なぜ「Turntable.fm」はユーザーを夢中にさせるのか

スタートアップの皆さんは「Gamification」という言葉をご存知でしょうか?
“Game-Based Marketing”の著者であるGabe Zichermann氏は Gamification を以下のように定義しています。

gamification is the process of using game thinking and game mechanics to solve problems and engage users(gamificationとは問題を解決し、ユーザーとの間にエンゲージメントを築くためにゲーム思考およびゲーム力学を用いる一連の行為です)

もう少し分かりやすい表現にするとこんな感じでしょうか。
 
プロダクトにゲーム的な要素を加えることによって、ユーザーがもっと使いたくなるようなものにすること
 
この Gamification をWebサービスにうまく取り入れることは、ユーザーを囲い込む手段として非常に有効だと思います。そこで今回は、Gamification を上手く活用している事例として、最近アメリカで話題になっている「Turntable.fm」を取り上げてみたいと思います。
 

 
まず Turntable.fm をご存知でない方のために簡単に説明すると、2011年5月にローンチされたばかりのスタートアップで、オンライン上の仮想クラブで誰でもDJプレイを楽しめるFacebookアプリです(招待制)。ユーザーは自分のアバターを持ち、他のユーザーとチャットしたり、自分のプレイリストを作ってDJプレイを楽しんだり、他のDJと人気を競ったりできます。詳しくは以下のページをご覧下さい。(現在は著作権の問題上、アメリカ以外からのアクセスは出来なくなっています。)

最近$7.5M(750万ドル)を調達し、評価額も$37.5M(3750万ドル)に達するなど、多くのベンチャー投資家の間で競争が激しくなっており、非常に注目されています。スタートして約1ヶ月半ですが月間アクティブユーザー数は34万人以上(via AppData)と、順調に増えているようです。

 
では、早速 Turntable.fm を掘り下げて見ていきましょう。
 
■ プレイヤーの進行状況をデザインする
神経医学の博士号を持ち、ゲーム分野で数々の著書を持つAmy Jo Kim氏は、gamification においてプレイヤーの旅(Journey)をデザインすることが重要であると提唱しています。
 

 
旅とは、「lifecycle + progression」つまり「進行状況に応じて成長していく」ということで、Turntable.fm に当てはめると下の図のようになるでしょうか。

 
■ 流動性 + システム性 + 美学
また、Kim氏は「旅」をデザインする際には、ゲームの良さである「流動性」(Dynamics)と「システム性」(Mechanics),そして面白味を探求する「美学」(Aesthetics)の3つのバランスを考慮すべきであるとも言っています。
 

 
まず「流動性」ですが、これは例えばゲームで物語が進行するにつれて試練を与えられたり、謎解きをしたり、または周期的に報奨が得られたりと、時間の経過に応じて何らかの変化があることを表しています。Turntable.fm ではこの流動性(ライブ感とでもいいましょうか)を、現在フロアでDJプレイを楽しんでいるユーザーをアバターで表現したり、さらにメーターのAwesome(いいね)を押すと、アバターがリズムよく踊るという視覚的表現を用いることによって分かりやすく表現しています。また、このメーター自体も流動性を表現する面白いUIだと思います。
 

 
次に「システム性」ですが、これはプレーヤーの成長を視覚的に表現する仕組みのことを指し、Turntable.fm ではDJポイントやファンの数、新しいアバターへの変更などがこれに当たります。
 
最後に「美学」ですが、Kim氏によると「the overall experience that yields emotional engagement(感情的なエンゲージメントを生み出す総合的な体験)」ということだそうです。これだとイメージがつきにくいのですが、ゲームをやられている方はRPGでストーリにしたがってプレイしていくと、だんだん主人公に自分の感情がシンクロしていくような体験をしたことがあるかと思います。おそらくはそのような体験のことを指しているのだと思います。では、この美学がTurntable.fm のどこに当たるのかというと、ちょうどThe Next Webの記事に該当するような記述があったので引用させて頂きます。

There’s more to be said about the “togetherness” factor. Whether it’s best described as collaboration (coordinating action with other DJs in choosing tracks, for example, that reinforce each other and build flow). Or as something more ineffable, such as sharing time (it’s hard to stop, and there’s some social commitment to remaining in a room).

This “togetherness” isn’t directly produced by the ego-oriented social game features of Turntable. In fact it’s an attribute of the experience that exceeds or transcends what those features can offer in and of themselves. And it says something about the power (engagement) of the tacit, the implicit, and the unspoken aspects of synchronous mediated experiences.

For example, when DJs demonstrate that they’re listening to each other by playing off each others’ track selections, there’s a commonality that transcends… individual achievements. Social games that offer the promise of individual success may be missing out on the uniqueness of shared experiences capable of creating shared surprise and pleasure. As when tracks flow well, as when it’s clear that DJs are not just picking their own favorites but show that they’re paying attention to each other, as when a “good” stretch of DJing attracts newcomers to the room, and so on.

上記を意訳すると「Turntable.fmでは、一方的なプレイではなく他人と一緒にプレイして場を盛り上げようという一体感を体験できる」ということでしょうか。この「一体感」というものが今までの音楽系ソーシャルサービスにはない Turntable.fm の大きな特徴なのかもしれません。
 
■ ソーシャル性のある行動を促す
Kim氏によるとプレーヤーに応じて4種類のエンゲージメントスタイルがあり、そのスタイル毎にエンゲージメントを生み出す行動(Social Actions)が異なるそうです。それらをまとめた図が以下になります。
 

 
Kim氏は、サービスのターゲットとなるユーザーがどのスタイルに当てはまるのかを把握し、ユーザーにそれらの行動を促すような設計を行うことが重要であると指摘しています。
今までの音楽系サービスは音楽を聴くことを楽しむ「探索」に属するユーザーをメインターゲットとして設計されていたと思いますが、Turntable.fm は「探索」よりもDJとして自己表現をしたり、他のDJと競ったりする「表現」・「競争」に属するユーザーや、チャットしたり、アバターを躍らせてみんなとワイワイ盛り上がったりする「協力」に属するユーザーがメインターゲットとして設計されているのではないかと推測されます。
試しに上の図を Turntable.fm に当てはめてみたのが下の図になります。
 

 
それぞれのターゲットに対して上手く行動を促すような設計されているのが分かるのではないでしょうか。
 
■ エンゲージメントループをデザインする
「プレイヤーの進行状況をデザインする」、「ソーシャル性のある行動を促す」ということが重要であることを見てきましたが、Kim氏はこれらを一連のループとしてデザインする「エンゲージメントループ」というものを提唱しています。
 

  1. 地位・課題・褒賞・メッセージなどで進行状況を可視化する
  2. ポジティブ(楽しい・嬉しい・好奇心・悔しい)な感情を喚起する
  3. ソーシャル的な行動(共有する・支援する・競争する)を促す
  4. タスク・ミッション・ゲーム・クイズ・ギフトなどを与えることによってエンゲージメントをより深めたり、再構築したりする

これを Turntable.fm に当てはめてみたのが下図です。
 

  1. DJポイント・ファンの数・アバターなどで進行状況を可視化する
  2. 新しいアバターの獲得やアバターを躍らせることによって楽しさ・嬉しさを喚起する
  3. Awesome/Lameで評価したり、チャットでユーザー同士で会話したり、DJとして曲をながしたりしてみんなで場の雰囲気を共有する
  4. お気に入りのDJがブースに立ったらファンにメールで通知する(ユーザーのリテンション)

このように上手にエンゲージメントループがデザインされているのが分かります。(個人的にはゲーム性のあるコンテンツを盛り込むとさらにエンゲージメントを深められて面白いのではないかと思います。例えばDJトーナメントを開催してみるとか、ファミコンの裏技的な要素を加えて発見する楽しさを与えるとか)
 
■ まとめ
今回「Gamification」に着目して Turntable.fm を見てきましたが、一番感じたのは面白味を探求する「美学」(Aesthetics)の部分が視覚的な効果を用いることによって上手に設計されているということです。DJブースでアバターのDJがプレイし、リスナーもアバターとしてその場で一緒に踊ったり、チャットしたりして盛り上がる。この「一体感」を演出しているところが、このサービスが多くのユーザーを夢中にさせた最大のポイントだと思います。そして、エンゲージメントループを作り出すことによって、より深いエンゲージメントの構築に成功しているような気がします。
 
私はゲームの専門的知識がないので、いろいろ調べながら今回の記事を書いたのですが、Gamification という分野はとても面白く学ぶべきところがたくさんありました。前回のブログで書いた「ユーザーエクスペリエンス」に非常に通じるものがあるのではないかと思います。今後もこの Gamification については勉強して、ブログで記事にしたいと思います。また、今回の記事がスタートアップの皆さんがサービス設計をする上で何らかの参考になれば幸いです。
 
 
(おまけ)
今回参考にした資料のリンクを以下に貼っておきますので興味のある方はご覧になって下さい。
http://www.slideshare.net/amyjokim/smart-gamification-social-game-design-for-a-connected-world
http://www.slideshare.net/amyjokim/gamification-101-design-the-player-journey

プロフィール
本田 雄三(ほんだ ゆうぞう)
主にWeb系の開発を行っています。 「ソーシャルメディア」、「スタートアップ」、「スマートフォン」、「クラウド」関連の情報をちょっぴり技術寄りな視点で発信していきたいと思います。



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