WWDC 2013で感じたアップル下落の兆候

2013年6月10日、アップルがWWDC 2013を開催した。既に様々なメディアが報じているように、iOS 7、OS X Mavericks、Haswell搭載Macbook Air​、新Mac Pro等が発表された。

噂ではiWatchやiTVが発表されるかもという期待もあっただけに、スマートデバイス、Mac以外のラインナップを期待人にとっては「失望」を感じるイベントとなった。(もっともWWDCは本来開発者向けのイベントであるため、新製品を発表する場では無いとの意見もあるよだ)

アップル株はやや下落

6月10日のアップルの株価は0.7%安の438.89ドルで終了。11日も下げで始まったが現在は若干値を戻している。筆者としては今回iWatchやiTVの発表が無ければ、新市場を開拓する新製品が登場しなかったということで、もう少し下落すると思っていたが、思いの他動きは無かった。これは、最早アップルに「新市場の開拓など期待していない」ということなのかもしれない。

ほころびが見え出したiOSのエコシステム

筆者はスマートデバイス市場の幾つかのトレンドの変化から、今年はアップルにとって重要な年になると感じている。

 1) ローエンドモデルへの売れ筋のシフト
 IDCの調査によれば、2013年のスマートフォン出荷台数は、先進国市場が前年比14.3%増となるのに対し、新興国市場は45.4%増と高い伸びを示す。これにより新興国市場の出荷台数の割合は64.8%に達し、2017年には70.6%にまで拡大すると予測している。

 2) ハイエンドスマートフォン市場が減少傾向へ
 アップルとスマートフォン市場を二分するサムスンの株価も下落している。理由はモルガンスタンレーが「ギャラクシーS4」の今年の販売台数見通しを従来の7100万台から6100万台に引き下げたことが原因だ。スマートフォン市場でローエンドモデルへと売れ筋がシフトするだけならまだ良いが、ハイエンドモデルは「鈍化」の兆しが見えている。ハイエンドモデルしかリリースしていないアップルにとって、これは気がかりな現象だ。

 3) 新規出荷スマートフォンのアンドロイドシェアが75%に
 IDCの調査によれば、2013年1~3月期の世界でのスマートフォン出荷台数は、アンドロイドが1億6210万台、OSシェアでは75%を獲得し一位。2位はiOSで3740万台、シェア17%。両OSで90%以上のシェアを獲得しているとは言え、新規出荷スマートフォンの約8割はアンドロイドになっている。勿論アップルはiPhoneとiPadのみで、アンドロイド端末は数千機種あることを考えればフェアでは無いが、全体数ではアンドロイドが支配的なシェアを持つようになってきた。

 4) 10年ぶりの減益となったアップルの第二四半期決算
 アップルの第2四半期(1~3月)決算は、売上高は前年同期比11%増の436億300万ドル、純利益は18%減の95億4700万ドルとなり、十年ぶりの減益となった。iPad miniやiPhone4の値下げによって利益を減少させることになった。アップルが「価格競争」に巻き込まれる普通の企業となってしまっている。

 5) ブランドイメージの低下
 アップルに関しては、製造を委託しているフォックスコンの劣悪な労働環境が時折報道されているが、最近はタックスヘイブンを使った租税回避策についても槍玉にあげられている。
 iOSの地図問題や、シェア低下など、同社のブランドイメージは徐々にだが、確実に低下してきていると感じる。

ジョブスの遺産を活かす最後の年

 iPodから始まったアップルの復活劇はジョブスの功績が大きいのは言うまでも無い。iPhoneが大ヒットし、それに続くiPadもタブレットという新たな市場を開拓し、iOSが増えれば増えるほど、親和性が高いMACの需要も伸び、開発者やアプリの数も増えていった。iOSを軸としたエコシステムこそ、まさにジョブスの残した遺産と言えよう。

 これが静かに、数字の面からは「ほころび」が見え始めている。もしジョブスが健在なら、(と考えてしまうのは禁句かもしれないが)シェアがあり、ネットワーク効果が期待出来るうちに、次なる一手、iWatchやiTVでiOSで繋がるデバイスを増やし、更なる価値向上へと駒を進めたのでは無いか、と考えずにはいられない。変化を誘発する側だったアップルが、変化に対応出来ずに戸惑っているようにさえ感じる。

 ジョブスというカリスマが消え、「シェア」を失い、それでもなお「新市場を開拓」する力はアップルに残されているのか。恐らくその時間はそう長くは残されていないだろう。

 



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。