の公開日は1986年であり、今から25年も前のコンテンツだ。そのコンテンツが今なお語り継がれ、多くの人が夢中になる。「天空の城ラピュタ」というコンテンツの偉大さについて疑う余地は無い。

今回のバルス騒動は「天空の城ラピュタ」という偉大なコンテンツの存在が有り、そこにTwitterと言うコミュニケーションツールが存在し、成し得たものであって、テレビとは単なる器に過ぎない。

Twitterが国内で普及し始めて既に数年が経過した。今までTVを媒介としてここまで盛り上がることが何度あっただろうか?数回程しかなかっただろう。25年前のコンテンツが人々をこれ程までに夢中にさせることを証明し、日々、何千、何万と放送されるTVのコンテンツは私達を夢中にさせることが出来ないと証明した。

■浮き彫りにしたソーシャルメディアの偏向性
天空の城ラピュタ公開時に10歳だった少年は現在では35歳。今回のバルス騒動の中心ユーザは30~45歳位の層が最も多いのでは無いだろうか。この層は日本のTwitterの中心的なユーザ層と一致している。

果たして10代や、20代前半の若者が今回の騒動にどれ程参加していたのだろうか?一部のノリの良いユーザは参加したかもしれないが、何のことかわからないと感じたユーザも多かったのでは無いだろうか。

しかし、この騒動に参加したユーザは「世の中全てがバルスで盛り上がっている」と感じたに違いない。「皆も盛り上がっているよね?」という自分の気持を、確認したいのだろうか、バルス騒動を取り上げたこの記事が3千近くツイートされていた。

「自分も、自分の周りも盛り上がっている、だからきっと世の中全体で盛り上がっている筈だ、ほら、バルスは世界のツイートを塗り替えた!」そんな気持ちになった人も多いのでは無いだろうか。

しかし、例え、あなたのTwitterのTLが「バルス」に染まっても、他の人達のTLがそうであるとは限らない。バルスの放送されていた12月9日は忘年会シーズン真っ最中。世の中の多くの層は忘年会で同僚や、友人達と楽しい祝杯を交わしていたことだろう。

■テレビをハブとした新しい楽しみ方
今回のバルス騒動が、テレビのコンテンツの貧弱さと、ソーシャルメディアの偏向性を証明した一方で、テレビの受信機としての底力と、コンテンツの新しい楽しみ方の一つがあることを証明した。

それは、同じコンテンツを何度も視聴し、ある事象に大して視聴者が参加することの楽しさが、コンテンツを強くするということだ。

今回のバルス騒動は、吉本新喜劇のように、お決まりの前フリの後に、芸人が得意のギャグを披露するのを期待する観客の心境に近いものがあるだろう。何度も同じ物を見て次に何が来るのか分かっている観客達が、そのギャグが披露されると一斉に同じポイントで笑い、場内全てで笑いを共有する。劇場内に一体感が生まれ、冷静に考えればつまらないことかもしれないが、何だか面白いように感じてしまう。

この一体感がコンテンツに力を与えるのだろう。

天空の城ラピュタのバルス騒動は、テレビをハブとして、ある瞬間に起きる事象を皆で楽しみ、共有するという「視聴者が番組に参加する」楽しみがあることを証明した。

今までのコンテンツ、特に映画という媒体は、一度見た物は、価値が低下すると考えられていたが、特徴的なエピソードがあれば、そこに皆で「ツッコム」ことで、何度も楽しむことが出来るようになるということだ。

従来まではその「ツッコミ」は家族や友人という狭いものだったが、ソーシャルメディアの普及のお陰で、楽しいという感覚が増幅されるのだろう。

■コンテンツに力を与えるソーシャルメディア
今回の騒動がどれ程視聴率に影響を与えたかは定かでは無い。恐らくはそれ程の効果は与えていないだろう。視聴率1%向上させるには100万人を要するからだ。良くても1~3%の貢献に過ぎないだろう。

しかし、「天空の城ラピュタ」、「スタジオジブリ」というこの2つには良い影響を与えただろう。今回の騒動で今まで天空の城ラピュタを知らなかった層にもその名前が知られることになっただろうし、その作品を作っているスタジオジブリにも興味が向くようになっただろう。「天空の城ラピュタ」のDVDはアマゾンで64位になっていた。恐らく昨日の騒動が原因で新たに購入した人達も居るのでは無いだろうか。

今後のコンテンツの作り方は、一度見られて終わりでは無く、何度も楽しめる要素が大切で有り、その要素の一つが「経験の共有」であることを今回の騒動は私達に教えてくれた。



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プロフィール

大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。