「見る」から「楽しむ」へと変化する映画。「見せる」にこだわる映画館。

今日は以前から楽しみにしていた、ダークナイト・ライジングを鑑賞してきた。期待通りの素晴らしい映画で、前作までのファンなら見ておいて損は無いだろう。映画自体は楽しかったのだが、あることが気になった。それは、上映までの「宣伝の長さ」だ。

特に驚いたのがトータルリコールの宣伝。「これから5分間トータル・リコール予告編を上演します」という解説が流れるほど長かった。結局20時からスタートの回であったが、本編開始は20時20分となってしまった。20時開始の23時終了の回で三時間の大作かと思っていたら、そのうち20分はCMだったのだ。

■気がつけば映画館の視聴環境が実は一番酷くなっている
実は私はかなりの映画好きで、多いときには月2~3枚位DVDを購入しており、所有DVDも100枚を超えている。今ではHuluに加入しているため、週末ともなればHuluで映画を2~3本見ることがある。最新作の品揃えは悪いが、映画館やレンタルDVD等では普段選ばないような作品を見る事が出来るので、わりと楽しんでいる。外れを引くときもあるが、それはそれで「まぁ、こんな時もあるかな」と思える。

大して面白くも無い映画を見て「まっ、いっか」と思えるのも、Huluが月額固定の見放題サービスであることと、「選んだ映画をすぐ視聴出来る」点にあるだろう。

しかし、映画館では、一本の映画を見るためにHuluの二か月分の料金を払って、わざわざ足を運んで映画を見に来たというのに本編がなかなか始まらない。無料の広告モデルでも無いのに強制的に宣伝が挿入される。見てる途中に席を立つ人やスマートフォンが点灯して集中力がそがれる時もある。

■カットは多いが、大勢で楽しむ方向に変化しつつあるテレビ
テレビはどうかと言えば先日放送されたサマーウォーズは本編が50分もカットされていたそうだ。しかし、テレビはソーシャルメディアによる「共視聴体験」が新たな価値となり、映画の名シーンにみんなでソーシャル上でつっこみを居れるという、一つの共通の体験を作り出すことに成功している。私の最近の映画の楽しみ方は、一回目をDVDやレンタルで楽しみ、二回目以降はテレビ放送で共視聴で楽しむという流れになりつつある。

これが、映画館ではそうはいかない。友達、恋人と映画を見ていても感想を述べ合うのは映画が終わったあとだ。盛り上がりをその場で共有することが出来ない。SNSで事前に映画の話で盛り上がっても「じゃあみんなで見に行こう!」と思っても人気映画は座席を確保するのが難しいので、映画視聴オフを開催するのも難しい。

■ユーザの視聴環境、市場の変化から取り残される「映画館」
映画関係者と話をすると、「映画好きなら、映画館で見るべき」という意見を聞くことが多いのだが、全くもって映画館で見るメリットが「早く見れる」位しかな無いのが現状だ。10年前とは異なり、映画好きにはストリーミングサービスがあるし、そうでなければ格安DVDレンタルは至る所に有るし、ネットによるDVDレンタルも充実している。

映画館に足を運ぶ人が少なくなり宣伝が重要だというビジネス的な背景は十分理解出来るが、デフレが続き1800円もあればちょっとした高級ランチが食べられる世の中で、映画好きには「映画館」がもっとも劣悪な環境に感じるようになっているのではないだろうか。好きな時に、見たい場所で映画を見れる環境が整ってきている状態で、それでも映画館に足を運んでくれるユーザは「もっとも大切にすべきファン」では無いかと思う。

映画というコンテンツの力は強力だ。Facebook上で映画部を運営しているのだが、会ったことも無い人間同士が、映画というコンテンツを軸に世代を超えて盛り上がるコンテンツ力を実感している。読むのに時間のかかる本や、数年前のテレビ番組の話題で、盛り上がることは簡単なことでは無い。しかし、映画なら何年も前の上映作品であっても「あー、あれ良かったね」と盛り上がることも出来るし、興味が沸けば二時間あれば会話の中に入ることが出来る。

世代を超えて盛り上がることの出来る映画は、時間と場所の制約が無いSNSと相性が良いと考えられる。加えてストリーミングサービスの充実で映画好きは、昔より映画を見ている時間が増加しているように思う。現在の技術トレンドと映画そのものは相性が良く、うまく組み合わせれば相乗効果が期待出来ると思うが、映画館だけはそんな映画好きの気持ちから自ら遠ざかっているように思う。

映画は既に「見る」ものではなく、見終わった後の会話や感想の共有も含めて楽しむ物に変化してきているのだ。消費者の価値観は「楽しむ」部分にシフトしてきている。

ぜひ、「もっと映画を楽しみたい」という、消費者の声に耳を傾けて「映画なら映画館で見ようよ」と、胸を張って言える映画館に進化して欲しいと、一映画ファンとして願う。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。