スマートグリッドとは?

2011年の東北北関東大震災で、今まで安全だとされていた原子力発電所があわやメルトダウンかと世界からの注目を集め、原子力発電に対する不安から、クリーンなエネルギーを活用する「スマートグリッド」が注目を集めました。

しかし、注目は集めたものの、キーワードだけが先走り、原子力発電の取り扱い自体も政権交代などもあり思うようには進展はありませんでした。

しかし、東京電力が14年度からスマートメーターの設置を本格的に開始。18年度までに1700万台、23年度までに2700万台の設置を完了する計画を立てました。これに伴い、1000万台以上のスマートメーターを連携させるインフラを構築・運用できる企業の公募を開始しました。電力大手が具体的な取り組みに乗り出したことで再びスマートグリッドに注目が集まっています。

そこで、今回はスマートグリッドについて解説したいと思います。

スマートグリッドとは?

まず始めにスマートグリッドという用語について説明します。スマートグリッドの「グリッド」という言葉は電力業界で一般的に使われている言葉で、発電、送電、配電、消費の全体を支えるためのインフラである「送電網」の事を指します。そして、スマートと言うと「痩せる」という意味を想像しがちですが、スマートグリッドのスマートには「賢くする」という意味が込められています。

アメリカではコンピュータ制御の最新鋭「ハイテク兵器」をスマートウェポンと呼ぶ事があります。スマート・グリッド=「ハイテク送電網」と言えば、なんとなくピンと来るものがあるのではないでしょうか。

送電網のハイテク化、つまり、スマートグリッドとは、電力会社が古くから運営している発電所や電線といった、「送電網(グリッド)」と呼ばれているインフラを、ITを活用して「賢い送電網」に進化させることです。これまでの電力供給は発電所から需要家(消費者)へという一方向の流れでしたが、「賢い送電網」になる事で、電力会社と需要家の間で必要とする電力等の情報をITでリアルタイムに双方向で収集・統合する事が可能になります。

その結果、電力会社等の電力供給側では電力の需要と供給を最適化し無駄な発電を抑え効率的に電力を供給する事が可能になりますし、停電等の発生状況も検出しやすくなるため信頼性も向上します。一般家庭や企業等の需要家側では太陽光等で発電し余った電力を売電するといった事が可能になります。

電気の特徴

電気とは一冊の本が書ける程奥の深いものです。電気の特徴を全く知らずにスマートグリッドの必要性を正しく理解する事は困難であるため、スマートグリッドを理解する上で重要な3つの電気の特性を簡単にお話します。

1.電気にも品質がある
一般的なコンセントから供給される電気の電圧は100ボルトか200ボルトです。もし、コンセントを利用した時に想定以上の電圧が流れていれば、接続した機器が故障するかもしれませんし、最悪人体にも影響を与えます。

このような事態に陥らないように、普段私達が何気なくコンセントに電源コードを指すことで使える電気にも「品質」が定義されています。電気の品質は主に周波数、電圧、高調波により決まります。これらの要素を一定範囲内で安定的に供給する事が「高品質」であると言われています。

電力の品質基準値は電気事業法施行規則や電気設備技術基準にて定義されており電力会社はこの基準に従い電気を送電しています。この基準値があるお陰で、私達は大都会の高層ビルでも人里離れた僻地でも、安心・安全な電気供給を受ける事が出来ます。

2.電気は貯める事が出来ない
電力は「生産即消費」という性格があり貯める事が出来ません。蓄電池があるじゃないか!というのは勿論その通りですが、発電所で発電される電気の全てを蓄電池に貯めておくという事は現時的には不可能です。そのため電気を作り置きして置くことは出来ず、使う分だけ発電するという事が必要となります。

もし、発電する量と、消費する量が一致しなければどうなるのでしょうか?発電量が消費量より多い場合には電気の周波数が上昇し、逆に発電量より消費量が少ない場合には周波数が低下します。

電気の周波数変動は精密機械の誤動作の原因となります。例えば化学繊維を作っている工場の電気の周波数が変動すると、糸巻き機の回転速度が変化し糸の太さが乱れたり、細かい糸切れ等の発生原因になります。IPodやスマートフォンを作るのに欠かせない大容量メモリを生産する超微細技術(ナノテクノロジー)を利用する超精密工場では、一瞬の周波数変動でも数億円の被害を出すことにも繋がりかねません。

このような事態を避けるために、電力会社には電圧と周波数を維持し安心、安全な電気を送り届ける責任があります。この責任を果たすため電力会社は送電網全体で需給バランスを制御し、必要な量を必要な分だけ発電する制御を行っています。これを周波数・潮流制御と呼びます。このように電気とは、作りすぎても駄目、足りなくても駄目という、実はとても調整が大変な代物なのです。

3.電気は電圧の高い所から低い所へ流れる
発電所で発電された電気は数十万ボルトという非常に高い電圧で送電を開始し、一般家庭へ届く時には100ボルト前後に落ち着きます。このように超高圧で送電を開始する理由は送電による電気の損失を抑えるためです。電気を送電する時に発生する電流は熱を生み出します。この電流に比例して発生する熱量が電気の損失の元となります。

発電した電気を極力失わずに需要家へ届けるには、送電時の「熱」を如何に抑えるかが重要です。そのためには熱を生み出す原因である電流値を小さくする必要があります。電流値は電圧に反比例するため電圧を大きくすれば電流値は小さくなり、電圧を小さくすれば電流値は大きくなります。この特性を活かすと超高圧で送電を開始する程、電流が小さくなり発生する熱量も減少し発電した電気の損失を防ぐ事が可能になると言えます。このため送電の大元となる発電所では超高圧で電気の送電を開始し、変電所にて扱い易い電圧に段階的に下げていき、需要家の基へ電気を届けます。

もし、これが逆の流れなら、せっかく発電された電気は送電途中で大量に失われてしまう事になります。

スマートグリッドは何故必要なのか?

日本での普段の生活を考えると、至る所にコンセントが存在し、コンセントに電源コードを繋げればいつでも使えます。コンセントがあるのに電気が使えなかったり、電気の品質が悪くて機器が誤動作して困ったという経験のある方は殆ど存在しないでしょう。特に不自由や不都合を感じない現在の送電網を、何故ハイテク化する必要があるのでしょうか?実はスマート・グリッドにはとても重要な役割が存在します。

・ハイテク化がゴールでは無い、スマートグリッドの真の目的
日本政府は「新成長戦略」(基本方針)(2009年12月30日閣議決定)を発表しました。この発表によるとこれからの日本の進むべき道として2020年までに環境、健康、観光の三分野を軸に100兆円の「新たな需要」を創造するとあります。そしてこれを達成するために6つの戦略分野が発表されました。

この中の1つに日本の強みを活かす成長分野として「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」(以下、環境・エネルギー大国戦略)が挙げられています。

この環境・エネルギー大国戦略は2020年までに以下の三つの目標を達成する事とあります。
 1) 日本の民間ベースの技術を生かした世界の温室効果ガス削減量を13億トン以上とする
 2) 50兆円を超える環境関連市場の創出
 3) 140万人の環境分野の新規雇用創出

これら三つの目標から環境・エネルギー大国戦略とは「地球温暖化防止のための温室効果ガス削減」、「環境関連市場を軸とした景気対策」という、地球の環境を考慮した経済成長戦略と考える事が出来ます。従来までの単なる経済成長だけを追求する目標とは異なり、地球環境への配慮も盛り込まれている所が大きな特徴と言えるでしょう。スマートグリッドの技術的な側面では、送電網のハイテク化を指しますが、環境・エネルギー大国戦略という大きな目標を達成するためにはスマートグリッドが必須と言われています。それでは、この大きな目標を達成するためにスマートグリッドがどのような役割を果たすかを見ていきましょう。

1.地球温暖化防止(温室効果ガス排出削減)
民主党政権が掲げた「民主党マニフェスト」の中にある環境政策には「温室効果ガス排出25%削減」という内容があります。この政策は2020年までに温室効果ガスを1990年比で25%削減し地球温暖化を防ごうというものです。環境省の発表によると1990年の温室効果ガス排出量は12億6100万トンであり、ここから25%削減となりますので9億4500万トンが目標値となります。2008年度の日本国内の温室効果ガスの総排出量は12億8600万トンですから、約3億4000トンの削減目標となります。

民主党政権誕生後に開催された、国連気候変動首脳級会合にて、鳩山首相はこの「温室効果ガス25%削減」を世界に向けて発表しました。その瞬間この政策は、日本国内の「政権公約」から、「国際公約」に変化し、大きな話題となりました。

日本では2005年に発効された京都議定書にて1990年に比べて温室効果ガスを6%削減することを世界に向かって約束する「チーム・マイナス6%」と呼ばれるプロジェクトを既に開始しています。しかし、2010年現在、温室効果ガスは基準年に比べてマイナス6%どころか、1.9%増加するといった事態に陥ってます。

マイナス6%を達成する事すら難しかったのに、25%削減という高い目標を達成するためには日本国内の温室効果ガス排出量の約95%を占めるCo2を削減する事が不可欠です。太陽光発電等のCo2を殆ど排出しない自然エネルギー(再生可能エネルギー)の活用、エネルギー利用効率を高めて更なる省エネルギーを達成するといった、抜本的な改革が必須と考えられています。

・自然エネルギーを活用するためにスマートグリッドが果たす役割
 分散型電源設備への対応
 原子力発電所や火力発電所といった大型の発電設備から一般家庭等の需要家へ電気を供給する事を「集中型電源」による発電と呼びます。集中型電源は現在日本国内の電力需給システムの主流な方式です。

 一方、工場や住宅、オフィスビルなどの需要地に発電設備を設け必要量を発電する方式を「分散型電源」による発電と呼びます。需要地に隣接して分散配置される小規模な発電設備全般を含みます。発電設備が需要地に近接していることから、送電によるロスが少ないという特徴があります。最近では個人の住宅の屋根等に太陽光発電設備等が取り付けられ各家庭で発電するケースが出てきていますが、これらも「分散型電源」に該当します。

 Co2を排出しない自然エネルギーによる発電を利用するためには、「集中型電源」用に作られたグリッドが「分散型電源」に対応する事が必要になります。では、「集中型電源」と「自然エネルギーを利用した分散型電源」では何が異なるのかを見てみましょう。

 一箇所で発電量を人為的に制御可能な「集中型電源」は電気の品質維持に適しています。しかし「分散型電源」の1つである自然エネルギーによる発電量は、人為的に制御不可能な自然の力を活用して発電します。このため天候に左右されやすく発電量が安定しないという性質があります。例えば太陽光発電を例にすると、天候が良ければたくさん発電する事が可能ですが、反対に天気が悪い日が続けば十分な電力を発電する事が出来ません。自然という人間の制御が効かないエネルギー源に頼る発電は、発電量が安定しないため、消費量とバランスを取るという事が難しくなり、結果として周波数変動を発生させる恐れがあります。

そのため発電量の予想が難しい自然エネルギーによる「分散型電源」を活用するためには以下のような電気の需給を調整する仕組みが必要になります。
 例 太陽光を利用した発電の場合
   1.天候の良い日に太陽光で発電する
   2.各家庭の分散型電源で作られた電気を「蓄電池」に蓄える
   3.分散型電源による発電量が十分で無い場合には、蓄電池の電気を利用する
   4.蓄電池の残量が無ければ従来の発電所から電気を購入する

このように、太陽光発電を例に取ると、天気の良い日は十分な電力を得る事が可能ですが、天気が悪い日には従来通り集中型電源からの供給を考える必要がありますし、作りすぎた電気を蓄える方法を検討する必要があります。

このような動作を可能にすめためには、電力会社は分散型電源でどの程度発電されているのかを把握する必要があります。もし、発電量が把握出来ていなければ、突然大量の電力の要求が発生するかもしれませんし、電気をいつも通り発電したにも関らず、需要家側の分散型電源の電力が十分にあるため電気が余ってしまうかもしれません。前述した通り電気には品質があり、発電量と消費量が一致しない場合には、電気の品質は低下し、停電や事故の原因となる恐れが出てきます。

こういった事態に陥らないために電力会社と需要家側の分散型電源との間で、現在の発電量、消費電力量を双方向で通知しあう必要があります。

しかし、現在のグリッドは「集中型電源」から各需要家へ電気を一方通行に送電する事を前提に考慮されているため、こういった発電側と需要側で細かに情報をやりとりする事を前提として作られてはいません。そのため、グリッドをハイテク化しこういった情報をITを使って双方向で情報交換出来る仕組みを作る必要があります。

上記のような理由から、「分散型電源」の1つであり温室効果ガス削減に効果的と言われる自然エネルギーへの依存度を今後一層高めていくには、スマートグリッドの完成が必須条件という事になります。

2.資源性エネルギー依存体質からの脱却
自然エネルギーを利用するのは地球温暖化対策だけが目的ではありません。2009年エネルギー白書によると資源の乏しい日本のエネルギー自給率は僅か4%、原子力を含んでも19%という数値であり、現在主流の火力発電、原子力発電といった資源性エネルギーの原材料も海外からの輸入に依存している状況です。OECD諸国のエネルギー自給率平均値は約70%という値を考えれば非常に低いエネルギー自給率である事がわかります。

1gのウランから石油2000リットル分の熱エネルギーを作り出すと言われている原子力発電所でさえ、限りある天然資源である「ウラン」が枯渇すれば、エネルギーを作り出す事が出来ません。しかし、地球の活動からエネルギーを生成する自然エネルギーであれば、天然資源の乏しい日本でも、大量にエネルギーを生成する事が可能です。無尽蔵の自然エネルギーを活用し、エネルギー自給率を向上させる事は「エネルギーセキュリティ」という観点からも重要な施策です。

3.Co2削減の切り札、電気自動車時代のための新たな社会基盤作り
日本国内における自動車の保有台数は、1969年に約千四百万台でしたが、2009年には約八千万台にまで増加し如何に自動車が社会になくてはならない存在であるかかがわかります。しかし、現代社会になくてはならないガソリン式自動車はCo2排出量という観点でも大きなウェイトを占め、無視できない存在に成長しています。環境省の発表によると、2008年度の日本におけるCo2の総排出量は12億1,600万トンです。このうち自動車の排出するCo2が含まれる運輸部門のCo2排出量は2億3,600万トンであり、Co2総排出量の約21%を占めています。

Co2を大量に排出するガソリン車に替わって、Co2を殆ど排出しない電気自動車(EV)の利用は約3億4000トンの温暖効果ガス削減目標を掲げる「温室効果ガス排出25%削減」を達成する上でも大きく貢献すると期待されています。

しかし、Co2削減効果が大きく期待されているEVですが、普及には幾つかの課題が存在します。

① 走行距離
一般家庭向けEVである日産自動車の「リーフ」を例にしてみましょう。現時点で最高の技術を詰め込まれたリーフの走行可能距離は満充電時で160kmとされています。日産自動車の発表では「世界的に見ても80%以上のドライバーは1日の走行距離が100Km以下」という事であり、満充電時で160kmという走行距離は日常生活の中で市街地の運転を楽しむには十分な走行距離だと考えられます。しかし、ガソリン車であれば3、400kmの走行距離を誇る車はざらにあるため、高速道路を利用した旅行等では東京IC―静岡IC間が約160Kmであり、週末にちょっと遠出をといった長距離運転を好むドライバーにとっては若干物足りないと感じる走行距離かもしれません。

とはいえ、数年前に比べればEVの走行距離は大幅に伸びており、課題の1つではあるものの、他の課題に比べれば最近はそれ程問題視される事は少なくなってきています。

② 車両価格
EVの中にも100万円台で購入可能な車種も有りますが、この価格帯のEVは乗車定員が2名だったり、走行可能距離が100Km以下であったりと購入を検討する際には注意が必要です。乗車定員が4名、走行距離100Km以上といった一般的なガソリン自動車と同程度の感覚で利用可能なEVとして、現在発表されている三菱自動車のi-MiEVと富士重工のスバル・プラグイン・ステラがありますが、量車種共に400万円台後半と決して安いとは言えません。

③ 蓄電池
最も大きな技術的な課題を含んでいるのが、EVに搭載する蓄電池と言われています。現在発売されているEV又はHVで利用されている蓄電池はニッケル水素タイプ、リチウムイオンタイプの物が大半を占めています。これらの蓄電池に共通する事はコストが非常に高いという事です。

現在市販されている三菱自動車の「i-MiEV」には16kWhの電池容量を持つリチウムイオンバッテリーが搭載されていますが、1kWh辺りの単価を20万円と想定すると、車両価格の320万円分が蓄電池のコストという事になり、これは車両価格の約73%を占めている事になります。この値はあくまでも相場に基づいた価格であるため、実際はもう少し安いと考えられますが、一般的にEVの車両コストの50%前後は蓄電池が占めると言われています。EVの課題である車両コストをガソリン乗用車並みの価格にまで下げるためには、蓄電池のコストダウンを図りつつ、走行距離を伸ばすために蓄電容量の増加を達成するのが非常に重要な課題と言えます。

④ 充電インフラの整備
前述した①~③までの課題はEV車両本体に関する課題であり、スマートグリッドに直接関係はありません。EVの普及に何故スマートグリッドが必要か?それは、充電インフラの整備にあります。

・充電環境設備の確保
EVの走行距離は一日の走行距離という点では市街地を走るには十分な性能になってきていると言えますが、それでも一日に100Km前後走る営業車等の場合にはおいては、車を運転しない深夜の駐車時に充電しておく事も重要です。

現在発売されているEVの大半は、家庭用の100Vコンセントで充電可能です。幸いにも家庭の駐車場に電源コンセントが有る場合にはそれを利用して充電可能です。しかし、現実には大半の駐車場には電源コンセントがありません。そのためEV充電用の電源コンセントを追加する工事が必要となります。一般家庭であれば、家庭内から電源ケーブルを延長することや、家庭用の充電スタンドを購入する事で対策を行う事が可能です。しかし、集合住宅の駐車場や街中の駐車場を契約しているケースにおいては、共有スペースでもあるため、個人の判断で充電スタンドを設置するわけにも行きません。このようなケースにおいては設置費用の負担の問題等もあるので、充電スタンド設置までに時間がかかったり、設置されたとしても月々の駐車場利用料の増加といった別の問題が発生する原因にもなります。このように普段私達が利用している駐車場に充電環境を整える事も課題の1つと言えるでしょう。

・充電スタンド数
家庭の駐車場で充電出来なくても、走行距離がガソリン車に比べて短くても、街中で充電出来る設備があれば問題になる事も少なく無いと考えられます。しかし、ガソリンスタンドのように、EVを充電出来る設備をもった充電スタンドの数は多くありません。ガソリンスタンドの数は全国石油商業組合連合会の発表している平成21年度事業計画によると、全国で約4万2千店舗存在すると記載されています。しかし、EV用の充電スタンドは、ガソリンスタンドの数%にしかすぎません。しかも、大半が東京都と神奈川県に集中しており、全国的にみれば充電スタンドの数は十分とは言えません。

今後はEV・PHタウン、首都圏、商業施設を中心に充電インフラが整備されていくと考えられますが、2011年現在では、まだ充電スタンドの数は十分とは言えません。

・急速充電設備の拡充
現在充電スタンドで供給されている電源プラグには100V(普通充電)/200V(倍速充電)/急速充電といった三種類存在します。電源プラグの種別に応じて充電に必要な時間が左右されます。実際の充電時間は車両により異なりますが、100Vのプラグ形状であればフル充電に8~14時間、200Vのタイプで5~7時間必要となります。急速充電タイプの物であれば15~30分の充電で約80%充電され、約60km走行可能になります。一般的なセルフサービスのガソリンスタンドで給油にかかる時間が15分程度と言われていますので、ガソリンスタンドと同じ感覚で利用するためには、急速充電タイプの充電スタンドを利用する必要があります。しかし、急速電源タイプは最近登場し始めたばかりであり、大半の充電スタンドが100V/200の電源プラグという状況になっており、急速充電設備の拡充が望まれます。

・EV充電インフラの充実に伴う電力需要増
大量のガソリン車が今後EV車に移行していけば、自動車から排出される1台辺りのCo2排出量は削減されることでしょう。しかし、今までガソリンにより給油していた自動車がEVになるとしたら、エネルギー需要がガソリンから電気に変化する事になります。もし、新たに発生したEVの電力需要を満たすために、新たな発電所の稼動が必要になるとしたらどうなるでしょうか大量の石炭を必要とする火力発電の新設が必要になれば、ガソリン車を越えるCo2を排出する事に繋がります。

このような事態を避けるために、多数のEVが一斉に充電を開始しグリッドへの負荷を上昇させないように、エネルギー負荷を平準化する機能が必要になります。この役割を担うのがスマートグリッドです。スマートグリッドが可能にする電力の需給調整機能により、各EVの充電時間をずらしたり、EVを分散型電源用のを巨大な蓄電池として利用するということが検討されています。

スマート・グリッドを実現するための課題

・ディカップリング
スマートグリッドは我々消費者にとっては、クリーンなエネルギーの使用により電気料金が安くなるという利点があります。しかし、これは電力会社にとっては、収益が減る事を意味します。多額の設備投資を要求されるスマートグリッドを実現して地球に優しい電力会社を目指した結果、自分達の経営が行き詰ってしまうのでは、実行するにはリスクが伴います。

そこで、この電力会社の収益減を国が助成する制度をディカップリングと呼びます。こういった補償制度が米国等では既に実施されていますが、こういった助成制度も合わせて推進しなければならず官民一体となり推進する事がスマートグリッドには求められます。

スマートグリッドは未来へ続く緑の架け橋

開発しなければならない技術、全世帯への導入までに必要となる時間等、解決しなければならない課題は山積みですが、インフラ技術は日本が世界に誇れるものであり、今回の震災でもそのインフラ技術の高さを改めて世界が認める事になりました。

しかし、優れたインフラ技術を誇りながらもスマートグリッドの全体構想やビジネスモデルの検討はインフラ後進国である米国の背中を追いかける状態になっています。この震災で受けた電力設備の復興をきっかけにして、官民一体となり、世界が目を見張るスマートグリッド実現に向けて前に進む事が出来るなら、日本の優れた技術がを世界へ輸出する大きなチャンスになるでは無いでしょうか。

震災で受けた被害や、心の傷が癒えるにはまだまだ多くの時間を必要とするでしょう。しかし、いづれ日本はこの震災から立ち上がり前へ進みだすでしょう。そんな日本で、スマートグリッドはこれからの日本を背負う若者達が「希望溢れる未来」へ進むための「緑の架け橋」になるのでは無いでしょうか。

スマートグリッドの最新状況を学びたい方へ

本記事は、2011年3月23日にITmediaオルタナティブブログに掲載したものですが、この記事は私がスマートグリッドの書籍を書こうとしていた時の原稿です。従って2010年の時に書いていたものです。スマートグリッドの理解自体に支障はありませんが、EVを取り巻く状況等が若干古くなってしまっています。スマートグリッドの現状を学びたい方は、最新の書籍等を購入されることをお勧めします。

比較的新しくて、評判の良い書籍を一冊紹介します。国民一人一人が発電所となる「スマート国民総発電所構想」プランBと呼ばれる新しい案。エネルギーの現状を学びたい方にお勧めです。
・スマートグリッド「プランB」―電力大改革へのメッセージ



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。