キーマンに訊く。日本テレビはなぜ動画配信に挑むのか?(後編)

前編では、見逃し視聴キャンペーンが中心だったが、後編ではHuluや、今後の展開などについてお伝えしたい。

企画構想から五年を掛けて実現

–もし他局が「見逃し視聴キャンペーン」を開始するとしたらネックになる点はありますか?
ネックというわけではありませんが、テレビ番組は多くの方々のご協力で成り立っているものですので、関係されている方への説明や調整は必要です。様々な権利者さんから許諾を得たり、系列局さんと実施番組を調整したり、営業面での説明などですね。多くの関係者に対して、様々な疑問に対する回答をしたり、細かいルールづくりを進めなければなりませんので、一朝一夕でできるものではありません。

実は「見逃し視聴キャンペーン」の企画書を初めて出したのは五年前でした。これらの問題を無視するのではなく、一つずつ解決していくために時間がかかりましたね。

–なるほど。「見逃し視聴キャンペーン」はCMがカットされていた事も驚きましたが、そういった背景があったんですね。
そうですね。全く新しい取り組みですので、もし広告をつけるとなると、関係各所の調整やルールの整備からはじめなければなりませんので。現在は広告はつけていませんが、サービスの認知がより広がれば考えていきたいですね。

–スポンサーからはCMが入らないことに対して反応は無かったのでしょうか?
今のところは聞いていません。
–魔女の宅急便のCMが挿入されていましたが、あれはスポンサーがついたのですか?
魔女の宅急便はCMではなく弊社のPRという位置づけです。挿入した目的はユーザの反応を知るための実験ですね。番組以外のコンテンツが入っていた場合のユーザの離脱率やスキップされるのかといった反応を知るためです。

–なるほど、実験目的でしたか。毎回2回ずつ再生されるので不思議に思っていたのですが、そういう意図だったんですね。

–CMが入っていると中断されるようなことは無かったですか?
ほとんど無かったですね。

–ほんとですか。もしかすると、プラットフォームのUIのせいではないでしょうか。CMの部分だけスキップするとかなかなか微調整が上手くいかないので、CMが入ってても見続けるしかなかったのですが。
それもあるかもしれませんが、他の動画サービスでも、映画やテレビ番組などのコンテンツはCMスキップ率がとても低いと聞いています。諸外国の動画サービスでは、そもそもCMスキップができないものも多いですしね。

違法動画駆逐にも期待

–テレビ業界では違法動画の存在も問題視されているかと思いますが、見逃し視聴キャンペーンが広く認知されれば違法動画対策にもなるのではないでしょうか?
現段階では効果は少ないと思いますが、認知が拡がれば効果はあると考えています。というのも、イギリスのチャンネル4等を訪問したときに「違法動画対策についてどうしているか?」と尋ねると、みなさんポカーンとされるんですよ。「何を言ってるんだ、こいつは」みたい顔で。

欧州の各放送局は見逃し視聴を積極的に展開していました。だから視聴者側もわざわざ違法でアップロードされた動画を探す必要がないわけです。だから「違法動画対策って何」っていう状態だったんですよね。ところが、日本だとそうじゃない。どこの局も違法動画の存在には頭を悩ませています。全ての局が足並みを揃えることは難しいと思いますが、もし、「見逃し視聴が当たり前」のサービスになれば、効果はあるでしょうね。

–1300万回も再生されていたわけですから、全体で考えるともっと違法動画が視聴されていると考えてもよいでしょうね。
そうですね。違法動画がどれ位視聴されているのか、という調査は行ったことはありませんが、今回の見逃し視聴キャンペーンの再生数を考えれば、違法動画はもっと視聴されている可能性はありますね。

Huluについて

–「見逃し視聴キャンペーン」は今後Huluでも展開されていくんでしょうか?
1話無料という形が主ですが、Hulu上でも番組を無料で配信しています。アニメなどもありますので、見逃しキャンペーンより無料配信のコンテンツ数は多いです。

–なるほど、そうなんですね。Hulu買収後の反応はいかがでしょうか?
問い合わせは多いですね。お蔭様で社内外から注目されています。

–他局の反応は?視聴ログが取得されることに対する懸念があるかと思いますが。
そういううがった見方をする人も居ると思いますがそんなことするつもりは毛頭ないです。Huluの日本事業を継承した目的は視聴者接点を確保することですから。そもそも、一部の有料視聴者のデータをもとに全国規模の地上波番組に対してどうこうできるとは思っていません。

そこに注力するよりは、いかにユーザを確保し視聴者接点を確保するか、そちらの方が優先度は遥かに高いです。

–ネットの反応を見ていると、他局を締め出して日本テレビのコンテンツだけになるのではという懸念もありますが。
それも有り得ないですね。アグリゲータのビジネスモデルですから他局さんの存在は非常に有難いですし。逆に将来的には各局で使える共通のプラットフォームにしたい、と考えているくらいです。

インターネットに出た途端に、テレビ局同士の戦いから、今までと違う人達と戦わないといけなくなるんですよね。そういう人達と限られたパイを奪い合うわけですから、集客装置という土俵づくりは、テレビ局同士手を取り合うべきだと思うんです。ただ、最初から各局集まって「さあ、土俵をつくりましょう」といっても、これまでなかなかうまくいかなかったので、まずは身軽な形で成功事例をとっととつくって、それに乗っていただけるなら大いに歓迎します、というように考えています。

–視聴ログを利用して番組作りをするという可能性はあるんでしょうか?
「有り」だとは思いますが、今はまだまだですね。Netflixさん位の規模になれば、日本全体の視聴特性を反映していると考えられると思いますから、そこから得た知見で番組を作るというのは有りだと思います。

ただ、現状の規模で、このデータだけを見て「多くの日本人に受けるコンテンツ」を作れるなんて考えるのは、さすがにないですね。そもそも、そのデータを見てどう番組作りに活かすかというノウハウも体制も確立されてませんからね。

それよりは、Netflix位の規模を目指してサービス拡大させることを考えることの方が重要ですし、そのためにしなければいけないことがたくさんある。そういう状況で少ないリソースをデータ分析に回す余力は無いというのが本音です。

–確かに、おっしゃるとおりですね。視聴ログを分析してるなんてメッセージを発信していたら、むしろ視聴者から嫌煙されるかもしれませんしね。
そうですね。ましてや他局のデータを分析なんて、そんなことするつもりは全く無いんですよ。私は以前、今で言うビッグデータ分析のはしりのようなプロジェクトに関わっていましたので、事業において何らかの成果を出すために、どんなデータをどうやって集め、どれだけの仕組みと体制を整えなければならないか、をイヤというほど経験しました。

ですので、単純にデータを集めて分析さえすれば何かが変わるとか生み出せるといった考え方は持っていませんし、闇雲なデータ集めや分析にパワーを割こうとは思っていません。

テレビがもっとシェアされるように

–動画配信以外で注力されているものはありますか?
ハミテレですね。

–それは何でしょうか?
NHKさんを含むテレビ局全局の情報が見れるアプリです。EPGに含まれる番組表だけじゃなくて、番組の出演者やグルメ情報など、テレビに関する総合情報アプリです。テレビ版スマートニュースみたいな感じですね。
–なるほど、スマートニュースみたいなとなると、また嗜好ログとかとっているのかなと思ったりするんですが、いかがでしょうか。
確かに、これについてはログにもとづいたコンテンツの出し分けなんかを考えてなくはないです。ただ、それより若年層のテレビ視聴時間が1日に2~3時間しかない現状で、テレビに接触していない時間が圧倒的に多いわけですから、そういう時間に興味ある情報を届けて接触を増やしたいという狙いの方が強いですね。

それと、ウェブコンテンツだとURLを簡単にSNSにシェア出来たりしますが、テレビはシェアの世界から分断されていたので、もっとテレビをシェアして貰いたいということも考えています。

意識されているテレビ局など

–ニコ生のようなライブ配信的な仕組みの提供も検討されているのでしょうか?
実は既にやっています。ジャイアンツの配信とかについてはやっています。

–もの凄く余談ですが、見たいかどうかは別として、スマートウォッチとかウェアラブル端末でも日本テレビのコンテンツが見れる時代が来るでしょうか?
ウェアラブルが普及すればですが、可能性が無いと否定は出来ないと思います。ウェアラブルに関わらず「人が映像を見る新たなデバイスが普及」すれば、打って出たいと思います。

–意識されているテレビ局などありますか?
動画配信というと、米国のNetflixやHuluを引き合いに出されることが多いのですが、参考にしているのは欧州のITVやチャンネル4です。彼らは放送局でありながら動画配信を行い、動画配信事業単体で黒字化している点が優れていると思います。

–打倒「○○」とあげるとすると、どこかありますか?
打倒「Youtube」とか言うと、メディア的には面白いのかもしれませんが(笑)
得にありません。

–「Youtube」を意識していないというのは、どんな理由があるんでしょうか。
人々の隙間時間を奪い合うということなら、彼らは強敵です。ただ同様のモデルで勝負する気はないということです。「ない」というより「できない」し...(笑)

彼らは映像を集約する箱ですが、こちらはコンテンツメーカーでもある。まあ、その違いはユーザーにとっては全く関係ない話なのですが、実は差別化要因もそこかな、と思っています。

誤解を恐れずに言うと「受動型」か「能動型」かの違いというか...

今どきは何でも短く軽く大量にの方向性を是とすることが多いですが、そういうのってITリテラシーの高い人や、都会で忙しく働いている人にはマッチしますが、そうじゃない人の方がよっぽど多い。また、そういう人でもじっくり見たいシチュエーションは絶対にあるんですね。

だからこそ映画があり、レンタルビデオがあり、録画機があり、テレビがあるわけです。でも、そういうものってこれまでとても使い勝手が悪かった。「いつでもどこでも」見れないんですよね。そこのやり方をちょっと変えるだけで、まだまだ人は集まると思っています。

収益目線でみても、広告効果は違ってくると思っています。IT系のサービスの多くは、商品やサービスのページに何人とか何回送り込んだか、っていう、いわゆるUBやPVなんかが広告効果として語られますが、それってただの中間指標でゴールじゃない。ゴールはその商品を買ってもらったり、サービスを使ってもらうことですよね。

そういうちゃんと背中を押す効果や、印象に残す効果っていうのは、テレビの方がまだまだ強いと思っています。そんな中で、能動的に「見よう」と思って見るコンテンツに表示される広告と、なんとなく訪れたコンテンツに挿入される広告では、背中の押され方が違うだろうと。

まだまだ広告手法そのものに差異が無い状況ですので、差別化するには広告表現やアプローチの方法をもっともっと開発しなければなりませんが、少なくともコンテンツへの接触態度という意味では、高い効果をのぞめるかなと思っています。

実際に、イギリスをはじめとした、世界各国のテレビ局が提供している動画配信サービスの広告単価ってかなり高いですし。それだけ効果があるということだと思います。

単純に隙間時間を埋めるコンテンツで勝負するならYoutubeは意識すべきですが、目指す方向性は違うのではないかと思っています。

–では、今目指している方向に「ライバルはいない」と。
そうですね「独自の方向性」を切り開いていきたいと思っています。

–これからも、世間を驚かせるような取組が行われるんでしょうか?
はい、まだまだですよ。

–まだ、本気ではないと(笑)
そうですね、まだまだ全然ですよ。世界のどこの放送局もやってないようなことを考えてます。

–その本気はこれから三年以内位には見れるんでしょうか?
そうですね、三年以内にはやりたいと思いますが、どうですかねぇ...(笑)

インタビューを終えて

「まずは、数字を取りにいく」それを強く感じるインタビューだった。日本テレビは、他局に先駆けてネット連携、スマホ対応、動画配信事業への進出を展開しているが、その視線の先には「テレビと、ネット両方で数字を取りに行く」というゴールが有り、各施策はそれを実現するための手段にすぎない、ということを十分に理解してコマを進めている。ビッグデータ活用などは、その目標が達成出来たあとに考えることであって、まずは使える限られたリソースを「数を取りにいくことに集中させる」その意志が強く感じられた。(実は、インタビューの狙いとしては、ビッグデータ活用について面白い意見が引き出せると良いなと思い、何度も話題を振ってみたのだが「そういうのは今やるべきことじゃない」と苦笑いされた。)

これは簡単なようで難しく、ネットで成功することにおいて「いかに数を集めること」が大切であるかを理解している太田氏だからこそ、ブレずに推進出来ていると感じた。

この「ブレズ」に推進するというのは、案外難しいのだ。テレビに限らずだが、最近はスマートデバイスやソーシャルメディアの活用をビジネスに取り入れようとする企業が多い。軟式アカウントを作ってみたり、スマホアプリを作ってみたり、O2Oが流行ったと思えばクーポンをばらまき、ビッグデータと言われれば、いかにしてデータを分析しようかと右往左往する。

右往左往している間に、「新しいことに挑戦する」ことがいつのまにか目的になってしまい、本来自分たちが何に取り組むべきだったのかを見失ってしまっている企業は少なくない。

しかし、日本テレビはまず、明確なゴールと戦略が有り、かつ、そのコマを進める上で「効果が無かった」ものには、固執せず、それを改良するなり、停止したりと、柔軟に対応しているのだ。実のところ、日本テレビがこれまでに行ってきたネット連携で取り組みを停止しているものも幾つかある。しかし、それらを失敗としてマイナス評価と受け止めるのではなく、「効果がないことを立証できた」という視点で受け止めている。このあたりも「多産多死」が当たり前のインターネットの世界を良く知っている太田氏だからこそのオペレーションだろう。

太田氏は「まだ、日本テレビは本気を出してはいない」という。その本気が見えた時、世間をアッと驚かせてくれることを期待したい。



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  • プロフィール

    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。