ソフトバンクによる買収報道で株価急上昇のスプリント。スプリント側は交渉認める

 11日朝のニューヨーク株式市場は米携帯電話3位のスプリント・ネクステルの株価が急伸して始まった。前日終値と比べた上昇率は一時18%を超えた。

 急上昇の原因はソフトバンクによる同社の買収報道。日経新聞がソフトバンクがスプリント買収を計画していると報道すると、米ブルームバーグ等でも大きく取り上げられた。ソフトバンクはこの報道に対して「憶測に基づいたものである」とコメントしているが、スプリント側は交渉が事実であることを認めており、実現すればスプリントの経営権が変わる可能性もあるとしている。

 先日ソフトバンクが買収したイーアクセスの株価は10月1日の1万5000円から、11日終値46600円と約3倍になっている。イーアクセスの時価総額を大幅に上回る買収であったため、株価は大きく値を上げたが、今回の買収予想額は1兆5千億と予想されているため、スプリントの株式時価総額を上回る。イーアクセス同様時価総額を上回る買収劇を期待した投資家の買いが入っているという。
 ※スプリントの株式時価総額は約151億ドル(1兆1800億円)

■どんな秘策を持っているのか
 現在の所はソフトバンク側は報道を否定しているため、真意は定かではないが、もし、実現するとすればどのような勝機があるか考えてみた。

 2006年3月にボーダフォンを1兆7500億円で買収し携帯電話事業に参入したソフトバンクだが、当時はドコモ、KDDIの二社で8割のシェアが形成されており誰もがその成功を疑った。しかし、低価格戦略と巧みなイメージ戦略、他キャリアに先立ってiPhoneを採用するというマーケティング戦略が功を奏し、今では国内キャリア一位も夢では無いと囁かれるほどの成功を見せている。

 今回のスプリント・ネクステルも同じような状況だ。AT&Tとベライゾンワイヤレスの二強が米加入者3億人のうち7割近くを保有している寡占状態にあり、二キャリアとも従量課金にシフトしており通信費は値上がり傾向にある。米第三位のスプリントも加入者の流出が続き万年赤字続きで苦しい経営が続いている。この状態でソフトバンクがスプリントを買収すれば、ボーダフォンを買収した時のように大きな負債を抱えての「崖っぷち」からのスタートとなる。

 いや、むしろ当時より条件は悪い。米国に限らず先進国のモバイル市場は既に飽和状態に達している。新規加入者獲得とは他社から奪うことを意味しており、回線や値段による差別化が難しくなった現在では大量のCMや、キャンペーン等の不毛な競争に陥っている。ソフトバンクの躍進はiPhoneによる所が大きいが、既にAT&TもベライゾンもiPhoneを取り扱っており端末での差別化は難しい。では格安戦略で戦いを挑むにしても、先日お伝えした無料通信サービスを提供するMVNO事業者FreedomPopや、Googleがカンザスシティで提供しているGoogle Fiberなど格安を謡うキャリアが存在しており、価格競争の少なくなった日本とは状況が異なる。

 また、ソフトバンクはイーアクセスから買収した網の統合や、プラチナバンドの対応、ソフトバンクモバイルのLTE化など国内でも課題は山積みであり、スプリントを買収すればリソースがそちらに割かれてしまうことになり、最悪日本、米国共倒れになる危険性すら有る。

 このような状況で、もし、成功のチャンスがあるとすればLTEへの乗り換え需要がキーとなるのでは無いかと予測している。米国でのLTEはベライゾンが先行しているが利用者は約1000万人、AT&Tはまだサービスを開始したばかりで、先行する二社と言えどLTEに関してはまだ背中は見えている。ここに賭けるなら、確かにまだLTEの普及が進んでいない「今」しかない。この波に乗り米国で伸びているMVNOを獲得出来れば勝機は見えてくるかもしれない。

 しかし、常に凡人には想像の及ばない秘策があればこそ、大胆な行動に出る孫正義氏のことだから、もし本当に買収に動くなら、今回もあっと驚くような秘策が用意されていることだろう。

 ※なお、米国の大手二社が規模や周波数、設備の面でも突出しており、それに対抗するためスプリント・ネクステル、メトロPCS、Tモバイル等の下位キャリアはCompetitive Carriers Association」(CCA)という団体を作っている。



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    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。