スマートビエラはなぜ、CMを拒否されたのか?

スマートビエラのCM放送拒否が大きな話題を呼んでいる。

スマートビエラはパナソニックが四月に発売した、「スマートテレビ」であり、音声によるコンテンツ検索や、視聴者を認識してコンテンツをレコメンドする機能、さらにレコメンドするコンテンツはテレビ放送だけではなくyoutubeなどのネット動画も対象になるなど、「テレビの未来」を彷彿とさせる製品となっている。

この意欲的な製品のCMが却下されたことで、ネットを中心に「利権問題」「テレビの古い体質」「テレビ局は時代の流れを理解出来ていない」などの声が目立つ。しかし、一方でテレビ業界はテレビ放送とインターネット、スマートデバイスと連動させることを可能にする「ハイブリッドキャスト」等の取り組みにも力を入れており、「スマートビエラ」のコンセプトを否定しているとは考えにくいのも事実だ。ましてや4Kより更に解像度の高くなる8Kの規格では広大な解像度をテレビコンテンツだけで埋めることは現実的ではなく、データ放送とテレビ放送は一つの画面の中に同時表示される時代が訪れることは、テレビ局関係者も理解している、というのが私の認識だ。

スマートビエラがARIBの規約違反

私はこの報道を聞いた時に、てっきり「放送コンテンツの同一性保持の問題」か、あるいは「ハイブリッドキャスト」的なコンテンツ作りが可能なテレビを、独自規格でパナソニックが実現したのが問題なのかと思ったが、関係者に聞いた所、そうではなく「ARIBの規約違反」という説が有効なようだ。

そして、業界関係者に聞いた所、実際には「CMを却下」しているという報道にはいささか御幣があり、このARIBの規約とスマートビエラの放送方法の違いについて現在協議中であり、その結果が出るまで「CMを自粛している」というのが実態のようだ。

ARIBとは、通信・放送分野における電波利用システムの研究開発や技術基準の国際統一化等を推進する団体であり、通信業界、放送業界、製造メーカらで構成されている。この業界がスマートテレビ等の放送設備に関わる技術標準を検討している。

このARIBが規定する「地上デジタルテレビジョン放送運用規定 ARIB TR-B14」にて、テレビに表示するテレビ放送以外のコンテンツについて以下の記載がある。

8.1.4 混在表示の禁止と同時表示
 8.1.4.1 混在表示禁止の原則
 受信機に混在表示機能を有することを禁止する。ここで「混在表示」とは、あるコンテンツ提供者が提供者の異なるコンテンツに対して、意図して、一方のコンテンツが他方のコンテンツの内容に自己のコンテンツ内容を関連付けて同時表示する場合、若しくは表示に影響を及ぼす等、異なる複数の提供者からのコンテンツをあたかも同一のごとく視聴者に誤解を招くように表示することを言い、その表示が可能となる機能を混在表示機能と言う。ただし、リンク状態のCプロファイルリンクコンテンツは、テレビと通信、二つのコンテンツが同一のコンテンツ提供者から提供されていると考えられるので混在表示ではない。

8.1.4.2 放送画面と放送以外の画面(通信ブラウザ、アプリケーション等)の同時表示
 ・放送コンテンツを提示しているときに放送事業者以外の提供するコンテンツを起動するときは混在表示となることを避けるため放送画面を消し、全画面に当該コンテンツを提示することが望ましい。
 ・放送画面と放送以外の画面を同時表示することは推奨しないが、商品企画で同時表示を行う場合は8.1.8.1項に示すようにデータ放送ブラウザを残し、かつ最低限下記の表示を行うこと。なお、ユーザ操作等により、データ放送ブラウザに代わり字幕表示を行う場合も同様の扱いとする。このような対応を行った場合でも、同時表示を行う場合は混在表示となってしまう可能性があることに留意し、商品企画上の配慮を行うこと。

 (ⅰ) テレビ提示中に放送以外のコンテンツを起動するときは、原則として放送と関係ないコンテンツが表示されることを、ダイアログ等により視聴者に明示する。
 (ⅱ) テレビ提示中に放送以外のコンテンツを起動するときに、同時表示するか切り替えるかの動作は、API(X_DPA_startResidentApp())で指定した場合を除き、選択肢を視聴者に提示して選択できるようにすることが望ましい。
 (ⅲ)同時表示中は放送と関係ないコンテンツを表示していることが誰にでも一目でわかる表示を常時行うこと。

9.3 放送番組及びコンテンツ一意性の確保
放送番組及びコンテンツの全体としての一意性確保の為、受信機は以下の事項を守る事が望ましい。また受信機が蓄積機能を持つ場合、また外部の記録機をコントロールする機能を持つ場合も、以下の事項を守る事が望ましい。
・ 放送信号若しくは、放送信号等に含まれる記述子やデータなどを使い、例えば告知や広告部分のカット、スキップを自動的に行う様な機能の実装、及び蓄積機能、外部記録機の自動制御を行わないこと。なお、ユーザーの操作による早送り、一時停止などはこれにあたらない。
・ 放送番組及びコンテンツの提示中に、それと全く関係がないコンテンツ等を意図的に混合、または混在提示しないこと。例えば、提示中の放送番組の表示にその番組と全く関係が無いコンテンツや告知、広告を混合提示し、意図的にそのコンテンツや告知、広告が放送番組と一体であるかの様な誤解を視聴者に与える提示を行う機能がこれにあたり、テレビ放送画面とインターネットのブラウザ画面が一体であるかのように視聴者に誤解させるような機能を装備することなどを指す。なお、受信機の機能として、上記の様な誤解を与える事を目的とせず、ユーザーの操作により複数のコンテンツを一画面に同時提示する事、例えば 2画面表示、小画面表示機能はこれにあたらない。

ARIBとしては、テレビ放送と、テレビ以外のコンテンツを画面に同時表示することを禁止しているのではない。しかし、テレビ放送とは公共性が高く、テレビに映し出されたものは「テレビ放送」と誤解してしまう視聴者の数はまだまだ多い。従って「テレビ受像機」として販売するならば、まず電源が投入されて表示れる画面は「テレビ放送」が好ましく、その後ユーザが「明示的な操作」によってyoutube等の外部コンテンツを表示するのは視聴者自身が「テレビ以外のコンテンツ」であると認識しているわけなので、それは問題無い(ニ画面表示等)ということなのである。

現在のスマートビエラの表示方式では、テレビ放送とyoutube等のテレビ外コンテンツがユーザ操作に関係なく同時表示されてしまうので、視聴者に誤解を与えてしまう恐れがあるというのが、CM放送出来ない理由である。

テレビ業界の考えが古いという意見には確かに私も賛同する部分が多いが、テレビの視聴者の大半は「シニア」であることを考えると、今回のような措置は仕方ない部分があるとは考える。例えば、スマートビエラに映し出されたニコニコ動画をフジテレビの放送と勘違いしてフジテレビにクレームを入れるという可能性も「無い」とは言えないのだから。

リテラシーの高いネット放送と、必ずしもリテラシーが高くない国民全体を対象としたテレビ放送という立場の違いが、今回のCM放送却下の本当の原因なのである。一見すると「テレビ放送の利権」を守っているようで、守っているのは「視聴者」なのだ。

なかなか進まない通信と放送の融合ではあるが、それを遅々とさせているものは、視聴者全体のリテラシーなのかもしれない。

なお、体質が古いと考えられがちなテレビ業界だが、内部では未来へ向けた動きも明らかになってきている。ここ最近のテレビ業界の新たな挑戦について新刊「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」に綴ったので、興味がある方は是非手にとって頂きたい。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。