高木浩光氏とキングソフトのやりとりに見る「事実」より「空気」を優先する日本人

 高木浩光氏とキングソフトのやりとりが話題になっている。

 要約すると、キングソフト側が自社の製品の評判を向上させるために「高木氏」に「ステマ依頼」をかけたということで、高木氏がセキュリティの権威でもあることからネット上では「よくぞあの高木先生にステマをもちかけたな」という文脈でキングソフト側を非難、嘲笑する声が多い。

■そもそもステマと断定出来ない
 しかし、いささかこの件についてひっかかる所がある。私自身も時折、製品紹介の記事執筆を依頼されることがある。その時に金銭の享受が発生した「PR記事」であることを明記するかどうか大抵指示があるし、無い場合にはこちらから確認する。私の感覚ではこのように整理している。
 ・依頼主から金銭の支払い有り PR表記無し → ステマ
 ・依頼主から金銭の支払い有り PR表記有り → タイアップ広告
 この分類で今まで「ステマ」に該当する記事は書いたことは無いが、タイアップ広告は書いたことがある。

 今回のキングソフトの文面を見る限り「イメージ向上施策を検討しているが、その企画や具体的なやり方は決まっていないが、ご協力頂けるか?」という「相談」の文面になっている。企画が決まっていないのだから、PR表記有り、無しといった具体的な部分までは踏み込まれていない。ようするに、この文面を受け取り「ステマ依頼」と疑うことは出来るが「断定」することは出来ないのだ。

■晒すより指導が必要だったのでは
 今回の件で「ステマの可能性がある」と高木氏が感じたのならキングソフトにその内容を「指導」する必要があっただけで、まだステマ依頼と断定出来ない状態で「晒す」必要があったのか疑問に感じる。高木氏の活躍によって昨今の行き過ぎた情報取得等に抑止効果が働いているのは事実だが、今回の行為は行き過ぎた行為なのではないかと思う。

■「事実」より正しそうな「空気」に同調する日本人
 今回、「ステマ依頼疑惑」があったことは事実だが、それが本当にステマ依頼だったのかは当のキングソフトにしかわからない。にも関わらずネット上では「キングソフトがステマ依頼を行った」という「空気」になっている。

 「事実」よりもセキュリティ問題で向かうところ敵無しの高木氏の「側」に回っていいれば、間違い無いだろうという「空気」に同調しているように感じる。自分の頭で物事を考え「正しい」と感じるより、その場の発言力のある人や周囲の意見になんとなく同調する。その同調には責任は無く例えその意見が間違っていたとしても「○○さんが言っていたから、それに合わせただけ」と誰も責任を取ろうとしない。

 自分の考えを放棄し、発言に責任を持たなくなった日本人。それが今の日本の停滞の根幹なのでは無いだろうか。



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プロフィール

大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。