iPad vs Kindleを考察する。出版業界を救うのはどっち?

アンテナ感度の高いオルタナティブブログの読書の方々には当然の事かもしれませんが、日本国内では「紙 vs 電子書籍」ですが、アメリカではその戦いは既に決着が付き、「iPad vs Kindle」へ話題の焦点が移動しているよう感じます。

こちらのWSJの記事によれば、アップルはiBookstoreの開設にあたって、価格決定権を出版社へ委ねる事によって、大手出版社5社を味方につけたと報じられています。この記事からも、既にアメリカの出版業界は電子媒体へ活路を見出そうとしているように見えます。

自分達を救ってくれるのは、iPadなのか?Kindleなのか?ワラにもすがる気持ちで、自分達をこの先の見えない出版不況から救い出してくれる救世主の登場を待ち望んでいるように感じます。

■iPadは出版社にとっての救世主となりえるか?
iPadは素晴らしいデバイスだと思います。しかし、私が出版業界の一員なら、電子書籍媒体としてiPadは選択しません。Kindleに賭けてみたいと思います。

何故なら、理由は簡単でiPadはデバイスとして魅力がありすぎるからです。

この「iPadのある生活 - 世界を一枚に -」に書いたように、iPadは時と場面に応じて、何にでも変化出来る素晴らしい可能性を秘めたデバイスです。

こんな素晴らしいデバイスを持っていて、果たして「本」にどれだけの時間を割くでしょうか?ゲームも出来る、音楽も聞ける、映画も見れる、インターネットも出来る、勿論Twitterで呟く事も出来る。iPadで本を出すという事は「ユーザの娯楽時間をiPadの上で奪い合う」戦いになる事は明白です。

ネットが普及し、インターネット上に登場した様々な魅力的なサービスが、人々から読書する時間を奪ったのと同じ事が、iPadの上で起きるだけです。

もし、私のカバンの中にiPadが入っていたら、その中から「本を読む」という選択肢はかなり優先順位が低くなるでしょう。

もし、これがKindleだったら?答えは簡単です。本を読むしか出来ないんですから。
 ※Kindleでも簡単なゲームの開発が可能になりました。

"iPadが「電子書籍」の理想型を作り出して欲しい。"そう願う人はたくさん居るでしょう。しかし、iPadにとって、「電子書籍」は多くの可能性の中の一つでしかありません。もし、iPadが「電子書籍」の一言で片付けられてしまうなら、一番悲しむのは、「スティーブ・ジョブス」その人に他ならないのでは無いでしょうか。私にはそう思えて仕方ありません。

■Kindleは読書文化を守るためのデバイス
Amazonのジェフ・ベゾスCEOは2008年、株主にこのようなメッセージを送付したそうです。
「パソコンや携帯電話が普及し、ネットを介してどこからでも情報が得られるようになり、それらのネットツールが人々を本から遠ざけている。我々は、それらの勢力から、もう一度「本」へ人々を取り戻さないと行けない。」

日本の出版業界が恐れ抱いている「アメリカの黒船Kindle」の本当の姿は、「人々にもっと本を」という発想から生まれたデバイスだという事をもう一度よく考えてみないといけないのではないでしょうか。

AmazonのKindleが行った「本を読んで貰う工夫」はこんなにあります。

 ① 流通コストや材料費を抑える事で、本の価格を安くし、一人でも多くの人が気楽に「本」を買える値段にした。
 ② 本を買いたいと思った時に、書店に足を運ばなくても、配達されるのを待た無くても、たった60秒で本が手に入るようにした。
 ③ 旅先に何冊もの重たい本を持っていくのではなく、289gのデバイスの中に1500冊の本を持ち運べるようにした。

全ては「よりたくさんの人々に「本」を読んで貰うために」登場したデバイスである事を忘れてはならないでしょう。

今はまだ、白黒で活字中心の発展途上のデバイスですが、Kindleがもっと普及すれば、本体価格もより安くなり、より一層「本」が身近な生活を提供出来るようになるのではないでしょうか。

そして、この努力が実り遂に昨年、紙媒体の書籍より、電子媒体の方が発行部数が多くなるという偉業に繋がった事は既に皆さんも良くご存知でしょう。

出版業界にとって「低価格を強いる悪魔のような存在であるKindle」。しかし、その本当の姿と志は、「本という文化を守るためのAmazonなりの戦い」と私は捉えています。

■ゲーム専用機の「Wii」とマルチメディアプレイヤーのPS3■
「ゲームの楽しさをもっと欲しい」というコンセプトで「次世代機戦争」と言われるなか、シンプルな「ゲーム専用機 Wii」を発売した任天堂。「次世代機戦争」らしく、ゲームも出来るブルーレイも再生出来る、写真も見れて、音楽も聞ける、高性能ゲーム機として登場した「PS3」。

PS3は確かに高性能で、私も所持しています。しかし、なんでも出来るからPS3でゲームをやらなくなりました。僕にとってのPS3とはメディアプレイヤーであり、ゲームはその機能の一つでしか無いのですから

電子書籍である事を軸に進化していくKindleと、何でも出来る未知の可能性を秘めるiPad。PS3とWiiのこの戦いが何かを暗示しているように感じるのは私だけでしょうか。
もし、数年後iPadに電子書籍コンテンツの全てが集まったとしたら?数有るiPadの機能の一つでしかない電子書籍コンテンツは、今より更に読まれなくなるのではないか?そんな危険な香りを感じます。

■ビジネス継続を考えるなら、市場の成長を考えるべき
電子書籍が登場しなかったとしても、今の出版不況を打開する策は、そう簡単には登場しないでしょう。既に人々の周りにはたくさんの娯楽が存在し、一日は24時間しかないという絶対的な条件の中で、時間の奪い合いを続けているのですから。

ユーザニーズに合せて進化し続けるソーシャルメディアと、そう簡単に進化出来ないオールドメディアでは「消費者の24時間争奪戦」は絶対的に不利な事は明白です。「紙を好きな人も絶対居る」というノスタルジーに浸っても「変化を好む移り気な消費者」は振り向いてくれる事はないのですから。

 ソニーさんは音質に(vs iPod)、通信業界は電話としての用途に(vs iPhone)、出版業界の方々は紙である事に(vs iPad)拘り続けます。古参の人達はその拘りが自分達の強みであり、参入障壁を高くしていると考えています。しかし、過去に固執しない他業界からの参入者は古参の人達が捨てれない物を見抜いてます。そして、そこを切り崩す事が自分達が勝利する鍵だと信じて勝利しています。

 例え紙から電子になったとしても、「本」という文化は無くなりません。自分達の強みは「紙では無くコンテンツだと」いう本質に気づき、新しい進化の波を受け入れて、新参者の方々と一緒に「本を読んで貰うためにどうすれば良いか?」を協力して考えていくべきなのではないでしょうか。

 私は一冊の本を書いただけの新米著者ですが、私達著者の願いは一人でも多くの人に読んで貰いたい。それが望みであり、その形が紙でも電子でも関係無い。著書にとって、一番辛いのは「誰にも読んで貰えない」事なのですから。

—追記—
この記事を書いた後で、「iPadこそ、出版業界を救う救世主だ!」というご意見をたくさん頂戴しました。

Twitterにて、こんな呟きをしてみました。

iPadに皆さんは「電子書籍」である事を期待されているのでしょうか?私はせっかくあんな良いデバイスなんだから「本」を楽しむだけって勿体無くないですか?と思うのですが。iPadが「電子書籍」としてしか見られないなら一番悲しいのはジョブスではないでしょうか?なんて思ってしまいます。

すると、@cozyscさんからこのような回答を頂きました。

@cozysc: iPad,,誰もが簡単に使える簡易パソコン。それほど凝ったことをしなければ、普通の人の普通の使い方ができる。「ママにも使える」本当の意味での「パソコン」=「パーソナルコンピュータ」になるのかも。パソコンをリデザインしたらこんなんなりました、的な?

私も同感です。ジョブスの目指したのは、「誰でも使えるパソコン」であって、パソコンの理想型であり、電子書籍の理想型を作ったんでは無いのだと思います。

iPadには電子書籍としてのプラットフォームなんていう枠には収まらず、「僕らが想像した未来のパソコン」を実現して欲しいのです。そして、そうなった時には、僕らはきっと、iPadで「本を読む」って事よりも、iPadはもっと違う事で僕らをワクワクさせてくれる筈だから。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。