クラウドアトラス 自由を渇望する人々の戦い

映画には幾つかのパターンがあると思う。推理小説のように起承転結があり物語が明確に描かれたもの、事実に基づいたドキュメンタリー、特にメッセージ性は無くただみんなで騒いで踊るもの。その映画がどんな映画だったかは、映画の会場を出るときの感想に耳を傾けているとわかる。「凄い良かった」と興奮している人もいれば「さっぱりわからなかった」と愚痴をこぼす人。わかり易い映画はだいたいどちらかの声で統一される。

時折、その会話が半々に分かれる時がある。明確なストーリの骨子が無く見た人によって捉え方や感想が異なる映画だ。この手の映画は聴衆を退屈させるだけの駄作か、聴衆どうしで「いや、あのシーンにはこういうメッセージがこめられていたんだ!」「いや、そうじゃない!」といった議論を活性化させる良作のどちらかだ。

このクラウドアトラスは見た人によって捉え方や感想が異なり議論を活性化させる映画だ。

輪廻転生がテーマ

原作は2004年に発売されたデイヴィッド・ミッチェル「クラウドアトラス」。

1849年から2144年という300年近くにまたがる期間での「輪廻転生」を六つの物語で見せる壮大な物語。トム・ハンクス等俳優が時代毎に異なる役を演じることで「輪廻転生」を表現している。それぞれの時代で誰がどの役を演じたかはエンディングロールで明かされているので、そこで種明かしを見るのもこの映画の楽しみの一つだ。

輪廻転生が分かり易い「表のテーマ」となっているため同じく輪廻転生の物語「火の鳥」だったと感想を述べる人も多い。しかし、この作品には、というよりウォシャウスキー姉弟は作品に未来の社会に対する警告を含むことがある。例えば大ヒット作マトリックスは仮想社会に依存する未来への警告だ。本作は支配しようとする者と、それに屈しない者の「争うことを止めない人類」に対する未来の姿が描かれている。

映画に隠されたメッセージ「自由」と「権力」の戦い

この映画は「見る人によって捉え方の違う映画」であると表現した。私は「自由と権力」の戦いを描いた作品だと感じた。

1849年を舞台にした「アダム・ユーイングの太平洋航海記」の時代に「自由」を最も欲したのは「奴隷」であり、奴隷制度について描かれていた。

1936年を舞台にしたセデルゲムからの手紙では、若き才能ある音楽家が、既に成功した影響力を持った音楽家の元に弟子入りするが、若き音楽家の作曲を自分のものにしようとする。ヒエラルキーの存在する社会を舞台にした「自由」との葛藤が描かれている。

1973年を舞台にしたルイサ・レイ最初の事件では、「利権」のために多くの人の命を犠牲にすることも躊躇わない企業に対して、「国民の知る自由(権利)」を守り、「報道」の力で戦うジャーナリストが描かれていた。

2012年現代を舞台にした「ティモシー・キャヴェンデッシュのおぞましい試練」は現代社会に対する皮肉に富んでいた。売れない小説家が腹いせに殺人を犯すと、途端に作品が大ヒット。作品の中身より話題性の方が売れる現代のメディアが置かれた状況が描かれていた。現代において最も「自由を熱望」するのは老後施設に閉じ込められ老人だと言う。老人達を施設に入れるのは息子達。誰もが介護を放棄し競って老後施設に親を入居させる現状を皮肉っている。老人を題材とした「社会的弱者」の置かれた状況を描いている。

2144年の未来を舞台にした「ソンミ451のオリゾン」では「服従」することをプログラムされた「クローン人間」がテーマ。この時代には親から生まれた人間は「純血種」であり、クローン技術によって「生産された人間」は「クローン人間」として労働力として人権を与えられない。時には性の捌け口であり、暴力を振るわれたとしても「純血種」に逆らうことは許されない。1849年は「純血種」同士の奴隷がテーマであったが、未来には「人間は人間のための奴隷の種」を作り出すということなのだろうか。クローン人間ソンミ451は「自由」が何なのかさえ知らない。

この時代に「造られた」クローン人間のソンミ451が供述書の中で語った一文が後の世界の人の信仰へと変わる。
「いのちは自分のものではない、子宮から墓場まで人は他者とつながる。過去も現在もすべての罪が、あらゆる善意が、未来をつくる。」

最後の「ノルーシャの渡しとその後のすべて」では、「地球」からの解放だろう。科学と文明が崩壊した地球上を支配するのは「暴力」。

作中を通して「人間」とは何かが語られる。人種差別、拝金主義、階層社会、性差別、利権、不道徳、暴力、様々な切り口で社会が描写されている。最後に出される結末は「身勝手な人間」によって「滅亡寸前」となった地球から「ノアの箱舟」を使って脱出するという結末だった。ノアの箱舟をモチーフとした「解脱」を表現しているのかもしれない。

時代背景毎に異なった「支配との戦い」。それを乗り越えてきたものは、「博愛」、「恋」、「友情」であり「愛」なのだということ。幾十に重なった支配と人々の輪廻転生が「交響曲」のように一つの物語として語られる。そうまるで「クラウドアトラス六重奏」のように。

★公式サイト、原作★
クラウドアトラス公式サイト
クラウドアトラス 上巻
クラウドアトラス 下巻



この記事のタグ:


関連する記事

  • ホビット 竜に奪われた王国 3DHFRで映像はバーチャルリアリティになる

  • かぐや姫の物語 姫の犯した罪と罰

  • ヒトラーの贋札から学ぶ「働くこと」の意味

  • 風立ちぬ、消えない情熱と、避暑地で生まれたはかない愛の物語

  • 素人でもプロに仕立て上げるスタジオジブリの底力

  • ハーブ&ドロシー お金で買えない幸せの見つけ方


  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。