JANOG31 「インターネットの未来」 変化する利用者

2013年1月25日Greeさんで開催された、JANOG31の最後のセッションで「インターネットの未来」という内容のパネルディスカッションでパネラーとして参加させて頂きました。

私はプレゼンを行う前に、下書きを作成して、論理的な展開になっているか、全スライドを通して矛盾がないか、主張は一貫しているかといった点を確認します。ここから登壇時間等に応じて削っていくのですが、ドラフトで作成した下書きの内容を公開します。当日参加出来なかった方に、少しでも講演の雰囲気が伝われば幸いです。

インターネットで成功する秘訣

インターネット・ビジネスを成功させるために重要な指標として大切な物と挙げられる物に、この三つがあげられます。

  • 顧客数
  • 発信される情報の影響力
  • 顧客の定着率(中毒率)

ユーザを集めることは大切です。ここが無ければ始まりません。しかし、ただ集めただけでも駄目です。夢中になって貰い、リピートして貰う必要があります。そして、これは最近の傾向ですが、インターネットはソーシャルメディアによって口コミを伝搬するプラットフォームになりました。ですから、発信される情報の影響力も重要な指標に加わってきました。

そして、これらを満たすために、サービスを考える側として考えなければいけないことは何でしょうか?誰が、何のために利用しているかを知るということです。

このセッションでは、インターネットの「利用者」とは誰なのか?どんな利用のされ方をしていくのかを、少し未来の話も交えて、考えてみたいと思います。

変化するインターネット

民間にインターネットが解放されてからインターネットの利用方法は暫くの間、革新的な電子メールや膨大な量の情報を瞬時に検索、公開することで生じる情報伝達が効率化されることで生まれる生産性の向上が主な用途でした。

変化するインターネット

インターネットの利用者は何か情報を検索する時に、インターネットに能動的に接続していました。インターネットというものがブラウザの向こう側に存在していた時代ですね。

この時、普通の人が生み出すトラフィックの大半は、人間の活動時間によるものでした。朝起きた時、昼休み、帰宅後にインターネットのトラフィックが増えるという人の生活のリズムがインターネットのトラフィックに反映されていました。

ところが、2006年前後からクラウドやスマートフォンの普及の兆しが見え始め、利用形態が大きく変わっていきました。スマートフォンは通信事業者のビジネスモデルを大きく変えました。人がインターネットにアクセスする目的も変わりました、「検索」を行うだけがインターネットでは無く、動画を見たり、友達の投稿にいいねをしたり、コミュニケーションやエンターティメントを楽しむプラットフォームへ変化していきました。

ソーシャルメディアの普及はトラフィックトレンドに大きな変化をもたらしました。人の気分次第で無名のサービスに瞬時に莫大なトラフィックが集まりますし、集まったかと思えばすぐしぼむ。トラフィック需要が読みづらくなりました。

そして、もうこの頃になると、インターネットは常時「携帯」しているこが当たり前で、インターネット側から頻繁に情報が「プッシュ」されてくる、誰も「インターネット」というものを意識しなくなりました。「インターネット」というものが特別なものでは無くなり、生活空間の中にごく自然に存在するものになりつつあるのでは無いでしょうか。

二つの視点で考える必要のあるインターネット

そんな私達が普段利用している、1992年に一般に公開されたインターネットですが、私達は誰もが当たり前のようにインターネットを利用していると考えています。

しかし、世界でインターネットを利用している人口は約24億人です。世界の人口は70億です。三分の一程しか利用していないということになります。これもつい最近の話なんですね、ようは私達が当たり前のように利用しているインターネットは、先進国で教育を受けた人達が利用していたということになります。

時代と共に変化しつつあるインターネット利用者

これから先進国は高齢化社会になり、新興国は爆発的に人口が増加します。世界全体のパイで考えれば、これからグローバルで加入者を獲得しようとするならば、新興国に目を向けなければなりません。

現在も新興国でインターネット利用者が拡大しているのですが、新興国のユーザが拡大するにつれてある兆候が見られるようになりました。一つが識字率です。誰もが文字を読めて当たり前の先進国とことなり、教育が行き届いていない新興国では誰もが文字を読めるというわけではないんですね。文字を読めない人達もインターネットを利用するようになってきました。

次に考えなければいけないのが所得ですね。インドの中間層の月収は2万5千~12万5千円程度と言われています。皆さんが気軽に購入するiPhoneやiPadは新興国の人にとっては月収よりも高い状況にあるんですね。

新興国で変化するCPとISP/キャリアの役割

そんな中で、グーグルやフェイスブックの取ってるアクションを見ていると面白い動きをしていることがわかりました。FacebookやGoogleは自社のサービスへの接続に関して無料で提供するプランを提供しています。また、グーグルやアップルは音声入力に力を入れています。音声で指示が出来るなら文字が読めるかどうかは関係ありません。グーグルやアマゾンは競って低価格のタブレットを開発しています。インドの有名なAakashというタブレットは五千円を下回る価格で購入出来ます。

デジタルデバイドを解消するスマートデバイス

こういった動きの何が面白いかと言えば、もしグーグルがこういったアクションを起こさなければ新興国でインターネットユーザは思うように増えないんじゃないかと感じたからです。「所得が少ない」、「識字率が低い」なら加入者が増えなくても仕方ない、と考えるのが普通の企業の考え方です。
「所得が少ない」、「識字率が低い」ならどうしようか?を考えて対策を考え、その条件ではインターネットを利用出来なかった人たちを、インターネットを利用出来るようにしているということですね。

新興国で変化するCPとISP/キャリアの役割

ほんの少し前まで、グーグルは「フリーライド」と言われ世界のキャリアから槍玉にあげられる存在でした。しかし、新興国では彼らが通信キャリアのビジネスをサポートしている。先進国でもフランスの通信事業者オレンジはグーグルに通信コストの一部を負担させています。

気がつけばコンテンツプロバイダーがインターネットユーザを獲得し、キャリアが月額の通信料を徴収するという構造変化が起きていいます。

人に変わる新たなインターネットの利用者

先進国ではどのような変化が起きるでしょうか。一つは、複数デバイスの増加です。一人が複数のデバイスを所有し、2020年には約500億の機器が存在し、一人辺り10台以上のデバイスやセンサーを保有していると言われています。でも、私の場合は既に九台持っています。2020年には20台位になっているかもしれませんね。

internet of things

一人辺りが持ち歩くデバイスの数が増え、その機械と機械が通信を行うようになります。街中でも至る所にセンサーが増えてきました。先進国でインターネットを利用するユーザとは、近い将来、人間よりも機械の方が多くなるということです。

機械が増えた時に起きる変化とは何でしょうか?私は2つあると考えています。一つ目は通信時間の変化です。人間がインターネットを利用する時には可処分時間に通信が行われていました。昼休みになればヤフーニュースのトラフィックが急増するのは有名な話ですね。人間は可処分時間に左右されるので、深夜や早朝にはトラフィックは落ち着きました。

しかし、機械に可処分時間はありません。つまり24時間トラフィックを発生させ続けるということです。もう深夜の二時から四時はメンテナンスタイムでは無いのです。

次に、人間のインターネットは来訪者に広告を見て貰うことが収益源でした。しかし、機械は広告を見てくれません。増え続ける機械に対してどうやってマネタイズすべきでしょうか?これは色々考えられると思いますが、一つの解はAPI課金収入では無いでしょうか。先日グーグルはグーグルトランスレートと呼ばれる翻訳サービスのAPIを有料化しました。

広告を見て貰うという発想から、APIを利用して貰うということが重要になるでしょう。そうなった時にエンジニアはどうすべきでしょうか?活躍する場がもっと増えると考えています。なぜなら広告は多くの人を呼べば良いわけですから、サービスの企画が勝負でした。面白ければ良かったんですね。しかし、多くの人や企業がお金を払って使いたいAPIとはどんなものでしょうか?グーグルトランスレートのように高度な技術を必要とする、いわば高いスキルを持ったエンジニアが活躍出来る舞台が増えるということです。

現実社会により近づくインターネット

ここまでの内容をまとめてみましょう。人間の世界ではインターネットは先進国と新興国でそれぞれの事情に合わせた変化を遂げていくでしょう。それを覆うように「物のインターネット」がある時からインターネットの主要な利用者になっていくでしょう。

しかし、ポイントはこれらの変化は個々の組織や人間が独自の判断で増加していくということです。

現実社会により近づくインターネット

そこで米国のGEが「産業のためのインターネット」の必要性を提唱しています。無計画に増殖する機器やデータをもっと計画的に有効活用しようということです。国や言語によるレイヤーから、産業というレイヤーが追加されるということですね。

更に私は政府レベルでもインターネットへの関与が強まると考えています。増え続ける人口が簡単に繋がるということは、政府にとって脅威になる恐れがあるからです。また、インターネットが作り出すボーダレスな社会に対応した政府機能のデジタル化が行われていくと思います。
 
個々の組織や個人レベルの発展から、より大きな枠組みで利用する新たなレイヤーが登場するでしょう。

現在のインターネットは第三フェーズ

三つのインターネット

最後にまとめると、このように変化していくと考えています。人だけのインターネットから、物のインターネットが現れ、それらを管理するためにIndustrial Internetという機能が必要とされるのではないかと。

今までは「人間中心」のネットワークでしたから、機械や産業から必要とされるインターネットに変化していかなければならないということですね。

今までの「変化」は主に、新たなプロトコルの追加や、個々の機械のスケールアップの話が多かったように思います。しかし、ここ最近インターネットの技術革新の議論の根幹となっているのは抜本的なアーキテクチャの改革を議論する場が増えてきているように思います。プログラマブルネットワーク、SDNですね。

これら3つのレイヤーが生まれようとしている現状と、プログラマブルネットワークへのアーキテクチャの転換が提唱されるのは一件繋がっていないように見えて、必然のように感じます。

グーグルやアマゾンといったコンテンツプロバイダーには「自分たちの考えるインターネットの形」があるように感じます。その理想像に向けて技術革新をうながしていく、この図の上半分から下半分へのアプローチですね。キャリアやISPのインターネットの進化の形はこの図の下半分を横方向へ進化させて行く形のように感じています。最近騒がれるSDNは、コンテンツプロバイダーの考える「次のステップ」を実現するためには、様々な機械やAPIと連動して動作するネットワークのアーキテクチャが必要になってきたのでは無いでしょうか。

私の予想が当たるかどうかはわかりません、しかし、インターネットという存在が大きく形を変えていくことに疑問はありません。なぜなら、これからもっと重要になり、なくてはならないものになっていくからです。そんな中で変わらないものがあるとするならば、未来を切り開くのはここに集まっているエンジニアが変えていくということだけなのです。



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    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。