「都会を離れれば生活コストが安くなる」は本当か?

 2月14日に、産学官が連携しICT技術交流の場として活動している「北九州e-PORT」でウェアラブルコンピューティングに関する講演を行った。NHKの取材も入っておりウェアラブルコンピュータに関する注目の高さを実感した。

この講演の関係で前日から下関に宿泊していた。北九州と下関は電車で30分ほどの距離ということもあり、せっかくの出張なので有名な「下関のふく(下関ではふぐをふくと呼ぶ)」を楽しみたいと思ったからだ。期待通り、本場ならではの多彩な海の幸を堪能することができた。

少子高齢化 先進都市「下関」

しかし、驚いたのはその町並みだ。「過疎」、「人口減少」、「少子高齢化」の進んだ街はこういう状態になるのか、ということだった。

下関では1985年以降人口が減少傾向にあり、1985年に32万5千人だった人口は、2014年には27万2千人まで減少している。人口減少の背景には港町特有の産業(運輸倉庫、水産、造船等)が陸路、航路の発達によって縮小したこと、海外からの魚介類の輸入による価格競争の激化などがあげられる。若い人の多くは仕事を求めて都会へ身を移し、残っているのは故郷と共に生きる老人達という状況になっている。

私が宿泊した下関駅から僅か徒歩五分ほどの漁港の風景がこの写真だ。この付近は、かつては坂本竜馬や高杉晋作らも好んで遊んだと呼ばれる遊郭だったそうだが、今ではその面影をほとんど感じることはなかった。怪しげな店の前を私が通り過ぎようとすると、店の奥から老婆がかけよってきて「写真だけでも良いから見ていって」と懇願する。その必死ぶりと街の風景から、よほど客足が無く、一人でも客を獲ろうと必死なのがうかがえた。

下関漁港の風景

漁港から少し離れ、下関駅近くの焼肉商店街グリーンモールを散策していた時に見かけた住宅街の風景がこれだ。誰も利用していないのがすぐわかる自販機が「放置」されている。住宅街を歩いていると「土地付き、売り家」の張り紙をしている家も何軒かあった。

古びた自販機

都会を離れれば生活コストが安くつくの間違い

インターネットを眺めていると、ときおり「国民全体が貧しくても生きていける」、「地震の日や、雪の日にまで仕事する人は頭がおかしい」という極端な持論を主張している人が居る。貧しくても楽しく生きているという人に焦点をあてた「プア充」と言う本まで現れている。

人口減少に悩む山口県下関市は日本の中でも先進的な「少子高齢化」に悩み「雇用の創出」に悩んでいる街だ。この街の姿は、そういった人たちが思い描く「貧しくても生きていける」という理想の姿だろうか。

東京や大阪といった都会に住んでいるだけでは、決してこういった地域の悩みを実感することはできない。また、政府の発表データだけをみて数値を頭の中で理解しているだけでも、いざその土地に行ってみると数値だけでは感じ取れないものがたくさんあることに気づく。

例えば、田舎なら物価も安いだろうと安易に思ったりするが、どうやらそうでもない。私が下関を散策しているときに「閉店セール」を行ってる電気屋さんがあった。70%オフなどと景気の良いことが書いているので中に入ってみると、40インチのテレビが特価13万円となっていた。都内だと恐らく5~9万円程度で買うことが出来る。

大型の量販店やネットが使えない人たち向けの商売なので「都会」と違う相場がここには存在しており、幾つかは都会より割高なものが散見された。ホテルなども決して安いわけではない。利用者が少ないから一人当たりの単価を上げざるを得ないからだ。都会で良く見かける百円ショップもほとんどみかけない。インフラが発達し、人口も多い都会の方が安くて品質の良いサービスを受けられる可能性が高い。

長い目で見れば、「都会を離れれば生活コストが安くつく」なるという考えは地価については確かにそうかもしれないが、日々のランニングコストは上昇する可能性もあるということだ。ひょっとすると十年、二十年後には土地代は東京が高いが、日々のランニングコストは東京の方が安いという時代が訪れる可能性の方が高いのではないだろうか。今現在日本がある程度「豊か」であると感じられるのは、日本の円の力が強く、海外製のものを安く仕入れることが出来るからだ。これが全体的に弱くなってしまったら、日常品も満足に買えない時代が訪れるかもしれない。「都会を離れれば生活コストが安くつく」という考え方が成立するのは、その都市がある程度の経済力を伴っていることが前提だ。年々経済力が低下していけば、生活コストはいずれ都会の方が安くなるようになるだろう。

国全体が「プア充」に流れてしまったら。自販機さえない、百円ショップもない、ネットショップの送料は有料、そんな時代に多くの人は満足出来るのだろうか?



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プロフィール

大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。