なぜ、シニアが増えればテレビの視聴率は増えるのか

先日公開した、日本テレビ、太田 正仁さんへのインタビューは合計37万PVに達し、大きな反響があった。
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この記事中の「これからシニアが増えればテレビの視聴率は増える」という予想に対しては反対意見の方が多かった。この主張は太田さんの意見というよりは、今あるデータを観れば若年層よりシニア層の方がテレビとの接触時間が長いので、その事実から推測すれば「これからシニアが増えればテレビの視聴率は増える」という趣旨のものである。事業企画を考えるには何の根拠も無しに企画は考えられないので、今あるデータを土台にするため「まぁ、データとしてはそうなってるんですよね」程度のもので、「これからどんどん視聴率増加しますよ!」というニュアンスでは無かったことだけは補足しておきたい。

この主張に対しては、特にネットリテラシーの高い人からの反対意見が多かった。特に「今の40~50代はパソコンもスマホも使えるし、この世代がシニアになったら、テレビの前になんて居ないだろう」という主張は多く見られた。実際私もそう思うことがある。今でさえテレビを見てない自分が突然60才になってテレビを見るなんて思わないし、他の人もどんどんテレビから離れて行くんではないか、「少なくとも一年前」まではそう思っていた。

テレビの前に存在する「四種類の人達」

しかし、最近はそうは思わなくなった。だからこそ太田氏が「これからシニアが増えればテレビの視聴率は増える」の発言を聞いた時に「意外」と受け止めた自分と「なんかわかる」と吸収できた自分が居たのだろう。もし、私が一年前「テレビから人がどんどん離れて行く」という考えしかなかった状態なら、「そんなことないです!」と切り替えしていたかもしれない。

ここからは、太田氏の意見ではないが「私」の「これからシニアが増えればテレビの視聴率は増える」理由について考えてみたい。

既に説明するまでもないが「視聴者」と「テレビ」の関係性は大きく変化している。テレビを普通に見ている人、テレビを見ながらTweetする人、テレビをみながら本を読む人(ながら見)、テレビをなんとなく点けている人(見てない)、テレビを録画して見る人(タイムシフト)、テレビをネットで見る人(違法動画)、ざっと思いつくだけでも、テレビの見られ方は十年、二十年前とは大きく変わってきていると思う。

その変化によって、今、テレビの前には「四種類の人」が存在しているのではないかと、考えている。順を追って説明しよう。

・1.視聴者
まず、文字通りの視聴者だ。伝統的な「視聴率調査」でいうところの「テレビを見ている人」達だ。テレビCMの広告単価はこの視聴者がいかに多いか、ということが広告単価を決定する上でもっとも重要な要素になっている。だから、テレビの話題というと「いかに視聴者を獲得するか」という視点で語られることが殆どだ。

・2.ユーザ
先進的なテレビ局で重視され始めたのが「視聴者のユーザ化」だ。テレビをみながら、スマートフォンやPCを使って「テレビに能動的に参加する」人達だ。視聴者をユーザ化させることで、テレビを起点としたインタラクティブなイベントや、より詳細な視聴者属性、コミュニティの活性化が行える。
有名な例では日本テレビのJoinTVやWOWOWの金曜カーソルが視聴者のユーザ化に積極的に取り組んでいる。

・3.消費者
「テレビを見て買い物をする(消費する)人」だ。テレビで紹介された商品は良く売れる。これに目をつけ始めている企業は既に存在する。楽天やヤフーはテレビ番組で紹介された商品を目につきやすくすることで、アフリエイト収入を伸ばしている。

・4.生活者
最後に紹介するのが「生活者」だ。テレビを点けるという生活習慣でテレビを点けている人達だ。彼らはテレビを点けてはいるが「見てはいない」かもしれない。彼らにとって「テレビは見る物」ではなく、「生活空間に存在する装置」なのだ。

生活者にとってのテレビの価値

テレビのビジネスにとって視聴者が重要なことは説明するまでもない。先進的なテレビ局ではユーザの開拓や、テレビの前の「消費者」にどうアプローチするかといった取り組みも進み始めている。特に「ユーザ」と「消費者」へのアプローチはネットの活用が重要な要素となる。この三つがテレビの未来を支えるとしたならば、テレビがネットに歩み寄ることになり、テレビがネットへの送客装置となり、テレビからネットへ視聴者が移っていく筈だ。

私も「一年前」はそう思っていた。しかし、この視点には「生活者」の視点が欠けているのではないか、と最近は思うようになった。テレビを見るわけでもなく、テレビと遊ぶわけでもなく、ただテレビを点けているだけの生活者。生活者はテレビに何を求めているのだろうか。それは「暖炉」のような存在なのではないだろうか、と。

テレビというメディアは不思議な存在だ。どんな家庭に生まれても大抵生まれた時から「テレビ」がある。そして、「テレビ」を囲って家族と食事をしたり、笑ったりする。世の中の大半の人が幼少期の頃に「テレビのある家庭」を経験することになる。そして子供が成長して「自我」を意識する年になると、次第に子供はネットで「個人的な趣味・嗜好」を満たしてくれるネットコンテンツへと流れていく。

しかし、この子供がやがて成長し、大人になり、家庭を築くとき、どんな家庭を築きたいと考えるだろうか、とふと考える時がある。きっと幸せな家族を創りたいと思うに違いない。その幸せな家族像とは、家族全員が部屋にこもってスマホをいじってる家庭だろうか?それとも、リビングにテレビがあり、自然と家族がリビングに集まってくる家庭だろうか。幸せの定義は人によって異なるが、恐らくは自分の幼少期の頃の「暖かい家庭」を頭に思い浮かべる人が多いだろう。この幼少期の体験によって「テレビが点いていると、なんだかホットする」、暖炉があると人が自然と集まってくるように、テレビには「なんだか点いてると安心する体験」が刷り込まれているのではないだろうか、と思う。親から子へ体験が受け継がれていく稀有な存在のメディアなのだ。

幼少期の頃に家族とテレビを見ていた子供達は、一時的にはテレビから離れるが、子供から大人へとライフステージが変化した時、きっとまたテレビの前に戻ってくるのではないか。

そして、自分の子供が成長し独り立ちして家を出たとき、あるいは定年退職をして夫婦で過ごす時間が長くなったとき。テレビはここでも暖炉の役割を果たすだろう。何十年寄り添い、阿吽の呼吸の仲となった夫婦に毎日の会話は必要ないかもしれない。次第に挨拶だけはするが、会話は長続きしないという状況になるかもしれない。「夫婦の間の無言の時間を埋める」のだ。

そして、更に時間が経ち伴侶に先立たれてしまったとき、テレビはただ点いているだけの「寂しさ」を紛らわしてくれる装置になっているかもしれない。

ライフステージの変化で生活者はテレビの前に戻ってくる

このように、テレビの前からネットへと移行する時期はかなりの確立で訪れる。「自分が楽しめることが一番」という若い世代にはネットが強さを発揮するだろう。しかし、「家族が楽しめることが一番」と考えるステージへとシフトしたとき、きっとまたテレビの前に戻ってくる。

テレビの前の視聴者やユーザ、消費者を集めるにはコンテンツや利便性が重要だ。しかし、生活者はコンテンツや利便性だけを求めてテレビの前に集まってきているのではない。テレビの周辺の空間を暖めて欲しいがために、テレビの前に集まってくるのだ。

テレビを作る側、広告を出す側の視点だけで考えると「お金にならない」生活者視点は見えてこない。むしろ「ながら見の人の数は広告効果測定で邪魔」として彼らを如何に計測から外すかが議論されることもある。しかし、会社を離れ、消費意欲も衰えたシニアは「生活者の側面」が強くなる。かつ高齢化社会でシニアは増えていく。そう考えた時に「テレビの視聴率は今後増える」という説には納得出来るものがあった。

生活者がテレビに求めていることが「テレビは暖炉」であると理解し、「家族で見て楽しめる」「世代を超えて楽しめる」コンテンツ作りとブランド作りが出来たならば、きっとライフステージの変化と共に、生活者はテレビの前に戻ってくるし、テレビを必要とする。その生活者に対してテレビは何を出来るかを考えるべきだ。

もし、「生活者」の存在を無視し、「もっと過激なコンテンツや下世話なコンテンツを作れば若い視聴者は戻ってくる」と考えたなら、きっとネットに視聴者やユーザを奪われるだけになるだろう。



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    大元隆志(おおもと たかし) 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。Yahoo!ニュース講談社 現代ビジネスCNET翔泳社EntepriseZineITmedia マーケティングITイニシアティブ、等、様々なIT系メディアで活躍する。SNSビジネス特集でNHK教育テレビに出演。ソーシャルメディア系イベントしては国内最大級となるソーシャルカンファレンス主催者。著書に「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」「ソーシャルメディア実践の書」、「IPv4アドレス枯渇対策とIPv6導入」がある。所有資格 米国PMI認定PMP、シニアモバイルコンサルタント等。