広告の世界にもアジャイルを「ビッグデータ時代の新マーケティング思考」

ビッグデータ時代の新マーケティング思考」を献本頂いたのでご紹介したい。 ビッグデータというキーワードで現在IT業界では大きく分けて三つのビジネスが存在する。一つはストレージやDWHの増強を行うインフラのビッグデータ対応、経営企画部門や経営層が経営判断に利用するBIのビッグデータ対応、そして多様な入力ソースや広告スペースへ対応するためのマーケタ/広告代理店視点でのビッグデータ対応。本書はマーケタ/広告代理店視点でのビッグデータ対応の書籍となっている。

 本書の執筆陣はデジタルインテリジェンス代表取締役、横山 隆治氏、鹿毛 比呂志、株式会社オプト取締役会長 海老根 智仁氏の三名の共著となっており、インターネット広告の黎明期から国内のトップランナーだった三名らの知識が集約されており、この分野を今の日本で語る最も適した著者達と言えるだろう。

■広告の世界にも「アジャイル」を
 ITの世界には初めに要件を確定し、その要件から予算とスケジュールを策定し開発終了まで基本的には要件を修正しない「ウォーターフォール・モデル」と呼ばれる開発手法が一般的であり今でも主流の一つである。この手法の良い点は開発計画や分業計画が立てやすい点で大人数での開発に向いている。しかし、小規模で開発を初め完成版を作らず一度ベータ版でリリースしユーザの反応を基に改修していくような開発には向いていない。

 現在はリリースすればすぐにユーザの反応がソーシャルメディアやアクセス数から得られるので「作って終わり」ではなく「作って改修」という常に進化しつづける開発体制が特にクラウドサービスやスマートフォンアプリでは求められており、こういった臨機応変に対応する開発手法をリーンスタートアップやアジャイルと呼ばれる。

 本書を読んで感じたことは従来の「広告業界」とは、「ウォーターフォール・モデル」だったことがわかる。初めに予算と広告作成期間を確定しキャンペーンやCMを契約期間の中で放映する。そのCMやキャンペーンが「成功」だったのか「失敗」だったのかは、全てのCM放送が完了してからようやくわかる。例えば半年にわたるCM放送を契約していた場合、初めの一週間でそのCMの効果があまり良くなかったとしても契約期間内はそのCMが放送され続ける。

 本書では、これからの時代はソーシャルメディア、スマートデバイスといった多様なチャネルをオフラインの広告と連携させることで、キャンペーン期間中にユーザの反応を様々な視点から解析し、CMを補完する広告をネットで臨機応変に提供する、そういった発想が重要だと説いている。

■マーケタ視点でのビッグデータ対応の第一歩は「巨大なデータ」では無く「多様なデータ」への対応
 「ビッグデータ」と言えば「巨大なデータ」をHadoopやリアルタイム処理でどう扱うかという話題を期待される読書は多いかもしれない。しかし、それはビッグデータの側面の一つであり、「ビッグ」に含まれる「多様な」というキーワードに置き換えれば、この本書の重要性が見えてくる。

 ユーザの反応を知るためにはオフラインだけのアンケートやPOSデータだけで良いのか?ソーシャルメディアや肌身離さず持ち歩くスマートデバイスを「リスニングの対象」とすべきでは無いのか?多様なID、多様なデバイスでアクセスしてくるユーザを「一人の顧客」と認識出来ているか?Aさんという人がスマートフォンからアクセスした場合と、タブレットからアクセスして場合で異なる人として認識してしまっていないか?といった、現実的な問いかけが多数記載されている。

 今はまだ小さなデータかもしれないが、そういった「多様なデータ」をまずは意味のある形にし集計していく、そうすれば何れは「巨大なデータ」となっていく。既に「巨大なデータ」となっているシステムのビッグデータ対応だけを「ビッグデータ」と捉え、「うちにはデータは100TBも無いから関係ない」と傍観していれば、そもそも「巨大なデータを入手する仕組み」を作っていなかったことに数年後に気づく。

 今の時代においてビッグデータ対応とは、既に巨大なデータを保有している企業は勿論だが、巨大なデータを保有していなかった企業がデータ活用のための「データ」をどこから集めて、どう活用かるかを検討する時代であり、本書にはそのための過去から現在、そして未来に至るまでの全体像が網羅されているデジタルマーケティングの今が見える良書となっている。



この記事のタグ: ,


関連する記事

  • ザ・アドテクノロジー 現代広告に携わる全ての人の教科書として

  • オラクルCCO、ボブ・エバンス。「オラクルがクラウドを理解していないという世論は馬鹿げている」

  • 書評:データサイエンティスト データ分析で会社を動かす知的仕事人

  • 変化するコンシューマという定義

  • データ・サイエンティストの実像についてAgoop柴山さんと対談します

  • ヤフーのビッグデータによる選挙予測から学ぶこと

  • 「組織の壁」を越えた日本企業達。新刊「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」

  • 国民所得によってスマートデバイスの普及OSが異なっている

  • 孫正義氏が語った、ビッグデータが生み出す新たな収益源

  • ノマド論では無い キャリア未来地図の描き方


  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。