携帯電話大手三社の上半期決算と、今後の展望について考察する。データARPU上昇の鍵はソーシャルメディアとの融合に有り。

先月の終わり携帯電話大手三社の上半期決算が出揃いましたので、上期の振り返りと、今後の展望について考察したいと思います。

■唯一の増収、増益となったソフトバンクの勢いが目立つ2010年上半期
三社の決算書から抜粋した、上期のP/Lを下図に示します。(単位は百万円)

純利益では他二社にまだまだ及ばないものの、増収増益となったのはソフトバンクのみ。期中に社長が交代する事となった、KDDIは減収、減益といった結果になっています。減収、増益という結果になったものの、王者DoCoMoが収益という面では他二社を圧倒している点に変化はありません。

ここで、注目したいのは、企業の売上高とそれに使用した経費類を差し引いた、会社の「経営力」の物差しとも言える、「経常利益」の時点では、ソフトバンクはKDDIを既に上回っているという点です。経常利益から、特別損失や、法人税、事業税等の税金と、連結子会社等が存在する場合に発生する少数株主利益を差し引いた額が、「純利益」となるのですが、ここで差し引かれている金額が大きいため、ソフトバンクは純利益で三位という結果になっています。

上期、ソフトバンクは少数株主利益として290億、ヤフーの追加徴税に247億円を支払っているので、仮にこれら二つの支払いが不必要だったとした場合には、純利益においてもソフトバンクはKDDIの背中が目前に迫っている状態であると言えます。三社の成長トレンドが今後数年変化しないという前提で考えるとするならば、数年内に純利益で、ソフトバンクが二位になるという可能性は否定出来ないのでは無いでしょうか。

■加入者数の比較
こちらは、比較するまでも無いかもしれませんが、iPhone4/iPadの大ヒットの恩恵でソフトバンクがダントツの一位となっています。

※出典:ソフトバンク第2四半期(2010年4~9月期)決算資料から抜粋

この結果は、説明するまでもなく、ソフトバンクの例からもわかる通り、「スマートフォン/スマートパッド市場の取り組み成果」の違いと言っても良いでしょう。

■ARPUの比較
携帯電話の収益力を調査する上で最も重要なのがARPUです。ARPUとは一人の加入者から月間平均幾らの収入があるかという事を示す値です。こちらの2010年Q2時点の各社の比較を示したのが下図になります。

音声ARPU、データARPUを総合した総合ARPUの比較で最も高い数値となっているのはDoCoMoであり、一加入者からの収益力が最も高い事を示しています。しかし、携帯電話事業者にとしって、音声ARPUは年々減少傾向であり、将来的には減少幅が加速する事も予想されているため、データARPUを高める施策をとる事が大切です。上図の表からも、各社共に音声ARPUが減少傾向にある事が読み取って頂けることでしょう。

こういった視点で考えてみると、総合ARPUの構成比が音声とデータ、どちらに依存しているかで将来的な収益力を想像する事が可能です。将来的には音声ARPUは減少傾向にあるとされているのですから、データARPUの構成比が高い方が望ましい姿であるという事になります。こういった視点でもう一度上図を見てみると、総合ARPUの値では第三位に付けているソフトバンクですが、将来的に最も好ましいARPUの体質転換が図られているのは、三社の中で唯一データARPUの構成比が50%を超えているソフトバンクが他社を一歩リードしていると考える事が出来るでしょう。

■今後の展望
上期を振り返ってみれば、純利益の観点では第三位ですが、iPhone/iPad人気を上手く取り込んで上昇気流に乗っているソフトバンクの一人勝ちと言っても良いでしょう。

しかし、下期からは、スマートフォンへの出遅れを素直に認めたKDDIもいよいよ、スマートフォン市場に本格参入を決定し、iPhone対Androidという闘いに推移していくと考えられます。KDDI、DoCoMoから見て、魅力的なスマートフォンを市場に投入したい最も大きな理由は「iPhoneへの流出の防止」です。特にKDDIは「AndroidのAu」というブランドイメージを確立する事で、iPhone以外のスマートフォンなら「Au」とするブランド戦略の展開を開始しています。対するソフトバンクは、「iPhoneのソフトバンク」というイメージが定着する事で、Android端末が売れなくなる事を恐れて、Androidも積極的に投入してきています。

DoComoの販売するGalayxも大きな注目を集めています。

こういった事を考えると、上期のようにソフトバンクが他社を大きく引き離して「独り勝ち」という構図は、それ程簡単には行かないのでは無いかと予想されます。

■次なるステージはスマートフォンの利活用
そんな激戦を予想させるスマートフォン戦国時代ですが、事業者視点で考えれば、既に視点は次のフェーズに移行してきていると、私は考えています。

今、消費者にとってはスマートフォンが一大トレンドを形成している事もあり「なんだか良く分からないけど、こっちの方が良さそう」という理由でスマートフォンを購入する人も多いのでは無いしょうか。なんとなく周りから薦められてスマートフォンを購入したは良いけど、実際は従来通りのメールと電話しか使っておらず、もしかすると、音声については使いづらくなったので、メールとウェブサーフィン位にしか利用していない人もいるかもしれません。

しかし、これでは、「加入者の繋ぎとめ or 獲得」という観点では事業者として成果は達成した事になりますが、携帯事業者の抱える大きな経営の課題として減少傾向にある音声ARPUへの依存率を低下させ、データARPUを向上させるという方向には繋がりません。

何故なら、従来のフィーチャーフォンから、スマートフォンに変化しても、利用方法が従来のフィーチャーフォンと同じならデーターARPUは増加しないからです。

携帯事業者がスマートフォンに注力するもう一つの理由とは、スマートフォン利用によるデータARPU上昇が本当の狙いであり、フィーチャーフォンユーザ比率から、スマートフォンユーザ比率を高めていく事が出来れば、必然的に音声ARPU依存体質からの脱却を図ることにも繋がると考えているからです。

携帯事業者視点での次のフェーズとは、まさに「如何にスマートフォンをもっと活用して貰って、データARPUを上昇させるか」という利活用を検討しているフェーズに入っていると言えると思います。

■データARPU上昇の鍵を握るソーシャルメディア
各社の思惑として、データARPU向上施策の一つとして、ソーシャルメディアの活用を検討しているのではないかと、私は予想します。

一つは、社長交代から大きくイメージ転換を図っているKDDIが、ブランドイメージキャラクターにソーシャルメディア界の大物Lady GaGaを起用している事。今後発売するスマートフォンにTwitter、Facebook等のアドレス帳と連携するアプリ「Jibe」を搭載してくる事。

もう一つは、スマートフォンで先行するソフトバンクがmixiと連携した「ソーシャルフォン」というキーワードを打ち出してきた事、が挙げられます。

SNS等のソーシャルグラフを活用したいという思惑も当然あるとは思いますが、FacebookやTwitterをユーザが楽しむ行為は純粋にトラフィック増加に結びつきます。特にFacebookは画像や動画といったリッチコンテンツが豊富に「共有」されるため、Facebookを利用する時間に比例してトラフィック量も増加する事になるでしょう。

ソーシャルメディアが各社のスマートフォンに標準搭載される事によって、こういったモバイルコミュニケーションの楽しさを今まで経験していなかった、ライトな層に受け入れて貰う事が出来れば、データARPUの低かった層が、定額プランへの契約変更が發生する事で、データARPU上昇に繋がる事でしょう。

唯一、王者DoCoMoだけがソーシャルメディアの取り組みに消極的ですが、今後のデータARPUの推移が気になる所です。

■ソーシャルメディアを推進する事で、情報の入口がテレビからモバイルへ移行する
こういったスマートフォンへのソーシャルメディア連携機能標準搭載の副産物として、将来的に、「情報」という名の「コンテンツ」の入手先がテレビや新聞では無く、モバイル端末のソーシャルメディアから入手する時代へ徐々にシフトしていくきっかけを作るのでは無いかと、私は予想します。

また、こういった流れは将来的には携帯事業者にとってプラスに働くでしょう。

技術がどれ程進歩したとしても、変える事が難しい物、それは「消費者に根付いた習慣」です。日本のモバイルは発展しているとはいえ、まだまだモバイル端末で動画を楽しんでいる人は少数であり、動画コンテンツを観るならPC、又はテレビという考え方が一般的なのでは無いでしょうか。

このため、モバイル向けの動画コンテンツ市場等は伸び悩んでいると言われています。

これが、Facebook等をきっかけとして「モバイルで動画や写真を観る」という行為が「一般的」になって行く事で、携帯電話事業者が今後展開するコンテンツビジネスにもプラスに働くと考えられるからです。

スマートフォンを開いて、ソーシャルメディアを見て、バイラルされているコンテンツを視聴する。そんなモバイルでのリッチコンテンツの視聴スタイルが「習慣」として根付けば、VoD等の今まで日本の市場で根付かなかった文化が受け入れられる土壌が育って行くのでは無いかと考えます。

DoCoMoがマルチメディア放送の免許を取得しましたが、こういったモバイルマルチメディア放送が、更にソーシャルメディアに対応していくような事になれば、「ニュースはテレビ」で観るものといった「習慣」すら、大きく変えて行く可能性もゼロでは無いのでは無いでしょうか。

ソーシャルメディアの台頭はGoogleという検索エンジンの地位を揺るがせました。ソーシャルメディアとモバイルの融合は「テレビ」という存在を大きく揺るがす可能性があるのでは無いでしょうか。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。