通信事業者 2012年度 Q3決算比較

2012年度の通信事業者三社の決算が出揃ったので各社の状況を見てみたい。まずは、各社の収益状況を下記表にまとめた。

通信キャリア2013年Q3累計決算

純利益ベースで見るとドコモのみ増収増益となっているが、これは前期からの税制改正による影響での増収。企業の本来の営業力を測る売上高、営業利益ベースで見るとドコモは増収、減益となり、ソフトバンクは二桁増、KDDIに至っては通期の売上高を500億、営業利益を50億の上方修正を発表している。

しかし、ドコモも冬モデルが好調な売れ行きを見せており「反撃に転じた」ことをアピールし、各社共にQ2の決算と比較すれば明るい決算発表となった。

続いて、各社の決算ハイライトを見てみよう。

NTTドコモ

冬モデルの販売が好調で発売2ヵ月でAquos Phone Zetaが約44万台、XPERIA AXが約47万台を販売。スマートフォンの販売台数は1月6日時点で1000万台を突破。Xiの契約数も1月9日時点で900万契約を超え計画を上回るペースで推移していると、「売れているドコモ」をアピールした。

ドコモの強調する決算のポイント

  • パケット収入 14,769億円(前年同期比 +7.7%)
  • 総販売数 1,757万台(前年同期比 +14.0%)
  • スマートフォン販売数 969万台(前年同期比 +75.2%)
  • Xi 契約数 868万(前年同期比 +290%)

ドコモの今後の戦略としては、解約率を低下させ、魅力ある適量の端末をリリースし、顧客満足度を下支えする原資であるインフラを強化し、顧客基盤から新たな市場を育てていくこと。

・今後の注力ポイント①「解約率の低下」
ドコモは解約率を現在の0.8%から0.6%へと低下させ、新領域ビジネスの基礎固めを行う方針であると発表した。また、ドコモは他社と比較して商戦毎の投入端末が多く「無駄玉が多い」ことをアナリストらが指摘。ドコモは今後は投入端末の「絞込み」を行い経営効率の改善を行うとコメントした。



・今後の注力ポイント②「Xi 150Mbps」へ
xiの速度を150Mbpsまで引き上げる計画を発表。xi用基地局を2013年6月には一万局にすることを発表し、「技術と品質のドコモ」が健在であることを示し、LTE市場で他社を引き離す方針を示した。

docomo xi

・今後の注力ポイント③「dマーケット」
新事業領域一兆円に向けてサービスの拡大が順調に進んでいる。その一環としてファッション通販サイト「MAGASEEK」を運営するマガシークのTOBを実施すると発表した。Huawei製の「dtab」を発表。

  • dマーケット収入 3Q累計約140億
  • しゃべってコンシェル 利用数 2.8億回
  • dビデオ 370万契約・7000タイトル
  • dゲーム 登録数30万超
  • dショッピング 訪問者数150万人・購入単価約3500円

ソフトバンク

ソフトバンクの決算は「絶好調」の一言に尽きる決算となった。四半期の数値だけを見ると「増収、減益」となているが、これは前年同期に米国 Yahoo!株の譲渡益、Renren Incの上場益が加算されていたことが主な要因。本業の営業力を示す営業利益でみると前年同期比12.6%増とまるで通信セクターが「成長市場」のような錯覚を感じさせる好業績となった。

ソフトバンクの強調する決算ポイント

  • 営業利益 6,000億円突破(13%増)
  • 国内4,000万回線 目標を達成

ドコモの営業利益が7021億であり、営業利益ベースではドコモの背中が目前に迫っている。イーモバイル買収効果で国内回線数が四千万回線に到達したことを強調した。

今後の注力ポイント① 国内営業利益 8,000億円
ソフトバンクの今年度の通期営業利益目標は7000億となっているが、これを2013年度には8000億を目指すとした。もし実現すればドコモとの差は僅か200億。今年度ドコモの背中が見えるまでに成長したが、来年度はドコモの背中に「タッチ」出来る距離へと接近する。

実現に向けてヤフー、ガンホーの好調もアピールし、収益基盤は「iPhone」だけでは無いソフトバンクを印象づけた。

今後の注力ポイント② 最後の課題「品質」の改善
Q2よりSprint買収の経緯から世界を意識した決算発表となったが、Q3はそれに加えて通信品質をアピールする決算となった。プラチナバンドの基地局が1万6千局に到達。その成果を音声接続率、データ接続率という指標を元に「品質」を加入者目線で可視化した。

第三者機関によるLTE調査

音声接続率

データ接続率

更にプラチナバンド対応基地局数を前倒しで増設し、2015年3月には3万6千局を目指すとした。

auがApple製品を扱うようになり加入者の選択肢に「品質」も加味されるようになるとみるや、即座に「品質のソフトバンク」をPRするソフトバンクのプロモーションには相変わらず関心させられる。今年はドコモがiPhoneを取り扱うかが一つの焦点となっており、品質でも十分闘えるところを見せたいのだろう。

今後の注力ポイント③ 米国市場の開拓
もはや語るまでもないが、ソフトバンクに対する期待は既に国内だけでなく海外からも熱い視線が注がれている。2014年度には日米合わせて最高益を更新することを目標として掲げた。

Sprintを軸とした米国でのTD-LTE事業の成否は、必然的に中国も含むアジア圏でのTD-LTE商圏の闘いへと繋がるためソフトバンクの一挙一動から目が離せない一年になりそうだ。

KDDI

3M戦略による解約率低下が実りだしている。顧客満足度No1、MNP流入率No.1を掲げ「顧客に指示されるKDDI」を印象づけた。「国内通信事業者としてやるべきことをきっちりやってる」ことが伝わる決算内容で、その成果が確実に決算にも反映されていると感じた。

KDDIの強調する決算ポイント

  • 3M戦略がモバイル・FTTHの競争力強化を促進
  • 通期営業利益5,000億円を確実に上回る見通し
  • パーソナルセグメントの通信料収入が増収転換

来期以降、本格的な利益拡大フェーズへ入ることをアピールした。好業績のポイントは「連鎖」と「提携」。

・好業績のポイント① 連鎖
スマートフォンと固定系サービスの同時契約で割引サービス等が充実する「auスマートバリュー」。これが家族内に「連鎖」を引き起こし、新規契約の獲得、解約率低下に貢献している。

KDDIスマートバリューの効果

・好業績のポイント② 提携
固定系事業者との提携=クロスセルエリアの拡大積極的に進め、FTTH5社、CATV99社180局がセット。全国世帯カバー率 約80%。提携事業者からの契約世帯数が四割に達した。

これら二つのキーワードの効果として、スマートフォン新規契約者の33%、FTTH新規契約者の48%がスマートバリューを契約。また、FTTHユーザ獲得単価がスマートバリュー導入前と比較して33%減少した。

今後の注力ポイント① コンテンツの充実
2012年3月に開始した「auスマートパス」の会員数が400万人を突破。アップセル・CATVとの連携を強化し、取り扱いコンテンツ数の充実を行う。
KDDIアップセルの充実

今後の注力ポイント② スマートネットワークによる設備投資最適化
データオフロードを有効に機能させることで設備投資を最適化する。現在家庭向けに165万台のWiFi Home Spot、駅や商業施設に22万スポットのau WiFi Spotの展開が完了している。

これにより、データオフロードは2012年3月時点では43%に到達しており、2013年3月時点では50%を計画している。今後もデータオフロード率を更に高め効率良い設備投資を行っていく。

KDDI Wifi オフロード進捗

今後の注力ポイント③ 株式価値の向上
1対2の株式分割を発表。分割基準日2013年3月31日、翌日から効力が発生する。一般的な企業における個人株主比率は20%前後だが、KDDIの個人株主比率は3.9%と低い水準にあった。この個人株主数を拡大することが同社の狙い。株式分割を行うことで株価が半額になり個人投資家にも手を出しやすい株になる。株主の増加は株価安定へと繋がりひいては企業価値の向上にも貢献する。

また、一般的に個人投資家比率が高まると株の買占めがそれだけ難しくなるので買収防衛策としても有効な策として用いられる。

総括

Q3の決算発表は各社共に2013年は明るい年になりそうな決算発表となった。各社共に共通する施策として「新規顧客獲得コストの削減」「既存加入者の繋ぎとめ施策」が重要性を帯びてきている。ソフトバンクが品質面で猛追し、もしドコモがiPhooneを取り扱うようになれば、品質、端末ラインナップで横並びとなり、マーケティング施策が重要になるだろう。

ドコモの新事業領域の開拓は他キャリアにとっても新たな収益源となる可能性もある。ドコモは「dtab」を対アマゾン端末と呼んでいるが、同社の顧客基盤などを考えれば「シニア層向け通販市場」の開拓を狙っているように見える。芽が出るのはまだ先かもしれないが、中期的には大きな収益源となるかもしれない。

ソフトバンクは絶好調だったが、米国でのSprint、Clearwireの買収が成立するまでは油断が許されない。同社にとってのアキレス腱はドコモ、KDDIがauスマートパス等を「付加価値ARPU」を計上してきているのに対し、同社は同様の施策を実施出来ていない点だ。音声、データ通信以外のコンテンツ事業はヤフーを主力に据えている同社だが今後どのような「ARPU向上策」を練ってくるのか注目したい。

地に足ついた経営によって2013年、2014年は好決算が予想されるKDDIだが、そこから先が見えないのが同社の今後の課題と言えるだろう。ドコモはDマーケット、ソフトバンクは米国市場と今は「投資」の時期だが、三年後に花開く可能性を秘めている。堅調に推移するKDDIだが世間を夢中にさせるような中長期計画が登場することを期待したい。

※本記事中の図は各社の決算発表資料から抜粋しています。
 ・NTTドコモ
 ・ソフトバンク
 ・KDDI



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。