孫正義氏が語った、ビッグデータが生み出す新たな収益源

日本オラクルは2013年4月9日、グランドハイアット東京で「Oracle CloudWorld 2013」を開催した。CloudWorldは、オラクルが全世界を舞台に開催しているツアーイベント。日本は今年七番目の開催となるがオラクルCEOのラリー・エリソンが登場するのは日本が始めてだという。ラリー・エリソン自らが登壇する日本市場への期待感を、六本木ヒルズ全体をオラクルのイメージカラー「赤」で包み、クラウドに対する燃える本気を見せ付けた。
ヒルズ全体を赤に染めたオラクル

残念ながら私はラリー・エリソン氏の講演を聞くことは出来なかったが、既に様々なメディアが報道しているのでそちらを参照頂きたい。
 ・エリソンCEOと孫社長「インフラとしてのクラウド」を強調–Oracle CloudWorld Tokyo
 ・「IBMではなくAmazonが競合に」――米Oracle・エリソンCEO

孫社長が語った、次の収益モデル

ソフトバンク 孫正義社長私が最も楽しみにしていた講演は、ソフトバンクの孫社長の基調講演だった。オラクルと言えばデータベースの巨人としての印象が強いが、最近はその姿を急激に変えつつある。
VoIPサービス用のFirewallとも言えるSBCのトップベンダーAcme Packetを2月に買収し、3月にはPCRFのトップベンダーTekelecを買収するなど、通信業界のモバイルネットワークの要所となるベンダーを相次いでいたのだ。

そういった背景も有り、一見以外とも見えるオラクルとソフトバンクの孫社長という組み合わせで何を話すのかを非常に楽しみにしていた。ビッグデータを活用した通信品質の向上と、次なる収益モデルの片鱗を見ることが出来た。

①アプリログを活用した設備投資の最適化
ソフトバンクのQ3決算で登場したモバイルアプリのログを利用したビッグデータ活用事例がまず紹介された。これはスマートフォン接続率を収集し、GPS等の位置情報と連動させることで、電波の繋がりにくい所を「科学的に調査」する。この仕組みを利用することでソフトバンクは月間1億9千件のデータ、300億レコードを分析し、接続率の悪い所を「可視化」し効率的に基地局を増設したきたという。
モバイルアプリを活用した接続率の調査

その甲斐あって他社と比較してもソフトバンクの接続率が都市圏、郊外でもトップになっているという。3GだけでなくLTEにおいても他社と比較してLTE利用可能エリアが広いことを可視化して見せていた。

孫氏は触れていなかったが、この方法の優れた所は他社の接続率も同時に可視化出来ている点だ。感覚的なものに頼らざるを得なかった「繋がり易さ」を可視化する術を得たことで、ソフトバンクは「お金では無く、頭を使って通信品質を向上させている」と満面の笑みで述べていた。これはユーザにとっても重要なポイントだ。お金を使って通信品質を良くすれば当然そのコストはユーザの通信料へと反映される。

インフラがLTEとなり、人気端末も限られ差別化要素が無くなり、顧客獲得が熾烈になる現在の通信業界でコストをかけずに品質向上を行うことは重要な競争力と言える。
他社との比較

②ツイート解析
ソフトバンクではソフトバンクに関する全ての呟きを収集し、感情分析を行っているという。ソフトバンクが新たな取り組みを発表した時に、生活者がどのように「感じたか」を、リアルタイムで判断し顧客満足度向上に繋げている。
tweet解析

③行動ターゲッティング広告
恐らく、今回もっとも重要な発表だと感じたのはこの事例だ。ソフトバンクではグループ会社のヤフーを利用することで月間500億以上のPV、6000万人以上の宛先から効果的なターゲッティング広告を行っているという。

yahoob行動ターゲッティング

この行動ターゲッティング広告をどのように利用しているかというと「新規加入者獲得」だ。他社のスマートフォンを利用していてそろそろ契約更新が必要そうなユーザに対して重点的にソフトバンクの広告を出すことで効果をあげてきたという。それが原因でソフトバンクは過去五年に渡って年間新規加入者増一位を獲得してきたと孫氏は述べた。

しかし、これは私の推測では半分「本当」で半分「嘘」では無いかと思う。ソフトバンクが行動ターゲッティング広告を行ってきたのは判断のしようがないので「本当」だとしよう。しかし、他社からのユーザ獲得に貢献してきたのなら新規加入者増ではなく「MNP」が増加する筈だ。最近は新規加入者増一位はソフトバンク、MNPはKDDIという傾向になっており、他社から最も効果的に顧客を獲得しているのはKDDIだ。

が、私が指摘したいのは「嘘」という指摘をしたいのではなく、何故孫氏がグループ会社であるヤフーを活用した行動ターゲッティング広告をプレゼンしたかだ。今一番売り出したい商材がヤフーを基盤とした行動ターゲッティング広告だからだろう。ソフトバンクがビッグデータをマネタイズする効率の良いプラットフォームがヤフーだということなのだろう。冒頭で孫氏はソフトバンクは約1000社からなるインターネットカンパニーだと述べた。それらの「ネット」に繋がっている企業群のデータをとつごうし、あらゆるデータの相関性を見つけ出し、ヤフーという国内ネット最大のリーチを誇るプラットフォームをリアルとネット双方に広告を出す器へと変貌させる計画なのでは無いかと感じた。

ソフトバンクはイオンと提携するなどO2O等の地盤も着々と固めつつある。「ビッグデータ・マーケティングプラットフォーム」として新たな収益源確立への道のりが始まったのでは無いだろうか。

最後に孫氏は、こういった一連の施策を実現しているのはオラクルの技術であり、オラクルを「情報革命の同志」として称え、講演を終えた。
オラクルは情報革命の同志



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。