ハーブ&ドロシー お金で買えない幸せの見つけ方

ハーブ&ドロシー コレクションハーブ&ドロシーという二人をご存知だろうか?二人はニューヨークの小さなアパートで質素に暮らす老夫婦なのだが、実は「アート界の小さな巨人」として知られている。郵便局員のハーブと図書館司書のドロシー夫妻は、①自分達の給料で買える値段であること、②アパートに収まるサイズであること、という二つの条件で30年以上に渡ってアートを収集してきた偉大なコレクター。

ニューヨークアーティストの中には無名時代にハーブ&ドロシーが時折購入してくれるアートが、唯一の収入だったというアーティストも居たという。言わばアーティストの活動を影で支えてきた二人とも言える。

30年の時間の中で集めたアートの数は2000点以上。このアートの中には著名アーティストになった人物も多数いて、いつしかドロシー夫妻のコレクションの価値は数百万ドルの価値になっていた。

この現代アートを支えてきたドロシー夫妻のドキュメンタリーが「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」として映画化され日本でも人気を集めた。

現在、続編となる「ハーブ&ドロシー 二人からの贈り物」が公開されている。

アートな生き方

二人の資産は日本円では数億円に達しているのだが、夫妻は常に質素なアパート生活を好み、一枚も売ることは無かったという。そんな彼らの姿勢に共感するアーティストも多く、作中で「二人生き方はアートそのもの」と評される場面が何度もある。

第二作目は夫妻の二千点以上のコレクションを全米50州に50点ずつ寄贈するというものなのだが、ここでも「二人の行き方がアートそのもの」だったことがわかる。夫妻はアートを収集する時に完成品のアートだけを購入していたわけではなく、アイデアスケッチの段階、試作品、完成品と作品が完成するまでの過程を収集していた。気に入ったアーティストを重点的に購入したり、夫妻のコレクション自体が30年間の全米現代アートの「時代」を切り取っていたのだ。

ほんの数枚売るだけで貧しい暮らしから、優雅な暮らしへと移ることは簡単だっにも関わらず一枚も手放すことの無かったハーブ&ドロシー。夫妻にとってのコレクションとは「キュレーション」という名の「自分達なりのアート」だったのだろう。

クラウドファンディングによる映画製作

この映画の特徴は映画製作そのものにもある。前作、本作共に「ハーブ&ドロシー」はクラウドファンディングによって撮影、制作、配給、宣伝費用を調達している。本作では1400万円近い資金調達に成功したということで映画製作の国内事例としては過去最大の成功事例となっている。

僅かな月収でアーティスト達の生活を支え続けてきた二人の一生が、多くの方からの僅かな資金援助で映画となり歴史の一ページとなっていく。

クラウドファンディングを成功させるには幾つかの条件が必要だ。最も簡単なものは出資者に対して明確なリターンが約束されているものであり、出資額に見合ったリターンが期待される場合だ。著名なタレントや成功が約束されている映画ほど成功率が高まる。もう一つの成功例は「応援」されるタイプのものだ。映画の趣旨や監督の人柄やコンセプトに共感して出資したいと思わせるもの。

本作は後者に位置づけられる作品だ。この映画からは色々と学べる点がある。生き方、働き方、夫婦という存在、文化の担い手の変化。特に実はこの映画の隠れたテーマは、夫婦の恋物語の一幕だったことに気づかされる。金の切れ目が縁の切れ目、熟年離婚などが話題になる日本の現状と異なり、常に寄り添って生きてきたハーブ&ドロシーの夫婦として生き方には、お金で測ることの出来ない「幸せ」があることを知らされる。二人の生き方の純粋さ、愛の純粋さが、多くの人の「応援したい」という気持ちを揺さぶったのだろう。

特殊効果を使った派手な演出や、ハリウッドスターが登場するわけではないが「こんな二人知ってる?」と誰かに話したくなる、素敵な夫婦のドキュメンタリー。私は少し配給者の狙いとは違うかもしれないが、これから結婚を考えている二人にお勧めしたい。きっと映画を見終わった時に「こんな夫婦になりたいね」と呟いていることだろう。

★関連リンク★
公式サイト
一作目DVD
ハーブ&ドロシーが寄贈したアート集



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。