2011年 通信業界で注目される10個のキーワード

2010年はかねてから囁かれていた、通信キャリアの垂直統合モデルから水平モデルへの移行が、スマートフォンによって、分厚い壁に小さな風穴を開けた年だったと言える。2011年はこの風穴が更に大きくなり、中長期的な新たなビジネスモデルを構築するための舵取りの年になるだろう。
また、技術面では長らくインターネットで利用されていたIPv4アドレスが枯渇する年でもあるため、技術面での刷新も迫られる事になるだろう。

2011年に通信業界で注目されるであろう10個のキーワードを、インフラ、サービス、事業戦略という各レイヤー毎に予測してみたい。

インフラ・レイヤー

1.スマートフォン対策
スマートフォン需要でモバイル市場が賑わう反面、キャリアは増大するトラフィック対策に頭を悩ます事になるだろう。
モバイルトラフィックを急増させるスマートフォンは、インフラに下記二つの側面で大きなインパクトをもたらすだろう。
- トラフィックの増大(PPS) → データオフロード、帯域増強
- シグナリングパケットの増加(CPS) → フロントエンド周辺機器の強化/統合の促進、大型セッション処理装置の導入

2.IPv4アドレス枯渇
いよいよ、IPv4アドレスが枯渇し、IPv4延命策と、IPv6対応が本格化するだろう。

日本国内ではNTTのNGN網上で2011年4月から主要なISPでIPv6提供が開始される。しかし、著書、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」でも、記載したが、
国内ISPよりも、IPv6を促進させる意気込みを感じさせているのはモバイルキャリアだ。ガラケーからスマートフォンに軸足を移そうとしている、モバイルキャリアにとっては、一刻も早くIPv6に切り替わって欲しいと切実に考えているだろう。

従来までのガラケーと異なり、PC並みにシグナリングパケットを発信するスマートフォンの増加はモバイルキャリアのセッション制御装置のコスト増を招く。これら装置への投資負担を嫌い、モバイルキャリア主導でクライアント側のIPv6への移行を促進するだろう。何故なら、モバイル端末をIPv6化する事で、これらセッション制御装置への投資が不要になるからだ。

なお、米国の大手CPである、Googleは大半のサービスをIPv6対応を完了させており、FacebookもIPv6によるサービス提供を行っている。

2011年以降、キャリア担当のインフラエンジニアの間では、IPv6の知識が必須となるだろう。

3.脱音声収入依存の加速
KDDIのSkype提携が示したように、キャリアの「脱音声収入」は目下の課題である。Android 2.3がSIPを標準実装してくることを契機にこの流れは加速するだろう。

しかし、単純にスマートフォンにVoIPやSkypeを実装しても、それだけでは現在の音声回線の代替品とはならない。警察等への緊急呼対応やQoSを担保する仕組みを検討する必要に迫られるだろう。

4.バッテリー消耗を抑える、データオフロード方法の検討
スマートフォンの普及で急増するモバイルトラフィックに対応する事が今まで以上に求められる。現在主流となっている、WiFIやフェムトセルへのデータオフロードの利用頻度を向上させる施策を検討する事がより重要になるだろう。

しかし、WiFi/3G/フェムトセルの自動切換えを標準で実装する事は、キャリアにとっては好都合だが、スマートフォンの電池消耗を早めることになるので、ユーザの利便性を低下させる。

そこで、2010年は単なるデータオフロードの技術論が話題になったが、2011年はバッテリー消耗を抑えるデータオフロードの実装方法が検討されるようになるだろう。

例えば、以下のような方法を標準状態で実装する事が検討されるだろう。
 時間によるデータオフロード
  平日の勤務時間帯は3Gを使用し、帰宅後等はWiFi検出を行う等の工夫が出来ればバッテリー消耗を抑える事が出来るだろう。
 バッテリー接続状態によるデータオフロード
  充電状態になれば、WiFi/フェムトセル/3G/LTEの電波を検知し、最も効率の良い通信方法を自動で選択する。
 プッシュ型データオフロード
  WiFi-APから特定のシグナリングを送出し、それに対応しているスマートフォンが応答する。

※上述してはいないが、LTEへの投資は2010年同様継続して行われるだろう。

サービスレイヤー

1.コンテンツプロバイダーとの共創
従来キャリアは独自開発したサービスを提供する事に注力していた。しかし、今後は方針転換が求められだろう。
何故なら、もはや標準化、コモディティ化の進むインフラでの差別化は難しくなっている。ましてやインフラ面での品質追求は加入者増加の条件とはなりにくい。
それでも、インフラ増強は引き続き行われるが、有力なコンテンツプロバイダーとの提携が進むだろう。インフラ品質による争いから、その「そのインフラでどんな体験が出来るか?」に競争の軸がシフトするだろう。

2.ソーシャルグラフのマネタイズ
KDDIがスマートフォンに標準実装する「Jibe」というアプリケーションがある。これは、Twitter、Facebook、Mixi等、様々なソーシャルメディアのアカウントを一元管理するツールだ。現在は各ソーシャルメディア上に流れるフィードを一覧出来るといった程度の使い方しか出来ないが、今後は各ソーシャルメディアのソーシャルグラフを取り込んで行く重要なアプリケーションに育っていくと筆者は予想している。

今後、行動ターゲッティング等を行うにあたって、鍵を握る「ソーシャルグラフ」の美味しい所はTwitter、Facebookといったコンテンツプロバイダーが握っている。「JIBE」のような各ソーシャルサービスにアクセスするアプリケーションを各キャリアが提供する事で、そこから独自にソーシャルグラフを作成する手法が注目されるだろう。

3.Android ガラスマの二極化
Androidの普及が進む一方で、ハイエンド系、ガラスマ系の二極化が進むだろう。

ハイエンド系はAndroid OSのバージョンアップに即座に対応可能なようにキャリアが手を加えず、Androidの素で勝負する端末となる。
ガラスマ系は、ワンセグ、お財布携帯、赤外線といったガラケーのハードウェアを必要とする機能を盛り込んだ端末と、ガラケーの特殊なハードウェアは実装せず、ガラケーの「分り易さ」を追求した「スキン」を提供する二系統に分かれるだろう。現在は前者の端末しか発売されていないが、2011年は後者の端末が望まれるだろう。

事業戦略

1.海外進出の増加
国内需要の先細りを懸念し、下記の方法によりキャリアの海外進出が加速するだろう。
- 海外DC、通信関連事業会社のM&Aによる現地顧客の獲得
- 日本企業の海外進出支援
- コンテンツ配信事業
- インフラノウハウを活かした、現地キャリアへの技術支援

2.プラットフォーム戦争の勃発
Androidの普及と共に、徐々に支配力が低下する携帯キャリアと、支配力を強めるコンテンツプロバイダーの間でプラットフォームとしての主導権争いが勃発する。
国内においては、決済機能と位置情報の面で携帯キャリアは有利な側面がある。しかし、ソーシャルサービス上では、急速に仮想通貨が台頭してきているため、決済機能はキャリアの物という状況は次第に変わりつつある。
また、位置情報サービスは既に一般的な機能となっており、位置情報の提供を行えないキャリアはむしろサービス面での優位性が低下する恐れがあり、位置情報の提供はキャリアにとってはもはや「義務化」しているとも言える。更に、WiFiスポットの普及と共に、キャリアのGPS以外からの位置情報補足機能も充実してきている。

こういった中、キャリアがプラットフォームとしての優位性をどこまで発揮出来るかが2011年は注目を集めるだろう。コンテンツプロバイダーと争うか、コンテンツプロパイダーにインセンティブを与えて、自社の陣営に取り込み手を組むか。プラットフォーム機能としてキャリアがどこまで主導権を握っていけるかといった正念場となるだろう。

3.セールストークとしてのクラウドの消失
「クラウド」という言葉が台頭し、いつのまにかパブリック、プライベート、コミュニティ、ハイブリッド等の「クラウド定義」が流行った2010年。
こういった「言葉の定義合戦」はユーザに「概念を啓蒙」する時にブームとなる。概念の啓蒙が終了すれば、言葉自体に意味は無くなり、活用方法に焦点が移る。
2011年はクラウド定義合戦ではなく、「クラウド」という言葉で売れた時代は終わり「ユーザに何がメリットなのか」を訴求する戦いにシフトするだろう。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。