ソーシャルメディア時代の企業広報活動を考察する。

先日、とあるテレビ番組からのカメラ取材の連絡がありました。内容は技術的な事ではなく、このブログと私のTwitterを見てくださっていたTV局の方からの依頼で、ソーシャルメディアの影響力についての取材依頼です。その方のおっしゃっていた一言が印象に残ります、「いつもブログ拝見しています。まさに、ブログがあれば履歴書は要らないですね」もう、Twitterで大勢の人と繋がり、ブログで日々自分の専門性を出していけば、無名の一般人でもテレビ局からの取材を受ける時代になったということですね。

私は企業勤めですから、こういった話はまず広報部へ報告するのですが、広報部の反応は大喜びのようでした。当初、私は今回の話は内容的には技術的な話では無いので、私の所属している企業にとってはあまりPRに繋がるものではないと思っていたのですが、このテレビ番組への出演は私の所属する企業においても、良いPR活動になるとの事だったので、広報部からも是非出演して欲しいとの言葉を貰いました。

この経験を通して感じた事は、今後の企業PR活動というのは、従来の広報部中心のPRから、ソーシャルメディアを通した個々の従業員によるPR活動が重要になってくるのではないかと感じました。

■広報部による企業PR = 仮面舞踏会
ソーシャルメディアと呼ばれる物が存在しなかった時代、企業のPR活動は広報部が行うという考え方が当然でした。広告、イベント、セミナー開催等を企画、実行して企業自らが多額のコストを掛けてPRを行います。しかし、もう既に広報部が中心となり、実行するこういうやり方は「効果が低い」と思われるようになってきているのではないかと感じています。

世の中には既に大量の広告が溢れています。PRは確かに大切ですが、広告を読む側にとっては「所詮は宣伝」となり読んだ人に与える影響力は大きくありません。イベントやセミナーも、パンフレットの内容をプレゼンテーターが読み上げるだけであれば、ただの宣伝にすぎません。クラウド系のセミナーは今でも集客力があるようですが、それ以外のIT系のイベント等はあまり芳しくないと聞いています。

「お金」で作られたこういった広告やイベントは、「どうせ良いことしか言わないんでしょ?宣伝だもんね」という概念が浸透しています。多額のコストをかけて、リーチを増やす。けれども、リーチした人への影響力は低い、結果として効果が低いという状況を生み出しています。

もう、消費者は企業広報部が作り出す豪華な仮面舞踏会に興味は無いのです、消費者は仮面を取った素顔が知りたいのです。
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■ソーシャルメディアの時代、企業PRは広報部から、個々の従業員一人一人が広告塔になる
特定企業に所属している人間が、自分の名前と所属を明し、日々感じた事、学んだ事、誰かに訴えかけたい事をソーシャルメディアを通じて世の中に発信する。とても時間がかかるけれども、その人の人柄や誠実性をゆっくりと時間を掛けて、周囲の人々へ伝えて行くことが出来る。

これは広告、販促費では伝える事が出来なかったものです。そう、企業の中で働く人々がどういった人なのかを伝える、「仮面を取った素顔を伝える」という事ですね。

日々の何気ない対話を通じて人間性、専門性を知ってもらう。そうする事で「親しみやすさ」を伝えることもあれば、人によっては「尊敬」を感じて貰える事もあるでしょう。そしてそれが「◯◯さんが働いている、◯◯という企業に相談してみよう」という「人を知って貰い、企業に相談する」というアプローチが誕生するきっかけを生み出します。

「広告で知ってもらい、企業に相談する」というアプローチより、相談する側の気持ちが大きく違うという事が想像出来るのでは無いでしょうか?

その数が一人なら微力かもしれません。しかし、その数が1千人、1万人という大企業であれば多額の販促費に匹敵する、それ以上の効果をもたらすしょう。

 ポイント
  ・ソーシャルメディアはマスメディアに比べてリーチは劣る。
   しかし、その影響力はマスメディアを上回る。
  ・ソーシャルメディアは一人一人のリーチは少ない。
   広告塔の数が多くなれば、リーチの少なさを高い影響力で補う。
   そして、販促費は限りなくゼロに近い。

■企業において今後ソーシャルメディアとの付き合い方が重要になる
現在、日本の大半の企業はソーシャルメディアに対して「情報漏えいの危険がある」「所詮は遊びであり、生産性の低下に繋がる」といった理由から「批判的」な見方をし、「社内での利用を禁止」しているのが実情です。

しかし、今後はこういった動きにも変化が訪れてくるでしょう。何故なら例え社内で禁止する事が出来たとしても、従業員のソーシャルメディアの活用を禁止する事は不可能だからです。

 ・就業規則で就業時間中のTwitterやmixiへのアクセスを禁止する事は可能
  しかし…
  - 帰宅後まで禁止する事は現実的では無い
  - 従業員が匿名で活動を行っていれば、監視する事は不可能
  - 行き過ぎた規制は、社員からの反発を招き、モチベーションの低下に繋がる

 ・社内の情報セキュリテイシステムでTwitterやmixiへのアクセスを禁止する事は可能
  しかし…
  - 従業員が個人的に保有している携帯電話からのアクセスを防ぐ事は不可能

規則、システムで制御しようとしても、社員は従業員である前に、個々の独立した人間であり、帰宅すればプライベートな時間が存在します。法に触れるような活動をしているわけでもないのなら、社員のプライベートな時間まで規制する事は難しいでしょう。

■禁止ではなく、「ソーシャルメディア利用ガイドライン」を作成する事が重要
本質的に人は誰かとの繋がりを求めますし、自分を知って貰いたい、認めて貰いたいという欲求を持っています。ソーシャルメディアは人のこういう欲求を満たしてくれるものなので、一過性のブームではなく、「一つの文化」としてこれから人々の生活に根づいて行くでしょう。

禁止しようとしてもそれが完璧に抑止出来ないのなら、「上手に付き合っていく方法=適切なガイドラインを設ける事」を考えるべきです。そして、このガイドラインが有用な物であれば、ソーシャルメディアは危険な物という概念から、協力なPRの道具として大きなパラダイムシフトが起きるでしょう。

■従業員が世の中で活躍する事を支援する企業がこれから成長する
ソーシャルメディアを通じて、自分の能力を世間にPRする手段はブログ、Twitter、SNS等多数存在します。そして、更に今後は電子書籍やソーシャルアプリ開発、ipad、android用アプリケーション開発で、より自分の知識や技術力、想像力で対価を得る事が可能になっていきます。

多くの日本企業においては、こういった活動を「副業禁止」という項目で禁止している事が多いでしょう。しかし、ペンネームを使い、家族名義の口座に収入が振り込まれるようになっていれば、企業は把握する事が出来ません。それどころか電子書籍で小遣いを稼ごうとする従業員が顧客情報、社内の技術情報を漏洩し、手っ取り早くお金を稼ごうとする事例も現れるでしょう。

そんな、コソコソ影に隠れて活動されるより、才能豊な人が自由に活動する事を支援する企業風土を作り、個々の従業員が世の中の役に立つこと発信する意義を認め、それを積極的に支援する企業が、広告、販促費では買えない世の中の「信頼」を勝ち取っていく。

それはやがて時間をかけて「ウッフィ」という名の仮想貨幣が人と企業に蓄積され、ソーシャルメディアの時代の鍵を握る、ギフト経済の中で企業の将来性に大きく貢献することになるでしょう。

■先進的企業におけるソーシャルメディアガイドライン事例
2009年以降ソーシャルメディアガイドラインを公開する企業が増えてきました。先進企業における幾つかの事例を紹介します。
 ・米国政府 Twitter-Strategy
 ・IBM ソーシャル・コンピューティングのガイドライン
 ・インテル・ソーシャルメディアガイドライン
 ・NECソーシャルメディアポリシー
 ・コカコーラOnline Social Media Principles
 ・Kodak Social Media Tips
 ・ブックオフ ブックオフオンライン、ブログポリシー(心構え)
 ・Cisco’s Internet Postings Policy
 ・BBC Personal use of Social Networking and other third party websites
 ・BT Social Media Guideline
 ・Gartner public web participation guidelines
 ・Microsoft Tweeting guidelins
 ・Walmart’s Twitter External Discussion Guidelines

中でも、IBMのソーシャル・コンピューティングのガイドラインは具体的で分り易く、度々この種のガイドラインとして引用される事が多いようです。その一部を抜粋します。

 IBMソーシャル・コンピューティングのガイドライン:エグゼクティブ・サマリー
 1. IBMのビジネス・コンダクト・ガイドラインを熟知し、それに従いましょう。
 2. IBMerはブログ、Wiki、その他の形態でのオンライン・ディスカションなどに、自分が掲載した内容に個人的に責任を持ちます。あなたが書いたものは長期間公開されることになることに留意し、自身のプライバシー保護に努めてください。
 3. IBMやIBMに関連した事柄について書く際には、身元(氏名、必要に応じてIBMでの任務)を明らかにしてください。人称は一人称を使います。書かれたことは、自分の個人的見解でありIBMの意見を代弁するものではないことを明確にしてください。
 4. IBMでの自身の仕事やIBMに関する話題でブログを公開したりコメントを掲載したりする際には、次のような免責文を入れてください。「このサイトの掲載内容は私自身の見解であり、必ずしもIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません」
 5. 著作権とその公正使用、および財務情報公開に関する法律を遵守してください。
 6. IBMおよび他者の、機密情報や専有情報を提供してはなりません。 個人情報またはIBM内部の情報とみなされる内容を発表、言及する場合は、許可が必要です。
 7. 承認を得ずにお客様、パートナー、サプライヤーを引き合いに出したり、言及したりしてはいけません。また言及する場合においては、ソースへのリンクを張ってください。
 8. 読者に敬意を払いましょう。人種に関連した中傷や特定の個人への侮辱、猥褻な内容、IBMに対する不利益行為などは禁止します。他者のプライバシーや、政治・宗教など異論が出たり扇動的になったりする可能性のある話題については、充分に配慮してください。
 9. 他の誰がその話題についてブログで記事を書いているか調べ、引用しましょう。
 10. オンライン・ソーシャル・ネットワーク参加に当たって、IBMの社員としての自覚を心がけてください。IBMerとして、同僚やお客様に紹介したいプロフィールや記事内容を発表しましょう。
 11. 喧嘩を仕掛けてはいけません。自分の間違いがあればいち早く訂正しましょう。ただし過去の掲載内容を断りなく変更してはいけません。
 12. 価値を付加するよう心がけてください。値打ちのある情報と見識を提供しましょう。IBMのブランド価値は社員により示されること、そして皆さんの出版内容はIBMのブランド価値を左右するものであることを忘れないようにしましょう。

そして、上述した事例の中で、最も印象に残る規則はKodak社のこの一文です。

Always be transparent.
自分の身分を隠したり、代役を立てたりせず、いつも正直でいなさい。

企業は、従業員がソーシャルメディアを通じて、世の中に誠実性をPRする事を望んでいます。これは、お金で作り出した仮面舞踏会では誠実性を世の中に伝えることは出来ないという事を企業自体が気付いているのかもしれませんね。
 ※この記事は2010年5月30日にITmediaオルタナティブブログに掲載されたものです。

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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。