DoCoMoの次世代無線通信 LTE、Xiが2011年は苦戦すると考える三つのポイント。成功の鍵は高速データ通信空間の開拓。

2010年12月24日、NTT DoCoMoから次世代無線規格 LTE(Long Term Evolution)を使用する新サービス「Xi (クロッシィ)」が登場する。しかし、2011年の船出は厳しい物になるだろうと予想する。


※出典:DoCoMo 2011年3月期 第2四半期決算説明会資料より。

LTEとは

現在、NTTドコモやソフトバンクモバイルなどが採用している「W-CDMA」、「HSDPA」をさらに進化させた新しい携帯電話の無線規格であり標準化団体3GPPが標準化を担当している。従来のW-CDMAやHSDPAの通信速度が最大7.2Mbpsであるのに対し、DoCoMoのLTEでは屋外では37.5Mbps、屋内では75Mbpsになると言われており、通信速度は従来規格の約10倍となる。


※出典:DoCoMo 2011年3月期 第2四半期決算説明会資料より。

LTEは通信速度以外にも、「低遅延」、「大容量」といった特徴を兼ね備えている。これらは、エンドユーザには速度向上と、接続時間の短縮といった体感的なメリットをもたらし、事業者側にはビット単価低下というメリットをもたらす。

速度向上では加入者増には貢献しない

現在、国内のモバイルデータ通信で最も高速と呼ばれている無線規格にWiMaxと呼ばれる規格がUQ Communicationsから提供されている。下り最大40Mbpsの高速通信を可能とする。同技術は本格的なモバイルブロードバンド時代の幕開けになると鳴り物入りで2009年7月から開始されたが、サービス開始から一年が経過した2010年11月時点で加入者数総計が約43万5千人と伸び悩んでいる。なお、月間純増数トップのソフトバンクモバイルの11月の一ヶ間の加入者増加数は27万6千である。

また、NTT DoCoMoは2001年10月から、高速通信を売りにした3G規格FOMAを市場に投入した。FOMAは現在では同社の主流となっているが、市場投入直後はJ-Phoneの写メール、Auの着メロといった通信速度以外を売りにした他社に大きく水をあけられ苦戦を強いられた。

高速通信を目当てに加入するユーザは確かに存在するだろう。しかし、それは全体の中の極僅かな層に響くだけであり、大多数のユーザが求めるのは新たなコミュニケーション手段や、画期的なデザイン、使い易さといった、「わかりやすい身近なメリット」であるが、Xiのサービス紹介からは、そういったサービスはまだ見えていない。

不可解な料金設定

DoCoMoのLTE戦略を不可解な物にしている大きな点として「従量課金性」となった料金プランが挙げられる。

上述したように、Xiの特徴は低遅延、高速通信、大容量通信である。こういった売り文句で飛びつく層自体がそれ程多くないとは考えられるが、このような特徴に飛びつくユーザとは、どういった人達だろうか?

最新のスマートフォンや、ネットブックを片手に飛び回り、現在主流の通信規格の速度では満足していない、モバイルを酷使するヘビーユーザが考えられるだろう。このような「大容量の通信を快適に使いたい」というヘビーユーザに対してアピールするサービスであるにも関わらず、もはや常識となっている「定額制」を廃止し、「従量課金プラン」のみを提供するのでは「速度は速くなったけど、大容量通信は行わないで下さい」と言っているようなものであり、ユーザはLTEの魅力を十分に享受することが出来ない。

しかし、モバイルトラフィックはスマートフォンの登場以来、爆発的に増加傾向であり、「従量性プラン」への移行は世界的な兆候でもある。今年に入って、米国モバイル大手のAT&T、Verizon Wiresllが定額制プランを廃止し、従量制プランへ移行している。現行規格より、大幅に通信性能が向上する、LTEでは、将来のトラフィック増を見越した苦肉の判断であったとも予想される。

しかしながら、米金融調査会社のサンフォード・C・バーンスタイン&カンパニーが実施した調査では、パケット定額制の料金プランを利用するためであれば携帯通信キャリアを変更したいと答えた回答者の割合は、データ通信利用量が少ないユーザーで58%、データ通信利用料が多いユーザーでは67%にのぼったという。この結果について、バーンスタインのアナリストは、「たとえ料金が高くなる場合でも、利用者はパケット定額制を選択する傾向がある」としている。

DoCoMoのXiは屋外37.5Mbpsで従量課金、UQのWiMaxは40Mbpsで月額3880円の定額性。果たしてユーザはどちらを選択するだろうか。

キラーデバイスの不在

現在の国内携帯電話市場を見ると、上半期最も加入者数が増加したのは iPhone/iPad の大ヒットにより約160万人増加したソフトバンクである。DoCoMoは約81万人、KDDIは42万人という順位になっており、ソフトバンクは二位のDoCoMoに二倍の差を付けている。

しかし、好調なソフトバンクではあるが、電波品質の悪さから顧客満足度は高くないと言われている。実際、解約率の低さでは、DoCoMo、Au、ソフトバンクという順序になっており、ソフトバンクの解約率は三社中最も高い。

電波品質、通信品質に大きく影響を与える設備投資額の順位もDoCoMo、Au、ソフトバンクとなり、ソフトバンクは最も低く、数値の面からもソフトバンクの品質は他社より劣っているという事は容易に想像がつく。

しかし、それでも、ソフトバンクは2位のDoCoMoに2倍という大差で加入者を獲得し、快走を続けている。

これは、現在の携帯電話市場において、品質より、魅力的なデバイスの存在が大きく影響することを裏付けている。

それでは、LTE市場に魅力的なデバイスは登場するだろうか?恐らく2011年には登場しないだろう。何故なら現在は現行無線規格3G向けのスマートフォンが活況であり、スマートフォンメーカ各社のリソースの多くはこれら3G用の製品開発にリソースが集中しているからである。

また、モバイルユーザの増加が著しくメーカのシェア争いに大きく影響を与える、中国、インドなどの主流は1000円~3000円前後の低価格製品であり、新技術を詰め込んだLTEをこれら低価格製品の市場に投入することは難しく、まだまだ産まれたてのLTE市場にリソースを割くメーカはまだ少ない。

こういった点を考えれば、加入者増に大きく影響を与える、魅力的な「キラーデバイス」の登場は期待薄と言えるだろう。

まとめ

上述したとおり、下記三点の内容から、2011年のLTE市場は厳しい物になると予想される。
 1.単純な「速度向上」はユーザへの訴求力とはならない。速度向上を活かすサービスが必要である
 2.速度向上を目的とするヘビーユーザも、従量課金プランのみでは魅力を感じない
 3.市場規模の小さいLTE市場向けには「キラーデバイス」は登場しない

BtoC 市場の開拓より、 BtoB市場の開拓が成功の鍵を握る

LTEの競争が本格化するのは、KDDIや世界中のキャリアがLTEの運用を開始する、2013年以降になるだろう。世界的にLTEの加入者数が増加すれば魅力的なキラーデバイスも登場し、iPhone/iPadといった製品のLTE版が登場するだろう。B to C市場の活性化は、こういったキラーデバイスの登場が大きなターニングポイントになると筆者は予想している。それまでは、消費者の多くは現行無線規格を利用しつづけるだろう。

逆に言えば、こういったキラーデバイスを陣営に取り込んだキャリアが現在のソフトバンクのように一気に競争を有利に進めることが予想されるため、B to C市場での先行優位性はあっという間にくつがえされる危険がある。

速度向上に興味を示さず、キラーデバイスの存在がキャリア選択プランの決め手となる一般消費者をターゲットにするのではなく、企業向けに注力し新規事業領域を拡大すべきであると提言する。LTEの高速、大容量を活かして、WiFi端末のアグリゲーションスポットとして「空間」に高速通信を提供するという発想が重要な要素になると予想する。

以下に一例を挙げる
 1.コンサート会場やイベント会場での LTE + WiFi スポットの提供
 2.東京都内を中心としたバス、タクシー、電車などへのLTE + WiFi スポットの拡充
 3.デパート、大型店舗、外食チェーン店等へのデジタルサイネージ用 + LTE + WiFi スポットの提供

上記の施策を展開することで、他社が開始するよりも早くLTEをビジネスに浸透させることが出来れば、先行優位性を得ることが出来るだろう。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。