携帯電話の冬ラインナップを考察する

ソフトバンクがWi-fi対応モデルをラインナップしてきた。
2009年冬モデルの全11機種のうち、8機種がWiFi搭載。
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0911/10/news042.html

こちらの記事ではNTTドコモがフェムトセルを開始した。
http://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/page/091110_00.html#p05

フェムトセルとは、自宅に小型の携帯電話用の基地局を設置する、言ってみれば自分専用のFOMAエリアを構築することを可能にするための技術です。

ソフトバンク、NTTドコモ共に、データオフロードを本格的に着手してきたようです。データオフロードとは、携帯電話が通常利用する無線ネットワーク(RAN)ではなく家庭内で利用されている、光回線等の有線のネットワークを利用して、インターネットへ通信することを可能にする技術のことをさします。

フェムトセルとWiFi、技術は異なりますが、データオフロードを実施する事が大きな目的と言えるでしよう。しかし、目的は同じデータオフロードですが、データオフロード利用者数という観点では、ソフトバンクのWiFi端末に軍パイがあがるのではないかと思います。

理由は、フェムトセルは単なるデータオフロードでは無く、他の新たなサービス展開も考慮されていると思いますが、ユーザにとっては、フェムトセルを設置する工事が必要になります。また、フェムトセル用の小型基地局の設置も必要になります。
反対にWiFiは家庭内にWiFi対応のブロードバンドルータが既に存在していれば、特別な工事が必要ありませんし、物も増えません。

このサービスを導入しようとしているユーザにとって、この違いは大きいのではないでしょうか。

■データオフロードとは
サービスの詳細は分かりませんが、ソフトバンクのWiFi端末のトラフィックはこのような処理のされかたをされると思います。

ユーザ宅外に居る時には、ソフトバンクモバイルが構築した携帯電話用の無線ネットワークの設備を通過して、インターネットへ出て行きます。
一説によると無線ビジネスのコストの8割はこのRANの構築・維持だと言われています。
LTEやHSDPAといった新たな規格が登場する度に発生する設備コストの大半がこのRANに費やされます。各社の発表を見ると、新しい無線規格を開始する時には数千億というコストが発表するようですので、これは膨大な金額に上ります。

しかし、WiFiを利用するとどうでしょうか?最もお金のかかる、RANの設備を通過していくのではなく、携帯電話は家庭内では1WiFi端末となりますから、ユーザが契約しているISPの設備を通過していくことになります。
この回線でどれだけトラフィックが流れても、ソフトバンクには関係の無い話です。

その反面ISPの回線に障害が発生すれば、携帯電話のWiFi通信にも影響が発生します。信頼性といった意味では、自社でコントロール出来ない分、品質は低下するかもしれません。

ユーザが携帯電話の基本契約料を毎月払ってくれるなら、インターネットへの通り道なんて、どこでも良いですよと。。孫さんは考えているように思います。

反対にNTTドコモさんが実施しているフェムトセルは、現在の所、Bフレッツ限定なので、グループは違うけれど、トラフィックは基本的にはNTTグループの通信設備を利用して貰いたいようですね。

ここが、通信事業者としてのビジネスを展開しているNTTグループと、ビジネスと割り切って事業を展開している孫さんの違いのように、私は思います。

通信事業者にとっては、トラフィックが他社へ流れるなんてことは、許しがたいことなんだろうなと思います。

■なぜ今データオフロードか?
前述した通り、無線ネットワークの構築・維持を行うのに、最も高くつくのがRANの構築や拡張です。ユーザ数やトラフィック数が増えたからといって、簡単に増やす事が出来ません。ここに対する投資を抑えるために、データオフロードを本格的に展開していこうと考えているのでしょう。

そして、もう一つ。これは予想ですが、LTEや、更に将来のLTE-Advancedの時代を見据えているのではないかと予想します。

LTEに代表される次世代無線規格では、規格上は100Mbps、LTE-Advancedでは1Gbpsの通信速度が理論的には可能になると言われています。しかし、これはあくまでも無線の理論上の話であって
実際には、それようのRANを構築しなければなりません。

日本全国で一億台を超す携帯電話一台一台から1GBpsの通信が発生すれば、どれだけ巨大なネットワークを構築する必要があるのでしょうか?

こんな、大きなトラフィックは自社の設備だけでは、処理出来ませんから、家庭内に光回線がきてるなら、そこからインターネットへ出て行って貰った方が、通信事業者にとっては助かるわけです。

■新たなサービス展開
これはあくまで、想像ですが、こういうシナリオが考えられるのではないでしょうか?

・ユーザの行動分析を360度で行おうとするNTTグループ
NTTドコモのフェムトセルは、外出時、自宅内共にトラフィックはNTTグループ内の通信網に存在することになります。と、いうことは、NTTドコモが先日開始した、Iコンシェルのように、ユーザの嗜好を分析するための、行動記録を自宅、外出時共に取得することが可能になることを意味しています。

朝8時に電車にのって、昼の休憩時にはmixiにアクセスして、夜の21時に帰宅する。こういった、ユーザのライフスタイル全ての情報を取得することが可能になるわけです。GPS等の記録も用いれば、行動パターン等も取得可能です。通勤経路で利用可能なクーポン券をIコンシェルが教えてくれるといった、広告展開も将来的には開始されるのではないかと思います。

NTTドコモグループは従来からの携帯電話ネットワークが培ってきた、マネージドネットワークを発展させていこうとしているのではないかと思います。

・通信事業者はあくまでも、土管と割り切っているソフトバンクグループ
「オープンである事が消費者にとっての利益」孫さんはそう考えているように感じます。通信事業者がサービスなんて検討したところで、ユーザはより魅力的なコンテンツプロバイダーが提供するサービスを利用したがる。そうなるなら、どんなコンテンツでも制限無く、利用出来る、土管屋さんに徹すれば良い。土管部分のお仕事なんて、他社のインフラを使って貰って全く問題無い。
少し前に、孫さんが、モバイル網をMVNOとして他社のインフラを利用しようとしたことが話題になりましたが、その事からしてもそういう印象を受けます。

ソフトバンクグループは、PCのオープンなイメージを携帯電話に持ち込もうとしているように思います。言ってみればオープンネットワークですね。携帯電話の業界で先行する他社に対して、よりオープンなイメージでユーザへアピールしていこうとしているのだろうと思います。

■WiFi携帯の今後
孫さんの狙いの中には、こういう狙いもあるのではないでしょうか?それはWiFiを利用した対戦ゲームです。従来までの携帯電話では、対戦ゲーム等を行おうとすると、遅延が問題になる事がありました。それは、例え自宅の中で、二台の携帯電話で対戦しようとしても、いちいち、SB網を経由する必要があったからです。しかし、WiFiで直接対戦出来るとなれば、話が違います。このような感じでWiFI-APを経由して、家庭内だけで、通信が完結します。

携帯電話ではGreeやモバゲータウンがゲームで加入者数を増やし、SNS会の巨人、mixiもモバイルゲームの世界へ参入しました。これらのモバイルゲームの特徴は一人でコツコツ遊ぶゲームではなくて、複数のユーザ同士で遊ぶ事が前提になっている点です。

若年層へのPRが上手い、ソフトバンクですから、今後はWiFiを利用した、携帯ゲーム機並みのゲームが登場するのではないでしょうか?

今回の全機種WiFi搭載宣言は、データオフロードが主な目的であることには違いありませんが、そういう携帯電話のゲーム機化も狙った動きではないかと思います。

有名な白いお父さんが、WiFi端末を利用して、すれ違い通信をしているCMが目に浮かびます。「お父さんとすれ違うチャンス!」的なPRが行われるのもそう遠くはないのでしょうか。

■まとめ
NTTドコモグループのフェムトセルは携帯電話らしさを発展させるサービス展開になっていくことでしょう。電波の状況を改善する、不感知対策で顧客満足度を向上し、データオフロードも実施し設備コストの上昇を抑制する。携帯電話の王道的戦略です。

反対に、ソフトバンクグループグループのWiFi端末はより、パソコン寄り、もしかしたら、Nintendo DSやSony PSPとも将来はゲーム市場のシェア争いを行っていくのではないでしょうか。ゲームユーザの取り込みを視野に入れているのではないかと。来春発売すると発表された、Android端末はCPUが1Ghzを突破するようですが、ゲーム機並みのゲームが楽しめるようになるのではないでしょうか。

赤外線ではなく、WiFiでアドレス帳の交換をしている時代がくるかもしれませんね。



この記事のタグ: ,


関連する記事

  • ヤフーeコマース革命への期待

  • 設備投資のピークを超えたソフトバンク

  • 孫正義氏が語った、ビッグデータが生み出す新たな収益源

  • ソフトバンクモバイルがローソンへWiFi設置完了。そもそもWiFi(わいふぁい)ってなんだ?


  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。