オラクルCCO、ボブ・エバンス。「オラクルがクラウドを理解していないという世論は馬鹿げている」

オラクルのボブ・エバンス。この名前を知っている人は日本でもまだ少数だろう。それもそのはず、彼は2012年にオラクルに入社し、2013年にオラクル初のチーフ・コミュニケーション・オフィサー(CCO)に就任した。CCOとは聞きなれない役職だが、オラクルのビジョンや戦略、テクノロジーがどのようなビジネス価値を創造するかを啓発することが任務だという。わかりやすく言えば「エバンジェリスト」を統括する偉い人といった所だろうか。Forbesで自らの言葉でオラクルの考えるビジョンを世界に向けて語りかけている。

このボブ・エバンスが来日し、オラクルの戦略を直接うかがうことが出来るというので、オラクルのビジョンについて話をうかがった。

オラクルCCOボブ・エバンス

まず、IT業界に影響するマクロ視点について解説がなされた。「全世界のGDPは約70兆ドル、そのうちテクノロジーへの支出は約2.9%の約1.9兆ドルとなっている。金銭的な観点ではGDPのうち極わずかでしかないが、ITのもたらす世界への影響力はとても大きい。1.9兆ドルのうち消費者向けテクノロジーへの支出は約1兆ドル、企業の支出は約9,000億ドルとなっている。消費者向けは、1兆ドルのほぼ全てがイノベーションに投資される。しかし、企業は、支出の大半(60~80%)を、統合と”日常業務の維持”に費やし、イノベーションへの投資は極わずかである。このままでは、豊かなテクノロジー体験の創造という点で、企業はコンシューマ向けに後塵を拝すだろう」

次に今後の世界のトレンドとして雇用環境の劇的な変化が訪れると語った。「今後8年間で、米国では労働人口の40%が退職する。日本も同様に超高齢化社会が現実のものになろうとしている。労働市場において世代交代が訪れる。報酬やキャリアに対する考え方の異なる世代と企業はどう向き合っていくか。企業は企業文化、報酬体系、労働習慣などをこれからの時代に合わせて対応していかなければならない。」

企業が今後直面する課題

そして、企業と消費者を取り巻く大きなITトレンドとして、モノのインターネット(Internet of Things)、ビッグデータ、モバイル、ソーシャルビジネスがあり、これらの新しいテクノロジーに対応するために、旧来のアプリケーションは刷新される必要があるだろうと述べた。
ITのメガトレンド

オラクルはこれらのテクノロジーを単なる「技術」で終わらせるのではなく、企業にとって価値あるものへと変えていく。複雑になりがちなテクノロジーをシンプルにして、ビジネスにイノベーションをおこす手伝いをするために、これらの四つを重視する。産業用アプリケーションと、クラウドアプリケーションの提供、オンプレミスでもクラウドでも柔軟に対応可能な包括的なソリューションの提供、様々なコンポーネントを最適に組み合わせることだ。
オラクルの戦略

オラクルがクラウドを理解していないという世論は馬鹿げている

世間の重要な関心事項として、オラクルのクラウドビジネスへの注力度合いが挙げられるが、これについては「まったく馬鹿げた話だ」と温厚なエバンスが口調を強くして語った。既にオラクル・クラウドは1万社の企業が利用しユーザ数は2300万以上の規模に成長している。更に、SaaSプロバイダー上位10社のうち9社がOracle Databaseをプロットフォームとして利用している。これはつまり、「あの有名な」クラウドアプリケーションも裏側ではOracleの技術が採用されているということだ。直接的にオラクルがSaaSという形で提供するか、間接的にバックエンドで採用されるか。前者の提供形態が注目されがちだが、後者の方法でもSaaS市場の拡大と共にオラクルも成長することが出来るというわけだ。

もちろん、バックエンドでプラットフォームを提供するだけでなく、クラウドベンダーとしても最も広範囲にSaaSアプリケーションを提供しているベンダーであると自信を見せた。

しかし、ここで来場していた記者の中から「とはいっても、オラクルはクラウドで弱いというのが市場の見方だと思う。例えばガートナのPaaSのレポートを見てもオラクルの名前は入っていない、これについてどう思うか?」という質問がなされた。これに対してエバンスは「PaaSだけといったように特定のカテゴリーだけの調査であればそういう見解をされることもあるだろう。しかし、われわれのビジネスはクラウドだけが全てではないということをお伝えしておきたい。また、最近アナリスト達はインテグレーテッドシステムと呼ばれる定義を使うようになってきたが、そういったカテゴリでは我々も評価されるのではないか。」と応えた。

また、「私たちはメディアの方々やアナリストの作るキーワードに応えることを目的にしていないためお眼鏡にかなわないこともあるかもしれない。私たちが大切にしているのは、私たちのお客様の作り出すキーワードに応えることがもっとも重要であると考えている。そのため世の中の見解と食い違うこともあるかもしれないが、私たちは常にお客様と対話している」とも、語り顧客重視の姿勢を訴えた。

この点については、私も同感だ。インフラビジネスに携わっている立場の人間から見ても「クラウド」が全てではない。しかし、メディアでは「全てがクラウドに飲み込まれてしまう」かのごとく語る人もいる。世の中の流れがクラウド化していくトレンドを否定するつもりはないが、その流れは緩やかであり、また全てのシステムがクラウド化されるというよりは、適材適所で使い分けられていくものだと理解している。実際、今年リリースされるクラウドサービスの多くはオンプレミスとクラウドのシステム双方を構築、保守出来るものが増えてくるだろう。「どちらか一方が使える」のではなく「どちらも使える」のが今の企業のニーズである。更にSDNやNFVといった技術の注目も高く、まだまだオンプレミスのビジネスもイノベーションは止まっていないのだ。

AIには興味なし

私からはIBMのワトソンのような「考えるコンピュータ」にオラクルは興味がないのかと尋ねたが、これについては「戦略の中には無い」とのことだった。これについては、私も若干戸惑った。コグニティブコンピューティングなどは、2020年頃には重要な技術要素の一つとなり、新たな新市場になる可能性も高いからだ。

戸惑ったが、この返答でオラクルの姿勢を確認することも出来た。五年後、十年後の未来より、「目の前に居る顧客の課題解決に注力する」現実主義であるという点だ。確かに2020年までの道のりを考えると、今より多くのコンピューティングリソースが必要とされる。そこに向けて今出来る手を着実に打っていく。

ビッグデータというキーワードでIBMと競合となることが多いオラクルだが、未来の市場を開拓しようとする「IBM」と、現実路線を着実に歩む「オラクル」といったように、若干戦略の違いが出てきているように感じた。この戦略の違いがどのような結果につながるか、今はまだわからない。しかし、たった一つ自信を持って言えることは、オラクルが世の中のバズワードに振り回されることも追い回すこともなく、ただ目の前の顧客の声に真摯に応えようとしている企業であるということだ。



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    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。