通信キャリアの決算が出揃う。今後は買収対策、戦略的買収も重要に

 通信事業者三社の上期決算が出揃った。ドコモ、ソフトバンクが増収、減益、KDDIのみ減収、減益という結果になった。
平成25年3月期上期決算比較(百万円)各社の決算短信より作成

 しかし、ソフトバンクは昨年度、Renren Inc.上場、米国Yahoo! Inc.株式売却による特別利益を計上していたので、それらを差し引いた、営業利益で考えれば、唯一の増収、増益となっている。
 本業の儲けを示す、営業利益率でもソフトバンクが一位となり、収益力の高さを見せ付けた。

 唯一上期、減収減益となったKDDIだが、3M基盤構築や周波数再編コストが響いたもので、2Q単独では増収増益に転じている。

■各社の業績ハイライト
■NTTドコモ Xiによる一抜けと新規事業創出にかける
 ドコモは上期スマートフォン販売台数が644万台と好調に推移。年間スマートフォン販売数予測を1300万台から1400万台へ引き上げ、スマートフォン販売の好調をアピールした。
 しかし、年間での営業利益は当初予想を800億円下回る、8,200億円とした。この下方修正に対するアナリストからの問いに対しては販売施策のためとコメントし具体的な回答は控えたが、iPhone対策として多額の販促費用が必要になっているのではないかと予想する。

 Xi契約数は620万(前期末比 : +178.6%)と順調に推移。2015年度の契約数を当初3000万回線から4100万回線へと上方修正した。
 
 今後の施策として、ドコモクラウドdゲームによるソーシャルゲームプラットフォームの提供や、金融・決済業、コマース事業といった新規事業領域にて2015年度に1兆円の売り上げを目標を掲げた。

■KDDI 堅実に駒を進めLTE時代のリーダを狙う
 新経営体制による、基盤事業の建て直しが順調に終了し、auモメンタムの完全回復と、3M戦略本格展開へ自信を見せた。実際、auスマートバリュー200万契約、auスマートパス250万会員、auID1000万IDとなり3M戦略の基盤が順調に拡大している。中でもアプリ取り放題サービス等を提供するauスマートパスは同社Androidスマートフォンの87%で利用されており、同社の定番サービスとなっている。
 
 iPhone5による新規契約大幅増。販売の40%超が新規。うち約80%はMNP利用であり、他社から顧客を奪うことに成功したことを強調した。

 LTEの時代にKDDIが本命であることをアピール。高品質でエリアカバー率No.1のネットワーク、AndroidからiPhoneまで豊富な端末ラインアップ、auスマートバリューと、auスマートパスにより価格とコンテンツでも自信を見せた。2013年度にはLTEの速度を現在の75Mbpsから112.5Mbpsへと引き上げる予定で「回線品質」による差別化を明確にする意気込みを見せた。

 また、CATV業界1位のJ:COMを今期末でKDDIと連結させ住友商事とJ:COMを共同運営する。その後2位のJCNをJ:COMに売却しCATVのシェア過半数を獲得する。これによってKDDIの来年度は売上高4兆円、営業利益6千億円となる予定。

■ソフトバンク グローバルへ成長を求める
 国内事業はiPhone5販売が10/22-18日の週次販売台数で、ソフトバンク59%、auが41%となり、auに圧勝と強調。上期加入者純増数もソフトバンク151万、au100万、ドコモ66万と絶好調であることをアピールした。2012年度営業利益7000億円達成に向けて自信を見せた。LTEに関してもeモバイルの1.7Ghz帯が加わることによる速度・品質改善を強調した。

 グローバル展開への強い自信と必要性を強調。ヤフー、アリババを参加にもつソフトバンクグループの顧客基盤は世界で15億人に到達している。スプリントの買収も成長へ向けた戦略的買収であることを強く訴え、スプリントのV字回復でソフトバンクグループ経営強化へ寄与することを強調した。

■今後は買収対策、戦略的買収も重要に
 ソフトバンクが大胆な賭けに出た今期決算。一見無謀な賭けのように見えるこの買収劇だが、ドコモの決算内容からも分かる通り、限られた市場の中で、新規加入者獲得競争は激しさを増している。業界関係者の間でも、ドコモの通信品質が素晴らしいことは周知の事実だが、それでも顧客流出を防げない。来期以降はソフトバンクの周波数状況も改善することが予想されるため、顧客獲得競争が熾烈を極めるようになるだろう。
 そんな中、ドコモは2015年度に新規事業領域で一兆円の売り上げを目指しているが、コンテンツは水物であり、グーグルやフェイスブックといったOTTに対して「闘い」を挑むことになる。土管化する通信事業でコンテンツ強化は正しい戦略でもあるが、彼らのフリーミアム戦略にどこまて対抗出来るか成果に注目が集まる。

 固定網と移動体を持つKDDIは3M戦略とCATVの統合で、他社と差別化を図る。堅実で手堅い経営だが時価総額を高めなければ、中長期的には同社には買収リスクが発生するのでは無いかと予想する。

 もはや日本のみならず、日米で台風の目となるソフトバンクだが、実は通信キャリアとしてのコアコンピタンスである通信回線の販売に主軸を置いている。コンテンツはヤフーやアリババといった成長の見込めるコンテンツプロバイダーを買収、又は出資することで利益を獲得している。一見無謀な買収のようで、餅は餅屋らしく海外へと規模の拡大を求めている。

 2012年、国内のキャリアは全てLTEによるサービスを開始。海外でもLTE化が始まっている。設備も、端末も、通信規格も標準化へと向かう通信業界。グローバルによる業界大再編の波が動き出しているとしたならば、今後は各社の時価総額向上を意識した買収対策や、有力なコンテンツプロバイダーや通信キャリアのM&Aが、重要になってくるだろう。

■その他主要データ
 ・総合ARPU
  1位 ドコモ 4900円
  2位 KDDI 4480円
  3位 ソフトバンク 4070円
  ※各社決算短信から移動体事業の総合ARPUを記載。

 ・携帯解約率
  1位 KDDI 0.65%
  2位 NTTドコモ 0.74%
  3位 ソフトバンクモバイル 1.03%
  ※各社決算短信に基づく

 ・設備投資
  1位 ドコモ 3,610億円
  2位 ソフトバンク 3,455億円
  3位 KDDI 2,155億円
  ※各社決算短信の上期合計値を記載



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。