市場原理に従い質低下が危ぶまれる東洋経済オンライン

東洋経済オンラインに編集長名義で掲載された「1月7日配信「福島原発から、トリチウム汚染水が消える日」についてのお知らせ」。
福島原発の汚染水問題について解決するかもしれないという、非常に国民の関心が高いテーマについて触れた記事なのだが、内容に裏づけがとれていないという理由で公開が中止された。

この公開中止が発端となり東洋経済オンラインがPV至上主義に陥り、やがて東洋経済のブランドイメージを毀損するだろうという、記事が話題を集めている。

この記事の考察にある通り、東洋経済オンラインがPVと引き換えに「東洋経済」というブランドイメージの凋落のきっかけに繋がるかどうかは私にはわからない。ただ、一つ言えることは編集長名義の「お詫び」を出すほどに「炎上」したのなら、PVの高さで広告単価が決まってしまう今のオンラインメディアの経営指標上では「成功」ということになるのだろう。

オンラインメディアでは記事の質が低下するのは市場原理

そもそも、東洋経済オンラインに限ったことではないが、オンラインメディアはメディアの運用予算が少ない。一つあたりの記事にかけられる単価も安く、必然的に記事の信憑性が低くなるのは「当たり前」ともいえる。

一つの記事に五万円のコストをかけて作成しても、五万円の手間に見合ったPVや広告収入は期待出来ない。五万円のアドセンス収入を得ようとするなら30万~60万PVは集めなければならない。記事一本でそれだけのPVを稼ぐのは至難の技だ。ならば運営側としては、いかに一つあたりの記事製作コストを下げ、PVを稼げるようにするかを考えなければならない。

そうすると、記事にする人や、記事の執筆者の選定基準は以下のようになる。
知名度と専門性
横軸は知名度の高さを表しており、右に行くほど知名度がある。縦軸は特定のテーマに対する専門性の有無だが上に行くほど専門性が高くなる。

Aグループ 知名度が有り、専門家
 特定のテーマに対して専門性が認められており、知名度の高い人を常に取り上げることが出来ればベストだが当然取材費なども高くなり、記事の製作コストが上がってしまう。理想的ではあるが毎回依頼することは出来ない。

Bグループ 知名度があるが専門家ではない「タレント」
 知名度はあるが、そのテーマを語る専門家ではない「タレント」的な人でPVを稼ぐ方向性へとシフトし始める。「タレント議員」が乱立する現状を見ても、日本人は有名人=有識者と錯覚する人が多いのだろう。この特性を利用しオンラインメディアは「ネット上の知名度が高い」人に、色んなテーマを話させる傾向が強い。

Cグループ 知名度は無いが知識は有る、職人タイプ
 知名度は無いが、特定の分野には強い人、私は世の中にはこのタイプの人が一番多いように思う。そう、「サラリーマン」がこれに該当するのではないかと思っている。

Dグループ 情報受信側
 いわゆる「普通」の人であり、情報発信側では無い人たちだ。

記事に製作コストをかけられる紙媒体やテレビ等では、Aグループは勿論、Cグループも取材対象とする。Cグループの無名の人の知見を収集して一つのコンテンツとして発信することが出来る。私も幾つかの紙媒体の取材を受けたことがあるが、出来上がった記事を見ると、何人もの人に接触しそれが一つの記事になって出来上がったものであることが多く、手間をかけて記事が出来上がっている。その手間が記事の質へ繋がっていると実感する。

オンラインメディアではAとBのグループで記事を作成する傾向が強く、あまり頻繁に活用出来ないAグループは気合の入った特集の時か、その人でなければならない必要性がある時だけ用いられ、大半の記事はBグループに依頼することになる。質の高さよりはネットで話題になることを重視されたコンテンツ作りになっている。

Dグループはソーシャルメディアや個人ブログで感想を述べる側にまわる。時に鋭い視点を持つような人はメディアに発見され他のグループへ移動することも多くなってきた。

質より話題性を重視しているのは読者自身

現在は、このような構造になっているためオンラインメディアは全体的に「質より話題性」を重視する傾向が強まっている。「PVを増やしたいなら記事の質なんてどうでも良い、旬なテーマを書き、ヤフトピに掲載されるのが一番」と風潮するコンサルンタントも多いと聞く。しかし、この構造を非難することを誰が出来るだろうか?

本来はAグループの良質な記事を提供することがベストであり、メディアに携わる人間なら誰しもそうしたいという「志」をもって入社するのではないかと思う。しかし、「食っていく」には「B」の方が可能性でいかざるを得ない。そういうコンテンツを支持してしまう「私達自身」がそういう構造を「良し」としまっているのだから。

ソーシャルメディア登場以降、内容の真意はどうでも良くなり「話題」になればPVが上がる傾向が強まっているからだ。残念なことにどうでも良い話題ほど「会話の参加者」が増え話題になりやすい傾向がある。

長期的に見た時に、東洋経済オンラインがどうなっているかはわからない。「今の市場原理」だけを考えるなら「東洋経済オンライン」の方向性は「むしろ市場に受け入れられている」と考えざるを得ないだろう。そして、その市場とは?他ならぬ私達自身なのだ。

★東洋経済オンライン編集長 佐々木氏ら六人でデジタルメディアの明日を語る★
最後に、ちょっとした告知を。私や東洋経済オンライン編集長の佐々木氏やLINEの田端氏らと共に、中川淳一郎氏主催の「デジタルサバイバル講座vol.2」が開催される。本テーマも含めて直接佐々木氏と意見をぶつける良い機会だと思うので、興味のある方は参加されてみてはいかがだろうか。
 ・デジタルサバイバル講座vol.2



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。