iPadミニ、第四世代と合わせて3日で300万台販売。それでもアップルは7インチ市場に参入すべきでは無かった

好決算にも関わらず下落基調の続くアップルの株価アップルの株価下落が止まらない。9月18日に700ドルを突破して以降、下落基調が回復しない。

先月発表されたアップルの7-9月期の売上高は359億6000万ドル、純利益は82億ドルで前年同期の66億ドル増加の増収増益。同期間のiPhone販売台数は好調で2690万台で市場予測を上回った。巨額の赤字で苦しむ日本の家電メーカからすれば、喉から手が出るほど羨ましい決算だろう。

 しかし、それでもアップルの株価は回復せず、10月24日「iPad mini」を発表した直後のアップルの株価は3.3%安を記録。新製品の発表、好決算という材料にも関わらず、僅か一ヶ月足らずで100ドル以上下落し、現在584ドルとなっている。

■株価下落の要因は利益率の低下
 同決算で発表された、アップルの10-12月期の業績見通しは、売上高が520億ドルと市場予想の550億ドルを下回り、利益率見通しも36%と市場予想の43%を大幅に下回った。
 この利益率低下予測の背景には、販売が好調だったiPhoneとは対照的に市場予測を下回ったiPadの販売の伸び悩みと、7インチタブレット参入による利益率の低下が予想されている。

 iPad miniと第四世代iPadは発売三日間で300万台を販売したが、この参入は失敗だったと筆者は考えている。なぜ失敗だったかを語る前に、7インチタブレット市場誕生の背景について私見を述べたい。

■なぜ7インチ市場は生まれたか?
■顧客とのタッチポイント拡大を狙うアマゾン
 7インチ市場は何故生まれたか?私はこう考えている。7インチタブレット市場を大きく開拓したのはアマゾンのKindle Fireだ。発売当初安価な7インチタブレットとして期待を集めたが、初代機は低スペックで動画もまともに再生出来ないと酷評する声も多かった。そもそもアマゾンはKindleにしても、Kindle Fireにしても、必要最低限のスペックで安く市場に投入するのだが、iPad対抗とメディアが煽ったためiPadの操作性を期待したユーザは大きく落胆した。大幅な赤字決算にも関わらず、株価回復基調のアマゾン
 それでも、安さとアマゾンのブランド力で、一定のシェアを獲得することに成功し、7インチタブレットという市場が登場した。

 アマゾンにとってタブレットとはコンテンツを発売するためのポータルデバイスであり顧客との新たなタッチポイントだ。そのため、Kindleシリーズで儲けることは考えておらず、出来る限り安く販売しより多くの顧客に対してリーチすることを目的としている。
 本来エンターティメント端末として売り出したいKindle Fireなのだから大画面でiPadに対抗出来る製品を望んだだろう。しかし、当時の技術では7インチの大きさが実用面で妥当と判断したのでは無いだろうか。「ベストよりベター」これがアマゾンの戦略だ。

 
■モバイル市場で広告スペースを確保したかったグーグル
 次に、Googleだが、スマートフォンで圧倒的なシェアを獲得するアンドロイドだが「スマートフォン」はグーグルにとって期待外れだったのだ。当初モバイル広告は端末ベースでは収益向上に貢献するとされていたが、先日発表されたグーグルの決算ではモバイル広告が収益に貢献していないことが鮮明になった。広告収入激減で大きく株価を下落させたグーグル

 グーグルの7~9月期の売上高は113.3億ドル、営業利益は前年同期比10.5%減益の27.4億ドルの減益。減収の要因として広告全体におけるクリック単価(CPC)の平均が前年同期で15%減少したのが主な要因に挙げられている。

 このクリック単価を引き下げる要因として挙げられているのがスマートフォンユーザの増加だ。パソコンと比較して広告掲載面積の小さいスマートフォンに対して広告出稿料が低下する。パソコンからスマートフォンへのシフトを加速させたグーグル自身がそのシフトによって逆境に立たされている。

 ラリー・ペイジCEOはモバイルによって年間80億ドルを売り上げるようになると語ったが、これは広告収入による売り上げだけではなく、「Google Play」で販売される音楽、動画、アプリが含まれる。

 大画面のパソコンから小さなスマートフォンへの流れが確実になり、広告が収益源であるグーグルにとって「もっと大きな広告枠のあるモバイルガジェット」が必要だったのだ。しかし、10インチ市場はiPadが絶大な支持を得ている。7インチ市場であれば、先行するKindle陣営と共に7インチはアンドロイドタブレットというブランドイメージが確立出来ると狙ったのでは無いだろうか。

 
■7インチ市場はデバイス以外で儲ける物がある企業の市場
 7インチ市場とは、コンテンツを売りたいアマゾンと、広告枠を確保したいグーグルの「デバイス以外に売りたい物がある人達」が作り出した市場、つまりデバイスで儲けるアップルとは「ビジネスモデルが違う市場」なのである。

 アップルは「デバイスで儲ける」ビジネスもでるであり、アップルの顧客とはiPadを買ってくれる人達そのものであり、アップルプレミアムを理解する人々に向けて高級感を維持すべきだっだろう。「デバイス以外の物で儲けるビジネスモデル」でデバイスは利益無視の低価格戦略で端末の「ばらまき」を狙う競合が存在する7インチ市場への参入によって「iPad miniは他製品と比べて高い」という不毛な価格競争に巻き込まれるようになってしまった。

 アップルはApp Storeによってフリーミアムが当たり前だったインターネットで「アプリが売れる」市場を創り出した。今7インチタブレットというフリーミアムの世界へ足を踏み入れようとしているのである。

 これは、アップルプレミアムを崩壊させるきっかけとなるかもしれない。

■アップルは7インチ市場に参入すべきでは無かった
 そもそもジョブスは7インチタブレットを「タブレットとしては小さすぎるし、スマートフォンとしては大きすぎる」と否定していた。これには私も同感だ。

 業務用システムの現場でiPadを業務用端末として利用するケースがあるが、iPadが利用される理由として良く挙げられるのが、iPadの大画面を利用した電子カタログや動画によるプレゼンテーション、パソコンの操作の人でも不慣れなタッチ操作がある。
 これが7インチになってしまうとこの特徴が霞んでしまう。特にパソコン操作が苦手な人にとって画面範囲が小さくなるとアイコンの誤タッチが心配になる。

 家庭内でコンテンツを楽しむ10インチタブレットと、どこにでも持ち運べるiPhone。この二つを軸にアップルはイノベーションを続けるべきだったのだ。

 「もし、ジョブスが生きていたら」を考えるのは、もはやタブーかもしれないが、それでもこう考えずにはいられない。「価格競争に巻き込まれるのが分かっているのなら、そこには参入せず新たな市場を創出したのでは無いだろうか。」

 ジョブスの死後、アップルがテレビに参入すると期待する声があった。テレビだけでなくウェアラブルコンピュータといった「iPhone」を核とした新たな展開で世の中を新しい時代へシフトする、私はそんな展開を期待していた。

 「新たな市場の創出」それこそが、アップルプレミアムを復活させる鍵であり、多くのファンが望むことだろう。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。