イケダハヤト君は何故「うける」のか?インスタント社会の寵児

イケダハヤト君の記事“「引用が中心のコンテンツ」はモラルに欠けるのか—「他人のふんどしで稼いでいる感」の未来”が、また議論を呼んでいる。

私個人の意見としては他文献からの引用は、下記の条件を満たす必要があると考えている。
・引用の必然性があるか
・記事全体において主従関係の「従」といえるか(引用部分がむしろ記事のメインになっていないか)
・引用部分が明確であるか(出所の明示)
そのため、引用部分が「主」になってしまうコンテンツに関しては、著作権上は問題があると考えている。

しかし、ハヤト君の言うように当事者同士では「紹介されることにメリット」を感じる部分は勿論あるだろう。ハヤト君が記事を紹介することで「今まで知ることが出来なかった情報に触れることが出来た」と感謝する人も居るだろう。そのため「当事者間が良いと思っているのなら、良いではないか」というハヤト君の主張は頷ける部分はある。

私が興味深いと思っているのは、この記事を読んで著作権を理解している「プロ」的な人達はハヤト君を批判し、そうではない純粋なハヤト君の読書は「肯定的」な反応を示している所だった。今回の記事に限らずプロの人達はきっとこう思っているのだろう「なぜ著作権もろくに守れない引用ばかりのイケダハヤトが注目を集めるのか」。

今回のテーマは著作権の問題を議論するというよりは、なぜハヤト君が多くの人達に支持されるのかを考えてみたい。

■スマートデバイスとソーシャルメディアが創り出すインスタント社会
2012年はインスタント社会が訪れると題した記事を今年冒頭に書いた。急速に普及するスマートデバイスと、ソーシャルメディアがもたらす情報洪水によって、あらゆる情報を短時間で消費することになれた、消費者の感性や価値観は「インスタント」な物を好むようになる、とした記事だ。

・スマートデバイスで世界中の情報に手軽にアクセスする。
・SNSで友達になるという感覚が手軽になる、友達の解除も手軽になる。
・情報コンテンツを手軽に共有する。
・「感動した」「考えさせられる」と手軽に共感する。
こういった日々の些細な行動が、徐々に人の価値観を「インスタント」な物を好むように変化させていく。

そういった消費者の価値観の変革にいち早く気づくことが出来れば、ビジネスチャンスを掴むことが可能だろう。スマートデバイス、クラウド、ソーシャルメディアの時代に重視される価値観は以下に示す「Simple Thinking」だと考えている。

昔ながらの「製作期間10年!」や「制作費100億円」をアピールし、作者や編集者が知恵を絞って作り上げる重厚壮大なコンテンツが左の天秤だとしたら、コストを欠けずに質より量でコンテンツを量産するハヤト君は右の天秤に位置する。

ただそれが悪いとも馬鹿にしたいというわけでもない。左の天秤を好む人がまだまだ圧倒的に多いが、右の天秤を好む人も増えてきているのは事実だと感じるからだ。この右側の天秤の人たちが中心の社会、それがソーシャルメディアとスマートデバイス中心の生活を送る人々の住む「インスタント社会」と私は呼んでいる。
ハヤト君自身も左側の天秤を好む人にリーチしようとは思ってはおらず、右側の天秤を好む「インスタント社会の住人」にリーチ出来れば良いと考えているのだろう。

インスタント社会の価値観に気づきビジネスを成功させているメディアは他にもある。自らの手で記事を作り、キュレーションする新聞メディアを左側だとしたら、引用コンテンツが主体で記事が作成されるNaverまとめや、他ブログからの転載でPVを集めるblogosも右側に位置づけられるだろう。
勿論クオリティの面でも読書面でも新聞系メディアが圧倒的だが、Naverまとめや、blogosの方が面白いと感じるユーザも無視出来ない規模に成長している。

私自身も記事を執筆するにあたって取材をこなし手間隙かけて作った記事より、30分で息抜きに書いた記事の方がPVを集めることもあり、PVを獲得するという観点では懸けた労力に比例しないことがあるのは痛感している(しかし、PVでは無く講演や執筆依頼に繋がるのは手間隙懸けて書いた記事であることが多いが)。

プロだけがコンテンツを供給出来る時代は終わり、素人のコンテンツもソーシャルメディアというプラットフォームで対等に流通する。そのような時代の中で生まれた「インスタントな価値観」を理解することは大切な視点だと思う。

■インスタント社会の落とし穴
しかし、インスタント社会には危険な側面も有る。

■インスタント社会の落とし穴
Simpleという英語の意味には「騙され易い」という意味も含まれる。ソーシャルメディア上の無料コンテンツで人は「情報欲」を満たすが、それらの情報が「事実」であるかを確認する術は乏しく、自分の見たい物を「真実」だと考えるようになる。知らず知らずのうちに騙されてしまうかもしれない。

単純にタイムラインに流れてきた物を「読む」だけでなく、情報のソース、発言の意図などを踏まえて総合的に理解する「批判的読解力」を意識して身につける必要があるだろう。

有識者と自分が判断した人物からの発言に「イイね」をしたり、簡単なコメントを添えるだけで、それを「理解」したと錯覚する。「情報」を得ただけなのにインスタントに「知恵」が付いたと錯覚してしまうのだ。インプットだけでなく、アウトプットをする習慣をつけることで、こういった錯覚に陥らずに済むだろう。
引用:http://enterprisezine.jp/article/detail/3708?p=4

スマートデバイスとソーシャルメディアは私達の生活を豊かにしてくれている。通信費さえ支払えば無料で幾らでも楽しめるコンテンツが至る所に溢れている。多くの出会いをもたらしてくれた。しかし、その一方で、共感という本来はそうそう起こりえることの無い感情を希薄なものにしてしまっているのではないだろうか。多くなりすぎた繋がりが、本当に大切な人は誰なんだろう?とふと胸に手を充てて考えてしまう時がある。

見過ごされがちなこういった心の変化は、「共感」を通して生まれる仲間意識の希薄化や、特定の誰かに嫌われたとしても、繋がりはもっと他にもあると考え、一度崩れた関係を修復する努力を怠る人間を量産する可能性があるのでは無いだろうか。絆の数に半比例して人との関係が希薄(インスタント)なものになっているのでは無いだろうか、共感の数に反比例して「無感動」に近づいて行くのでは無いだろうかと感じる。

ソーシャルメディア上で毎日のように目にする「生き方論」にも危険を感じる。一生を左右するような決断を「インスタント」に決定しようとする。他者の生き方を「インスタント」にこれがいいよと、勧めあう。ソーシャルメディアでは天才的な人の日常を垣間見ることが出来る。それらの天才の生き方を見て、自分も「手軽」に真似出来ると思い込んでしまう力があるのかもしれない。

何故か日本人にはマスメディアには「バイアスがかかっている」という思い込みがあり「情報を鵜呑みにしない」という耐性がついているのだが、ソーシャルメディアは良く語られる性善説のせいか、あるいは自分でチャネルを選択しているという意識がそうさせるのか「私の見ている情報は正しい」と感じさせる魔法が備わっているようなのだ。そして人は次第に思考を他者に依存し、「思考を放棄する」。

ソーシャルメディアは確かに素晴らしいツールだ。だからこそ人は夢中になる。良薬も取りすぎれば身体を壊す。スマートデバイスとソーシャルメディアはこれからも人々の生活に浸透していくのは明らかだ。これらのテクノロジーが創り出すインスタント社会と、そこで生きる人々の意識の変化、価値観の変化を真剣に考える時期なのでは無いだろうか。

その価値観の変化の中で、ハヤト君はインスタント思考の人々に「うけるツボ」を感じ取り、それを良くも悪くも上手に利用しているのだと思う。ハヤト君を批判し非難することは簡単だが、なぜ彼が今の時代に評価されるのか?を考えてみることも、これからのメディアやコンテンツを作る上で大切なのでは無いだろうか。(一部でハヤト君が若い世代に受けていると評価されているが、私はそれは間違いで「インスタント思考の人に受けている」と考えている。)

コンテンツを提供する側は「インスタントな価値観」を理解し、コンテンツに触れる側は「インスタント社会の落とし穴」を理解する。それがこれからの時代を上手に生きる一つになるだろう。

★ブロガー募集のお知らせ
ASSIOMAではソーシャルメディア、スマートデバイス、ビッグデータなどITに興味がある、世の中に「主張」したいメッセージを持っているブロガーを募集しています。興味のある方はFacebookでメッセージ頂ければ幸いです。



この記事のタグ:


関連する記事

関連する記事は見当たりません…

プロフィール

大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。