クラウドってなんだろう?

クラウドという言葉が一般的になりつつありますが、企業向けシステムの話であったり、サーバー使い放題と勘違いされたり、”Gmailね”とか”Facebookのことでしょ?”といった意見まで、聞く人・立場によって解釈が異なるのが現状なのではないでしょうか。そこで、今更ながら「クラウド」について考えてみたいと思います。

■IT化の歴史
クラウドの話に入る前に、コンピュータの歴史を、私なりの解釈を入れたクラウド視点で振り返ってみます。

●メインフレームの時代
「コンピュータ」の発展期、とても大きなサーバーのようなもので、主な用途は、企業内の財務・生産・販売管理などの基幹系システム。とても大規模で、様々な処理を同時に行え、企業活動を止めないよう信頼性が高くなるよう設計するため、コンピュータは巨大化していました。必然的に、データ処理は全て一つの巨大サーバーに集約され、入力コンピュータはデータを表示する画面と文字を入力するキーボードのみでした。

●クライアント・サーバーの時代
コンピュータの発展は、処理速度の向上もさることながら、”ダウンサイジング”へと移ります。半導体の小型化やWindows・UNIXなどのオープンシステムの台頭によりこれまで専用の巨大コンピュータで処理していた演算をより小さなサーバーで行えるよう「小型化」がトレンドに、これは日本人が最も得意とするところでもあるのですが、世界的に小型コンピュータの開発が促進されていきました。 また、インターネットが出始め、コンピュータ同士をつなぐための「通信プロトコル」も発展し始めたことから、コンピュータの演算処理は、サーバーとクライアントで役割分担を行うシステム構成になっていきました。また、クライアント側コンピュータの進化で、単体でも動作するソフトウエアが普及していきます。

●クラウドの時代
クライアント側コンピュータの小型化、インターネットの発展、ソフトウエアの個人利用から共有利用へ。ダウンサイジングにより手に入れたコンピュータ環境は、一人一人が使うパーソナルコンピュータの普及が加速することにより、結果的にメインフレーム時代よりも多くのコンピュータが存在することとなりました。その結果、全体最適の考え方から「共有」するという概念が出始めます。 個々のコンピュータに入っていたソフトウエアをサーバー側に集約し共有する使い方で、一度センター集約から個々への分散が図られたデータが、センター側に戻っていくという原点回帰が起こっています。

■クラウドとは?
センターに集約したソフトウエアを異なる利用者で共有する考え方から、ソフトウエアをサービスとして提供する事業者が出てきました。(SaaS:Software as a Service)

また、ソフトウエアから始まった共有の考え方は、サーバーやデータベースをも共有化して、プラットフォームをサービス提供したり(PaaS:Platform as a Service)、ハードウエアやネットワークのインフラ部分だけを提供するサービス(IaaS:Infrastructure as a Service)など、多様化してきました。これらは全てネットワークの中にあることから、ネットワークを雲に例え”クラウド”と言っています。これはサービスデリバリーモデルの分類であり、技術的な観点・利用シーンの観点などで分類可能な様々なモデルが存在します。

■原点回帰
クラウドの特徴として「資産を共有して使う」 ことが挙げられますが、実はメインフレーム時代の考え方に似た使い方となります。当時は資産を共有するという考え方ではなく、コンピュータに複雑な処理をさせるための実現手段として考えられていた訳ですが。また、もう一つの特徴として、実現する技術の原点回帰が挙げられます。メインフレームの特徴である仮想化やクラスタリングなどは、PaaS、IaaSを実現する技術に使われ、複数の異なる契約者を制御するマルチテナントの考え方もメインフレームの実現技術から派生しています。クラウドとは全く新しい技術ではなく、古い資産をバージョンアップした原点回帰のモデルと言えるのです。

■クラウドの分類
これまで記述したとおり、元々は企業向けのITシステムが派生してクラウドのサービスモデルが確定してきましたが、言葉の定義がしづらい分野であり、「ネット越しにサービスを利用する」という意味で、インターネットにある様々なサービスを巻き込み広義で「クラウド」という言葉が使われ始めました。そこで、利用者の視点で整理すると以下のように分類されます。

【開発者が利用する視点】
●企業のシステム部門が利用する
メインフレームに始まったコンピュータの企業向け開発に利用されるモデル。クラウド事業者が提供するホスティングサービスやPaaSを使って勤怠管理や財務会計等のシステム(企業内ITシステム)を開発したり、SaaS提供されているアプリケーションをそのまま利用する。Internet越しの「パブリッククラウド」と企業内VPNの中に存在させる「プライベートクラウド」がある。

●企業向けサービスプロバイダーが利用する
クラウド事業者が提供するPaaS/IaaSを使いアプリケーションを開発し、SaaSとして企業向けに販売する。課金システムや請求代行を行うプラットフォームを選択して開発者に徹するモデルと、ハードウエアやネットワークインフラのみ利用してサービス化するモデルが存在する。

●Webサービス開発に利用する
SNSのプラットフォームに代表されるWebサービスの開発に利用する モデル。ブログエンジンもこれに該当する。大規模な設備を構築せず、必要な分だけ利用することができるので、スモールスタートが可能となるメリットを活かし、多くのWebサービスが生まれている。

●ゲーム開発者やコンテンツプロバイダが利用する
SNSアプリやAndroid/iOS向けのアプリケーションを開発する際に利用するモデル。基本的にサーバー環境を自分で用意することなく開発ができ、企業向けよりもサービスレベルは求められないため、PaaSの普及により開発者自身も個人レベルで開発が可能となり、多くのアプリケーションが流通するようになった。

【利用者視点】
●企業が利用する
勤怠管理システムや財務会計システム、コミュニケーションを活性化するための社内SNSやグループウエアといったSaaS。広義で捉えると、ホームページを開設するためのホスティングサービスや、それに付随するメールサーバーを利用している場合、これもクラウドを利用していると言え(言ってい)ます。

●個人として利用する
Gmailに代表されるプロバイダーが提供するWebメールもクラウドを利用していると言えます。また、上述のとおり、SNSに代表される多くのWebサービスはネット上のサービスであり、クラウドに分類されると考えています。スマートフォンの普及により利用者は拡大傾向にあります。

■クラウドの使われ方
一言でクラウドと言っても様々な考え方があると説明してきましたが、利用者にとってはこれらの分類はあまり関係なく、「意識せず使える」ことが重要だと考えています。例えば電話をかける時に「ネットワークに繋がっている」と意識することがあるでしょうか?電話は繋がって当たり前になりました。それと同じで、「クラウドを使う」というよりは、SNS等を使っていて当たり前に繋がっていることが前提です。クラウドとはネットワーク上にある設備やプラットフォームと言えるため、このネットワークが重要な要素であり、携帯電話の普及により無線のネットワーク環境が発展したことに伴い、当たり前に繋がるクラウドの普及が加速したのだと考えられます。

■携帯電話の進化
少し視点を変え、携帯電話におけるネット接続の歴史を振り返ってみます。

このように、年代が異なるだけで、コンピュータの歴史と同じような進化が繰り返されていることが分かります。また、最近一年で起きたことですが、スレート型PCの普及によりスマートフォン含めた「スマートデバイス」と表現される端末が出揃ってきており、これからの時代は「携帯電話」という枠にはめるのは少し違和感があるかもしれません。「スマートデバイス」はネットワークの向こう側と接続して端末内のデータをネットワークを繋ぐことで、その魅力を最大限に発揮します。既にクラウドと一体化して考えられているのです。

また、通信を支えるネットワークの歴史も振り返ってみます。クラウドという言葉が定着してくる過程に合わせ、ネット接続の速度も上がってきています。また、過去実現済みの高速インフラを高度化(無線化)していく過程にあり、既にG単位のスピードを手に入れた有線ネットワークに続き、無線ネットワークも後数年で追い付こうとしています。

このように図にして見ると、携帯電話の普及を加速した要因である無線ネットワークの進化は、有線ネットワーク高速化の歴史を追いかけていることが、あらためてわかります。
原点回帰とは少し外れますが、同じ高速化という歴史を少しの新しい要素(有線から無線)を入れた形で、着実に繰り返し進化しているのです。

■クラウドに戻ったデータの活用
原点回帰した仕組みとはいえ、新しい要素も含んでいます。それは「共有」です。過去のシステムは企業内の閉じたシステム、いわば身内のデータです。クラウドには様々な企業や個人のデータが集まっています。SNSではソーシャルグラフと言われる人と人との繋がりがクラウド上に形成されています。企業単位でも企業の枠を超えたプロジェクト単位のデータ共有やグループ単位のコミュニケーション環境が存在し、同じデータを共有することが容易になっています。消費動向や同じ趣味をもったコミュニティの形成など、リアル社会の縮図とも言えるデータがクラウド上で展開されています。また、SNS等を活用して情報を集約したデータベースを構築することで、リアルタイム性が付加されたデータを集めることが可能となりました。

例えば株式会社ウェザーニューズが提供するウェザーリポートchは全国各地のウェザーリポーターと呼ばれる方々からの天気に関する口コミ情報を集約して、全国の天気情報がリアルタイムに分かり、ゲリラ豪雨など天気予報ではカバーしきれない情報提供に活用されています。

このように、リアルタイムで公共性の高いデータに活用されるケースも多く、クラウドの普及による新しい情報活用が進んでおり、今後も進化していくと想定します。(口コミの信ぴょう性に関する議論は別の機会に・・)

■クラウドのデータはどこへ行くのか?
一度原点回帰したデータはモバイル(スマートデバイス)の普及により、デバイス側に戻ってきています。まさに、メインフレームからクライアント・サーバーの時代に移行したように、モバイルアプリケーションの普及等により、デバイス側でのデータ処理が増えてくると予測されます。ただし、全てのデータが帰ってくる訳ではなく、例えば様々なデバイスからアクセスしても同じデータを使えるといったクラウドのメリットは残しつつ、処理速度の最適化や無線ネットワークが繋がらない環境での継続性等、利便性の観点でデバイスの処理が増えていると考えています。上述の口コミデータベースに代表されるように、モバイルを使うことで、入力元が場所を選ばず分散化した処理を可能として、大規模な情報ネットワークが完成します。

これらはグリッドコンピューティングやセンサーネットワークという形で研究・実用化が進められています。原点回帰しつつ新しい要素を盛り込んだ形で、進化の歴史が繰り返されるということでしょう。

このようにクラウドとは、コンピュータの歴史とネットワークの歴史を融合して「原点回帰」しながらも「進化」の途上にあるモデルであり、今後進んでいくであろう新しい情報ネットワークの基礎となるインフラなのではないかと考えています。そして一番重要なことは「意識せず繋がること」、すなわち途切れないネットワークと止まらないプラットフォームを作ること。ここに通信事業者の使命があるのだと理解しています。

 

プロフィール
阿部 大輔
阿部 大輔(あべ だいすけ)

通信業界で働いています。社会人になってから、技術畑を歩み続けていたのですが、転職を機に企画へ。5年前からSaaSの世界に足を踏み入れ、「日本の働き方を変える」と意気込みここまでやってきました。まだまだ変わることができる機会は沢山あると思います。その推進力の一端を担えるように業務をこなす毎日です。




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阿部 大輔(あべ だいすけ)

通信業界で働いています。社会人になってから、技術畑を歩み続けていたのですが、転職を機に企画へ。5年前からSaaSの世界に足を踏み入れ、「日本の働き方を変える」と意気込みここまでやってきました。まだまだ変わることができる機会は沢山あると思います。その推進力の一端を担えるように業務をこなす毎日です。