映画ビジネスの未来

南カリフォルニア大学(USC)の映画芸術学部の新校舎設立記念イベントでスピルバーグとジョージルーカスの発言が面白い。

・スティーブン・スピルバーグ
「将来は、巨額の製作費をかけた大作と小規模の作品では入場料が異なるようになると予想。「『アイアンマン』のような大作には25ドル(約2400円)、(私が手がけた)『リンカーン』のような(小・中規模の)作品だと7ドル(約660円)というような状況が起こるだろう」

・ジョージ・ルーカス
「これから映画館の数は激減し、生き残れるのは多くの魅力を持つ大規模な映画館だけになる」と明言するとともに「(爆発的に普及する)ホームシアターと差別化を図るためにも、映画ビジネスは高級路線を取らざるを得なくなり、映画鑑賞という行為が高級化する。映画のチケット代金は50ドル~100ドル(約4700円~約9500円)、あるいは150ドル(約1万4000円)に値上がりし、ニューヨークのブロードウェー・ミュージカルやアメリカン・フットボールの試合を楽しむような感じになるだろう。そして、ブロードウェー・ミュージカルと同じように、同じ映画が1年を通じて公開されるようになる」

映画をみる機会はむしろ増えた

映画業界を牽引してきた二大巨匠の言葉だけに、真実味のある言葉だ。「映画館」という視点に立てばジョージ・ルーカスの発想はまるで「ミュージカル」であり、今の現状からは一歩も二歩も懸け離れていて、にわかに想像することは出来ないが、「無い」とも言えない。

HuluやGoogle Play等のストリーミングサービスの充実で「映画館」へ行く必然性は薄れてきているからだ。これらのサービスで視聴するためには、映画は大型テレビですらある必要性も無く、iPadで見ることにすっかり慣れてしまった。

しかし、hulu等のストリーミングサービスが「映画」ビジネスを衰退させているのかと言えばなかなか難しい。視聴者視点で考えればHuluによって映画を観る「利便性」が高まった。膨大な数の映画やドラマがあるし、途中で視聴を止めても続きからすぐに再開出来るため、隙間時間に映画をみることも増えた。映画館のように入ったら二時間拘束されるということもなく、映画は自由な時間に、隙間時間に見るものへと変化してきている。

こういったこともあり、Huluに加入したことで映画を見る機会が「増えた」のだ。そしてもともと映画が好きだったこともあって、最新の映画を見るために「映画館へ足を運ぶ機会」も増えたのだ。

映画館が生き残れるかは大きな問題

スマートデバイスの普及と、Huluなどのストリーミングサービスによって、映画に接触する機会は増えている。モバイルキャリアもスマートデバイス用の、特にタブレットのキラーコンテンツとして映画コンテンツの拡充は急いでいる。こういった流れを考えると、生活者の生活の中に占める「映画」というコンテンツの存在感は増していくと想像される。つまり゜映画」ファンは今より増える可能性がある。

その上で、映画ビジネスの未来を考えてみると、確かに「映画館」そのもののビジネスが今の数を維持しつづけるのは難しそうだ。今や映画館の存在意義は「最新作」が公開されるのが映画館というアドバンテージのみとなっているが、既に国内でもHuluで劇場公開に先駆けて「試写会」を行う事例は誕生している。

もし今後、Hulu等のストリーミングサービスで最新作が配給されるようになれば、映画ビジネスはコンサートビジネスに近くなると予想する。生活者と関わりの深くなる「映画」をタッチポイントとして、テーマパーク、ゲーム、キャラクターグッズで稼ぐ、そんな多角化へより拍車がかかっていくように思う。そう考えれば「配給」はなるべくコストを削減しなければならず、デジタル化に対応出来ない映画館は衰退していく方向になるのではないか。映画館が減れば、「配給先」として有望になっていくのはスマートデバイス上のストリーミングサービスだ。

市場主義から作品主義へのパラダイムシフト

こういった流れが生まれることで、業界全体には大きなパラダイムシフトはおきるだろう。コンテンツがビット化することで市場全体のパイ自体は小さく、というよりは、今の時代の適正な形に最適化されることになる。

しかし、映画の配給先が「映画館」から「スマートデバイス」へ移ることで、映画の上映の敷居は大きく下がることになる。数万人を対象とした「見応えのある」映画本来の良さを追求したような映画の配給も今よりずっと楽になるのではないか。

つまり、「マーケット市場主義」の人たちにとっては頭を抱える事態はこれからも続くだろう。しかし、「映画」を楽しむ「ファン」は増加する可能性があるし、映画を愛してきた人たちにとっては「自分達が撮りたかった映画」を撮ることが出来る時代が来る。一千万円レベルであればクラウドファンディングによって資金が調達可能な時代になっている。

もし、そうなることが出来れば、映画ビジネスにとって失敗なのか、成功なのか。お金が好きな人にとっては失敗であり、映画が好きなファンと製作者にとっては朗報と言える時代が訪れるのでは無いだろうか。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。