デバイス陣営から見たウェアラブル市場の利点、進行する右手争奪戦

ウェアラブル市場は、主に三つの観点からプレイヤーを定義出来ます。一つはスマホOSを展開する陣営、デバイス陣営、チップメーカ陣営の三つです。今回はデバイス陣営の狙いを考察します。下記文章は自著「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」の最終章「これから何が起きるのか」を公開しています。前回の文章はこちら

水面下で進行する右手争奪戦

「ライフログ」を取得するリストバンド型ウェアラブル・コンピュータが健康分野で人気を集めています。米スポーツメーカ ナイキは「NIKE+」という健康管理サービスを提供しています。時計やスポーツバンドを装着し運動すると運動量が自動的に計測されます。NIKE_JOWBONEUP
既に世界で600万人が利用しており一ジャンルとして確立されています。2010年から2011年にかけてナイキのランニング部門が計上した6億5000万ドルの収益増加に貢献しました。

中でも「NIKE+ FUELBAND」がデザイン性の高さもあり人気を集めています。これを手首に付けて歩いたり、運動をすると運動時間や消費カロリー、歩数等を自動的に記録します。これらのデータはスマートフォンを通じてクラウドに記録され、運動量に応じてトロフィーを貰えたり走行した径路が地図上に表示されたりと、運動を継続するための「動機付け」も行います。
 
Jawbone社が販売する「UP」は運動だけでなく生活全般のライフログの記録が行えます。睡眠時間や眠りの深さ、食品のバーコードをスキャンするとカロリーや栄養価といった食品の情報を提供してくれます。勿論NIKE+ FUELBAND同様に運動量の計測も行えます。

これらのリストバンド型製品で着目すべき点は装着する部位にあります。一日中装着しようとするならば、左手には時計(若い人はしない人も多くなってきましたが)を着けているので、必然的に右手に着けることになります。
 
こういった類の製品を何個も腕に装着するとは考えづらく、一度データの蓄積が始まれば、一番初めに着けた(もしくは何個か試して気に入った)リストバンドを使用する可能性が高くなることは容易に想像が出来ます。
 
ビッグデータ・アナリティクスの時代、企業は生活者のあらゆるデータを取得したいと願っています。まさにこういったライフログツールは生活者の行動全てを記録するために適したデバイスであるとも言えます。移動場所、今日食べたもの、何時に寝る、休日の移動パターン全てを記録することが出来ます。今の所各メーカはそういった用途に関しては利用しないというスタンスですが(イメージダウンを恐れているのでしょう)、やがて膨大になるライフログは、量に比例して価値を高めていくことは容易に推測出来ます。
 
現状この分野は選択肢も少なく、万人受けするかどうかはまだ時間が経過しないとわかりません。まだ大半の生活者の右手はアクセサリが着けられているだけです。しかし、先行するプレイヤーには、競争相手の存在しない「右手」のポジションがとても魅力的に見えていることでしょう。彼らは生活者の右手を奪うために動きだしています。

デバイス陣営から見たウェアラブル市場とは、人の身体が空き地だらけの不動産市場に見えていることでしょう。いかにして将来値上がりする土地を抑えるか?その土地に何が求められているのか?を探りだした状態なのです。

<続く>
※これは、校正前の原稿であり、一部書籍に収録した内容とは異なる部分がある場合があります。なお上記内容は2013年1月の執筆時点の状況です。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。