スマホ陣営から見たウェアラブル市場の利点

自著「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」の最終章「これから何が起きるのか」の続きです。

使いたいサービスに最適なデバイスを選択する、「最適化の時代」に注目を集めると推測されるのがウェアラブルコンピュータです。2012年4月にグーグルがメガネ型のウェアラブルコンピュータ「Google Glass」を発表し近未来的なデザインに世界中から注目を集めました。

グーグルグラスを装着しながら歩くと、視界に写る光景を録画したり、現実世界にコンピュータの情報を重ねて表示することが可能になります。グーグルグラスによってAR(拡張現実)が実を結ぶことになるでしょう。

現在開発者向けにプロトタイプ版が出荷されています。プロトタイプ版の価格は1500ドルと高価ですが、2014年内に製品版を発売する計画でプロトタイプ版より安価に提供される予定です。

グーグルのGoogle Glassが注目を浴びる一方、ライバルのアップルにもウェアラブルコンピュータ発売の噂が絶えません。2012年7月に、アップルも頭部装着型ディスプレイに対する特許権が認めらています。アップル自体は正式にコメントを発表していませんが、市場ではアップルの時計「iWatch」への期待が高まっています。
 
まだ、アップルについては正式な発表はありませんが「iWatch」が発売される可能性は十分にあると見ています。スマートフォンを核としたウェアラブルコンピュータ市場の開拓はアップル、グーグルの両者にとってスイッチングコストの上昇と、市場の拡大を意味するからです。

スイッチングコストを上昇させる

スイッチングコストとは利用者が他製品へ乗り換えようとする場合の障壁の高さです。コモディティ化した商品等、簡単に乗り換えられるものはスイッチングコストが低く、過去のメールや連絡先が蓄積されているなど、乗り換えが簡単で無い物はスイッチングコストが高いと言います。

現在、スマートフォンOSを巡ってはFireFoxやTaizenといった「第三勢力」になろうとする動きが水面下で始まっています。先行するグーグル、アップルはこういった「第三勢力」のOSを前にして、買い替え予防策、スイッチングコスト上昇策を考えなければなりません。

最早大半のメジャーアプリはどのモバイルOSにも対応しており、クラウド経由でパソコンからでも利用出来ます。フィーチャーホンからスマートフォンへ移行させた「利便性」によって、移り気なユーザは、気分次第で何時でも他のOSへ買い換えることも可能になってきているというわけです。
 
「連携するデバイス」の増加はスイッチングコストを上昇させることが出来ます。グーグルグラスを使いたければアンドロイドのスマートフォンが必要、アップル製の時計が使いたければiOSが必要という風に。こういった戦略を行うには「市場シェア」が大きい方が有利に展開出来ます。家電屋さんに足を運ぶとiPhone用の本体カバーは多くの種類がありますが、マイナーな機種のカバーは選択するほど品揃えが良くありません。母数の多い製品と連携したいと思うメーカは多数ありますが、少数派向けに対応製品を供給しようとするメーカは少数です。

スマートデバイス市場で先行する二社は第三勢力のシェアが伸びる前に、次の基盤を固めるフェーズへと移っています。

新市場の開拓

次に両者にとって新市場開拓という側面についてです。グーグルは表向きはハイテク企業ですが、収益の面から見ると彼らは世界最大の広告会社でもあります。目の前一面を覆うグーグルグラスは広告を表示するにはこれ以上ない程のデバイスです。
 
また、グーグルグラスは地図や翻訳サービスと相性が良いと考えられています。メニューを見ていたら翻訳されたり、目的地に向かって矢印で案内してくれる、こういう用途にもグーグルのサービスは強みを持っています。グーグルマップや、グーグル翻訳です。これらを一般人が利用するのは無料ですが、企業がAPI経由で利用するにはAPI利用料が発生します。グーグルは広告収入以外にウェアラブルコンピュータ時代にはAPI課金を新たな収益源とすると推測されます。

新市場の開拓

アップルは広告会社ではありませんから、市場が限られているメガネを急いで出す理由は無さそうです。(とはいえ特許は出願しています)アップルはデザインが売りの会社ですから、デザイン性という意味では時計の方が相性が良いでしょう。
 
特にグーグルはプロトタイプを製作し、市場が成長すればサムスンやLGといったメーカが開発費を投入して魅力的なデバイスを製造してくれるわけですから、リスクをかけずにディスプレイ市場が増加します。
 
■ユーザの利点
ユーザにとっても勿論メリットはあります。先ほど「機能やサービスは最適なデバイスへと分散していく」と書きました。ウェアラブルコンピュータとは「機能の分散」です。地図や翻訳といったサービスならスマートフォンで見るより、視界の前にオーバレイ(重ね合わせ)表示されるほうが便利です。
 
メールやTwitterのお知らせは時計で通知された方が便利だと感じるユーザも居るでしょう。またIDや決済機能は紛失すると大変なことになりますから、時計やブレスレットで腕に縛りつけておいた方が紛失せずに済みます。寒い冬に定期券やスマートフォンをわざわざ胸ポケットから出さなくても時計を改札機にかざせば通過できるようになるのです。
 
もちろん、これらの使い方は「全員」がする必要はありません。どこの部位で何をさせるか、それとも今までどおりスマートフォンで全てを実行するのか、利用する機能に応じて「選べ」ば良いのです。あるサービスを実行するにあたって、自分の身体のどこからアクセスするのが一番良いのか、自分好みにカスタマイズ出来るのです。

そう、ウェアラブルコンピュータは「機械の向こう側」にある「サービスを身にまとっている」状態、「ウェアラブルサービス」であるとも言えるでしょう。そして、この点からもクラウド上に多数のサービスを持つグーグルやアップルは単に機械を製造する企業よりも有利な状態にあると言えます。

<続く>
※これは、校正前の原稿であり、一部書籍に収録した内容とは異なる部分がある場合があります。なお上記内容は2013年1月の執筆時点の状況です。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。