風立ちぬ、消えない情熱と、避暑地で生まれたはかない愛の物語

昨日、ようやく「風立ちぬ」を見ることが出来ました。NHK 仕事ハッケン伝のスタジオ・ジブリ編を見ていらい、ずっと見たかった作品。

宮崎駿氏が初めて人間ドラマに挑んだということで、どんな仕上がりになるのか、とても興味があったんですね。公開直後に見たかったんですが、映画館のスケジュールを見てもいつも満席。実は昨日も日中帯の講演はほぼ満席。公開から一ヶ月以上も経過しているのに、大ヒットしている状況がうかがえます。でも、なんだかこの映画は8月中に見ておきたかった。映画のシーンが夏だからでしょうか?戦争をテーマにした映画だからでしょうか?なぜだがわからないけれど、8月に見ておきたい。そんな風に感じていたので、8月31日21時40分開始のレイトショーぎりぎりのタイミングで8月中に見ることが出来ました。

消えない情熱と、避暑地で生まれたはかない愛の物語

結果として、8月に見れて正解でした。この映画には賛否両論あるようですが、私の率直な感想は「夢を追いかける青年と愛の物語」。「美しい飛行機を作る」夢を追いかけて、食事中も夢の中でも「飛行機」のことばかり考え続ける、堀越 二郎。そんな彼が関東大震災の時に里見 菜穂子と偶然出会う。互いに名前も告げずに別れてしまうが、時を経てまた偶然、避暑地で二人が再会する。

ここで二人が恋に落ち、二郎は菜穂子の父親に、交際を申し出る。この時、避暑地での出会いはすぐに終わると揶揄される。避暑地でのはかない恋にしないために、二人は懸命に愛を育む。二郎は飛行機に賭ける情熱のように菜穂子を愛し、菜穂子はそんな二郎をかたわらでそっと支える。

しかし、運命は残酷であり、避暑地で生まれた恋は、永遠には続かなかった。避暑地で生まれたはかない愛の物語だから、8月に見れて良かったんです。

時間に追われる生活の中で、思い続けることの美しさ

ジブリは映画を作る時に「時代の空気の中に眠る潜在意識」を刺激することを大切にするそうです。マーケティング的な表面上に出てくる数値ではなく、その時代に生きている人達の心の内面にある「何か」を刺激することを狙っているのだとか。だから、ジブリの作品は公開する時期がずれていると「ヒットはしない」だろうと言うんですね。例えば今の時代に「天空の城ラピュタ」が新作として登場していたら、きっと受けなかっただろう、あの時だから名作として語り継がれるようになったんだと。

そう考えると、この作品にジブリはどんな時代を感じていたんだろうかと、そんな視点で映画を眺めていました。すると、自然に涙が溢れるんですよね。涙が溢れる理由は、自分の中の懐かしい感情が刺激される、そんな不思議な感覚。その感覚はなぜ生まれるのかと思うと「会えない時間が愛を育む」という昔の経験からなんじゃないかと気づきました。

Train_Kiss私の好きな一枚の写真を紹介します。恋人たちがまるで永遠の別れかのように身を乗り出してキスをする。たったそれだけの写真なのですが、なんだかとても惹かれるんですよね。

インターネットも電子メールも無かった時代。列車に乗るということは、長い別れを意味していました。だからこそ別れの一瞬がとても大切なものになる。

インターネットが普及して世界の裏側でもSNSで繋がれる時代。「もう会えないかもしれない」と感じることは少なくなりました。それはそれで、素敵なことなんですが、「別れの瞬間に永遠を感じる」なんてことは無くなったように思います。会えない時間が愛を育むという古い価値観に私は共感するんでしょうね。

ソーシャルメディアが普及して人との出会いは溢れるようになりました。識者の中には「人脈はフローだ」と言う人もいます。誰か一人を思い続けるより、今を一緒に過ごしてくれる「誰か」を探す時代。テクノロジーが変えた現在の「出会い」の、中に眠ってしまった「たった一人の人を大切にしたい」と思う心を、この映画は刺激してくれたんじゃないかと思います。

今はメッセージを送って「既読」とすぐに付かなければ、次の人を探す時代です。名前も告げずに去っていった人を何年も想うなんて、私達はもう感じることはないのかもしれない。でも、「あの時は良かったな」と想う、懐かしい気持ち。そんな体験をしたことのある人には、とても懐かしくて、淡い感情を思い出す映画だったんじゃないでしょうか。そして、そんな感情を感じることは、今の技術が発達した社会ではもう無いのかもしれない、と想うと、さらに「あの頃は・・・」を思い返して、少しせつなくもなる。

今の時代に失われつつものがあって、便利という気持ちの中で、見えなくなっていた大切なもの。「便利な社会」は確かに良い、昔にはもう戻れない。でも、本当に「それが望んでいたものなの?」と問いかけてくれる、私がジブリに刺激されたのはそんな部分。とても素敵な映画でした。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。