プラチナバンド開通記念。「でんぱわるい」の裏側(後編)

 好評だった、「でんぱわるい」の裏側(後編)を公開する。前回は無線の周波数についての話だった。プラチナバンドという「周波数」を手に入れたソフトバンクモバイルだが、無線通信を成立させるためには「周波数」だけでは通信は行えない。電波を送受信するための「基地局」も準備しなければならない。今回は「基地局」を展開する裏舞台を紹介したい。

 なお、ソフトバンクモバイルのサイトでプラチナバンドの対応状況を確認することが可能だ。全国にプラチナバンドが行き渡るのはまだまだ時間がかかるが、当面は2Ghz帯ではコストが見合わなかった地域(ようは契約者や利用者数の少ない地域)に対して、プラチナバンドでカバーし、繋がらない地域の解消を目指していく予定だ。

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おまたせしました。
「でんぱわるい」の裏側 後編です。

前編では「でんぱわるい」=電波が届かない場所ができる原因について説明しました。
(1)携帯電話の基地局は電波の届く範囲が決まっている
(2)全国をカバーできるよう、基本的に隙間ができないように配置していく
(3)ところが電波の特性のため、普通に置こうとしても隙間ができてしまう

それではこの「隙間」を埋めるためにはどうすればいいのでしょうか?答えは単純、基地局をそこに配置すればOKです。ビルの裏に届かないのなら、ビルの裏に基地局を立てればいいのです。

ハイOK!問題解決!あとはドカドカ基地局を建てまくってみんなハッピー☆

……なのですが、実は携帯事業者がどんなに熱烈に望んでも基地局を建てたくても建てられない場合というのがあるのです。

■「線」がない!!
ところでいまさらですが、携帯電話がどうやって遠くの相手に繋がっているか知っていますか?
「え?基地局につながってるんでしょ?」

確かに前編では電波がまんべんなく染み渡るよう、基地局を設置していることを説明しました。おそらくほとんどの人は、携帯電話が”基地局を渡り歩いて”通信を届けると思っているでしょう。しかし実際はこうなっています。

携帯電話というのは、実際大半の部分は「線」で繋がっています。

携帯電話の通信は、この「線」を通って事業者の通信センターに運ばれ、そこで初めて「どこへ繋ぐか」「誰を呼び出すか」などの処理がされます。
まさにここが携帯電話の中核の部分なのです。

基地局というのは実際携帯電話の通信をすべてここに集めるために存在しています。「でんぱ」の部分は、実は「線」の入り口まで人を拾い集める役割をしているだけなのです。


※ハンドオーバー(前回参照)の処理も、基地局同士ではなく通信センター側で集中処理をしています。

基地局にとって最も重要なこの「線」ですが、問題はこの「線」が田舎に行くほど手に入りづらくなるということです。日本の携帯電話はデータ通信速度も桁外れに速いため、基地局に使用する「線」も大量のデータを流せる光ファイバーが大半ですが、この光ファイバーは張り巡らせるのに莫大な費用がかかるため、電話線ほど普及していません。特に人口が少ない地域は採算性の問題からどの会社も光ファイバーを引くのに及び腰です。

さらにもっと田舎、山や自然公園など、そもそも電話線すらないような場所は電柱をいちから作ることになるのでコストも跳ね上がりますし、そもそも辿り着くのが大変なのでメンテナンスコスト(維持費)が輪をかけて大きくなります。

特に高い周波数の電波しか持っていない会社は1つの基地局でカバーできる範囲が短いため、他の会社よりも更に奥まで「線」を持っていかなくてはならず、より一層採算性が悪化します。

もしお金をかける覚悟があったとしても、「環境を破壊する」「景観を崩す」などの理由から電柱の建設自体をさせてくれない場合もかなり多くありますね。

現在これだけ電話が繋がる、という状況は、まさに各社企業努力の結晶といえます。

■「OK」がもらえない!!
さて、晴れてお金も「線」も確保できたとします。ここに基地局を建てれば、何百人もの繋がらなくて困っていた人が便利になります。それではさっそく建設開始!…ということにはなりません。

ある朝起きたら、いきなり自分の家の庭で工事屋さんが基地局立ててた…なんてことになったら大変ですよね。当然、基地局建設の一番最初は「土地を貸してください」というお願いから始まります。

これがまた大変なことなのです。快諾してくれる人もいれば、「先祖代々の土地にそんなよく分からないもの置けるか!」などの理由で頭ごなしに否定されてしまう場合もありますし「電磁波って体に悪いんでしょう!嫌!」という人もいれば(※)、「ソフトバンクは嫌い」という完全にイメージだけで否定される場合もあります。
こちらにいくら準備があっても、またお客さんからどれだけ大量の要望があったとしても、土地の持ち主から拒否されてしまえば基地局を建設することはできません。

こればかりはお金で解決できる問題ではなく、粘り強く交渉を進める必要があります。ちなみに鉄塔など大掛かりな基地局の場合は、土地主様以外に周辺住民からも同意をいただかなければならず、説明会を開いたりするため、この交渉だけで半年以上を要する場合もあります。

なんとか交渉でOKをもらったとしても、理想の位置に置くことができるとは限りません。実際には、理想とする場所には母屋があって、結局十数m横の畑の隅っこに置かなくてはならず、そのせいで電波範囲が変化して、隙間ができてしまうということがざらにあります。むしろ理想の位置に基地局を置けること自体が珍しいといえるでしょう。

基地局の建設にかかる時間の大半は、この交渉と合意の取得にかかっています。特に鉄塔を建てるような大掛かりなものは時間がかかります。よく「とっとと基地局立てて電波よくしてよ」と言われるのですが、こういったプロセスを踏まなければ基地局というのは建設することができません。

とある地方自治体では電磁波の健康被害を理由にして携帯電話基地局の新規建設に規制をかける条例を出した場合もあります。こうなると、この自治体エリア自体に、どれだけクレームを寄せられても全く手が出せなくなります。

エリアの拡充を求められる一方、こういった建設反対の板挟みにあっているのは携帯電話事業者の辛いところですね。

※「さちテク」では基本的に健康被害と関係ないという考えです。
ぶっちゃけ太陽の光も電磁波の一種なので、おひさまの光がきもちいい〜♪とか海で日焼けとか言ってる人が携帯程度の超低出力な電波でどうのこうのというのはおかしい気がしてます。真面目な話をすると、因果関係があるかは未だに世界中のどの機関も証明できていません。あと100年後くらいにわかるかも知れません。
※ただし稀に電磁波過敏症といって本当に体質的にダメな人は存在します。

日本という国は、山あり谷あり離島あり……
世界屈指の携帯電話システム作りづらい地形をしており、今回前回と紹介したように、携帯電話で「つながる」をつくるにあたってものすごくたくさんの困難があります。

それでも私達は当たり前のように遠くの人と、いつでもどこでも繋がることができます。「それって考えてみれば、結構すごいことだよね」と思っていただければ、そして今もどこかで「繋がらない!」と戦っている人がいることを知っていただければ、幸いです。


今回の記事は さちてく からご寄稿頂きました。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。