放送と通信の融合の課題ってそもそもあるのかな?

今日は、FMラジオJ-WAVEのJAM THE WORLDの「BREAK THROUGH」に野中丈太郎さんと、スマートビエラのCM問題について対談させて頂きました。私はこの問題に対して当事者ではありませんが、少なくとも「テレビ業界がネットを拒絶している」という点については、むしろ逆で「テレビはネットに活路を求めている」と感じていました。この辺りは著作「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」にも、日本テレビさんへ取材し、ネットにかける思いなどを書きましたが、日本テレビさんのみならず、NHKさんも積極的にネットとの「連携」を模索しています。通信業者と放送業者の間で互いに社員を出向させあったりと、水面下では交流が活発に行われています。

そんな実情を間近で見ている身として、今日のラジオ出演の中で、最後に返答に詰まってしまった部分があったんですね。それが「今回の騒動で見えた、放送と通信の融合の課題」という質問。確かに、昔から著作権の問題や、伝送技術、各々の業界の体質についても議論はあったと思うんですが、最近はどうなんでしょうね。

課題というより「儲けるビジネスモデルが無い」ことが問題では?

あくまで私見なのですが、権利や技術的な話に本質的には「課題」は無いんじゃないかなと思っています。例えば、昔から良く言われるテレビ・ラジオなどの放送では著作権はブランケット処理であり、一方、通信においては公衆送信権のため、放送コンテンツをネットに再配信するには個別に権利問題を解決しなければならなくなり「大変」であり、こういった課題を解決しなければ融合は進まない、という話は良く聞きました。

でも、本当にそうでしょうか?権利問題が解決したとして、放送局のコンテンツがネットで自由に配信されるようになるでしょうか?幾つかのコンテンツはそういった対応が始まると思いますが、大半のコンテンツの現状は変わらないのではないかと思います。ようは本質は権利の問題というより、放送コンテンツをネットに配信したときに「収益が見込めるのか」という点にあるのではないかと思うのです。もしこれがネットに配信した途端に二千万人が必ずダウンロードを見てくれて、そのうち半数がコンテンツにお金を払ってくれるというなら、権利の問題を解決しようと努力する筈です。

資本主義の世界では大半が「儲かる」ことがわかっていれば大半の問題は解決し、「儲からない」のなら歩みは遅くなるのです。放送と通信を融合させる技術的な課題という点についても、ネットの通信速度やデバイスの高度化で数年前と状況は大きく異なっており、「儲かる」見込みがあるなら大半のことは解決出来るのではないかと思います。

融合より連携

そもそも、根本的な問題として放送の業界とは、放送するコンテンツに責任を求められる業界です。通信の業界は通信の中立性や通信の秘匿という観点からコンテンツの中身には関与してはならない業界です。社会から求められている根幹部分が異なるので「両業界が完全に融合する」というのは、そう簡単なことではありません。

それよりは「互いに補完し合う存在」がベストなのではないかと思います。放送のメリットは大勢の人に大容量のコンテンツを同時に高品質に配信することに適しています。しかし、少数の人向けのコンテンツを配信したり、個別の人の意見を拾い上げたりすることには適していません。反対に通信は大勢の人への同時配信にはまだまだ課題がありますが、少人数向けのコンテンツの流通や、人々のコミュニケーションを活性化させることには適したメディアです。

放送と通信がこういった長所、短所を理解し「連携」しあえば、結果として両方の業界にプラスの効果を発揮するのではないかと思います。つい先日も「バルス祭り」がありましたが、テレビのリーチ力をネット業界は上手く活用していますし、テレビ側もネットで盛り上がってくれることで若者層へのリーチ出来ますし、コンテンツを作成したスタジオジブリにとっても、単なる放送という枠にとどまらず数十万人の人々がネット上に作品について書き込むわけですから、下手のCMを打つよりブランドの浸透という点では効果があるように思います。

数年前は「融合」と言葉のもと、放送のコンテンツをどっちに流すのかなど陣取り合戦のようなムードを感じる時がありましたが、最近の議論はそういったフェーズは既に峠を越え、視点が異なってきているように感じます。新しいフェーズはまだ始まったばかりであり、スマートビエラの騒動をもって「テレビとネットの対立軸」を描こうとする方は少なからずいるようには思いますが、決してそんなことは無いと私は感じます。(まぁ、確かに業界の中に古い考えの方もいることは認めますが)



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。