気づきを得た開発、得ない開発(プログラマ編)

開発の仕事、単純に一言で片付けてしまうと非常に短い一言です。
しかしその仕事には、お客様がいて、営業がいて、設計がいて、プログラマがいて、デザイナがいて…と、数多くの担当が関わっています。
またそれぞれに責任者がいて、承認を貰って…などというのが、一般的な企業の業務フローではないでしょうか。
サービスや製品が世の中に出ていくということは、これに関わる全ての人が何かしらの思いをもって携わり、ユーザの皆さんに何かしらの『体験』を届けた結果である、という事です。
ですがどこかでズレが生じてしまうと、それは決して元に戻ることはありません。
そのズレが意識的な物、例えば費用的な理由などであれば、原因が明確ですし、改善は可能でしょう。
しかしそれが無意識、とりわけ悪意の無いものであった場合、原因の追求は困難となり、改善は難しいでしょう。
ではなぜそんな事が起こりうるのか、様々な視点から考えていきたいと思います。

■開発者が陥る落とし穴
技術者の性といいますか、モノ造りをしているとどうしても「良いものを作ろう」という意識が働きます。
新しい機能の追加であったり、パフォーマンス改善であったり、様々なアプローチがあるでしょう。
「そこに新しい機能があるからさ…」といわんばかりの機能追加をし、機能を管理するための機能が欲しくなるくらい盛りだくさんのサイトやアプリを見たことがあります(決してGoogleの事ではありませんよ!)
ですが、また違った形で技術者たるプライドを持つ方もいます。
言われたことを確実にこなす、という美学です。
求められた要求を確実に納期通りにこなすというのは、当たり前のようにみえてなかなか難しいものです(仕様変更が得意技のクライアント様だと特に…)
いずれにせよ、技術者であれば一度は上記のように考えた事があるでしょう。
しかしそのポリシー「誰の為」に貫いていますか?

■サービス/製品をリリースする理由は何か?
冒頭でもお話したように、開発者は「ユーザの皆さんに『体験』を届けるため」に頑張っています。
しかし、開発を長く続けていると、どうしてもその事を忘れてしまいがちです。
プログラマにとって一番重要な要素はモチベーションです。
お金も必要ですし、名誉もあれば嬉しいでしょう。
しかし「自分が立てた目標」を達成した時の満足感は非常に高く、これに勝るやりがいはそうそうありません。
ですが、目先の目標にとらわれて、大局を見逃してはいけません。
そのサービスが届けたい『体験』はなんなのか、という視点で見てみると、サービスの価値が大きく変わることすらあるからです。
例えば、ここ最近の携帯電話でその例を見てみましょう。

最近流行のスマートフォン、それもAndroidの注目が高まりつつあります。
AndroidはOSのバージョンアップが頻繁に行われ、新機能が次々と追加されていくOSです。
1年に数回アップデートされる事もあり、その更新速度が魅力の一つでもあります。
そして2011年夏モデルでは、発売される機種の半数近くがAndroidという状況になりました。
その多くは「日本特化型」のスマートフォン、つまり赤外線やFelica、ワンセグなどが搭載されたモデルになっています。
今までの携帯電話は、その日本に特化しすぎた機能を揶揄し「ガラパゴスケータイ(ガラケー)」などと呼ばれていましたが、最近のスマートフォンは「ガラスマ」などと呼ばれているようです(通信/端末関連の関係者では、ガラケーの事を「フィーチャーフォン」などという言い方をします)

それがアーリアダプタ層の方から、快く思われていないという事がありました。
なぜなら、日本向けにカスタマイズしすぎた端末は、Androidのバージョンアップに付いていくことが出来なくなるのではないかという懸念や、搭載する事に関するコスト増、自分でカスタマイズしたい(シンプルな物がよい)などという意見があったようです。
その考え方は至極ごもっともですし、私もシンプルな方が好きです。
ですが、その商品を誰に使って欲しいのか、どのように展開していきたいのでしょうか。
言い換えるのであれば「あなたのゴールはなんですか?」という事です。

開発者の多くは「自分が良いと思って作ったものを出来るだけ多くの人に使って頂きたい」と考えることでしょう。
例えばC2DM(※1)を使った機能であるとか、Bluetoothの外部機器連携だとか、とっても胸が熱くなる機能です。
しかし、多くのユーザはそのような機能には目もくれないのです。
現在多くのユーザが利用しているフィーチャーフォンは、非常に多機能です。
多機能が故に、それに依存しているユーザは少なくありません。
アドレスの交換には赤外線(合コンなどで大活躍)ですし、今時の高校生はワンセグを録画して暇なときに見るそうです。
正直、私はワンセグを録画して見る、というニーズがそれほどあるとは思えませんでしたが、決してそんな事はないようです。
また、基本的な機能は全てメニューから使えると考えているようです。
「アプリをインストールして利用する」という考えは、彼らにはありません。
最初から便利な機能が入っていて、楽しいゲームが使えないと、棚に並べてあっても手にすらとってもらえないという現状があるのです。
そんな方々に、シンプルである事が魅力的に映るでしょうか?
また、そういう方々に売らずして「普及」足りえるでしょうか?

開発者の落とし穴、というのはまさにこの部分です。
新しいサービスを良かれと思い提供しても、理解を得られず、やがて使われなくなってしまう。
良いと思ってやっているだけに、どうしてもその事実を無意識的に受け入れる事ができないのです。

フィーチャーフォンで利用可能かつ満足度の高い機能は、同等の機能がなければ移行する際の障壁になってしまいます。
少なくとも現時点においては「スマートフォンらしさを活かした端末」よりも「フィーチャーフォンの機能も使える端末」が望まれている事になります。
スマートフォン人口が増加、ユーザリテラシが向上し、初めて「スマートフォンらしさ」が受け入れられる、それがAndroidの現状です。
その事実を受け入れられなければ、そのまま消え行くものになってしまうでしょう。
Androidよりも先行していたiPhoneですが、ユーザはフィーチャーフォンとの二台持ちが多い理由を考えるとわかりやすいですよね。

■人の出会いと、ゴールを見据えて
そして、実は我々はこれと同現象を既に経験しています。
WindwosPCがまさにそうです。
PCは一部マニアックなユーザの物でした。
それを「いかに一般化し、便利な物であると理解をしてもらい、PCを普及させるのか」をメーカが考え、いわゆる「オールインワンPC」を発売しました。
ガイド機能や辞書機能、オフィスのセットにプロバイダ接続ツール、ウィルス対策ソフトにミニゲーム…それらが全部詰まったPCです。
結果として、どれほどのユーザに『体験』を届け、更にソフトウェア業界の発展に貢献できたか。
販売台数が伸びた事で、大きくコストが下げられるようになり、低価格化も進みました。
今や一家に一台から一人一台の時代になり、携帯電話同様「持っていて当たり前」の時代になりました。
そんなオールインワンPCも、当時一部のハイリテラシのユーザからは「プリインストールのソフトなんていらない」「テレビが見られる機能なんていらない」というように、多機能である事が嫌われていました。
この短期間の間に、時代は繰り返しているのです。

確かに将来的にはユーザリテラシが向上し、シンプルなグローバルモデルをそのまま市場にだしても受け入れられるような時代がくるでしょうし、既にそれに近付いているのも確かです。
ですが、ユーザが今求めているものは決して「使わされる最先端」ではなく「生活を豊かにしてくれる最先端」なのです。
そのため開発者は、目的から手段を逆引きをして「自分の目標とするサービス/製品」を届けるために「今ユーザに必要な事」を考え「今と、その次に繋がるサービス/製品」を考えないといけないのです。

その良い例が「voice4u」というアプリです。
このアプリは、日経BPさん主催の「Android Application Award」というイベントで大賞をとった、自閉症の子とコミュニケーションをとるためのアプリなのですが、機能は非常にシンプルです。
感情を表すアイコンと言葉が並んでいるので、そこから自分の伝えたい気持ちを選び、タップする。
すると声が出て、相手に伝える事が出来る、基本機能はそれだけです。
正直いいますと、アプリの機能としてAndroidである必要は無いように思えました。
実際、元々感情が書かれたカードが存在し、それを子供に見せていたのをアプリにした、というものですから、技術的に複雑なものはほとんどありません。
ですが、これが非常に重要な事なのです。
子供とのコミュニケーションのために、つねに数百枚ものカード、なんと5kgにもなるそれを持ち歩き、必要に応じてカードを作成しなければならない。
実は同等の専用機器が存在したそうなのですが、価格は数万円、しかもアップデート等があるわけでもなく、使いきりになってしまうそうです。
それが一台の携帯で実現できるのです。
上記ページにあるVoice4u誕生までを読んで頂きたいのですが、これこそ「ユーザが必要としている物を作る」というビジョンが明確になっていたからこそ成し得たアプリだと思います。
市場としては非常にニッチだと思いますし、価格的にも決して利益が大きいとは言えないと思います。
ですが、このアプリのおかげで本当に救われた人が何人もいると思います。
そしてこれをきっかけに、また次の多くの人を救える事になるでしょうし、それこそが彼らにとっての「ゴール」だったわけです。
あれもできる、これもできると機能を詰め込んでしまっていたら、結局それは開発者の自己満足で終わってしまった事でしょう。

上記例でもわかるように、大切なのは人との接触です、それも出来るだけ多くの人との。
「必要な人がいて、技術者がいて、専門家がいて」と多くの人が関わったからこそ生まれたこのアプリ、自分だけではできなかったでしょうし、自分の身の回りだけではここまでの物が作れるかどうかわからなかったでしょう。
社内や身近な人ばかりですと、どうしても考えや志向が似た物になりがちになってしまうからです。
様々な人から刺激を受け、知恵を出し合い、技術だけでなく心も磨いてこそ、良いものが作れるのだと思います。

私たちのしている仕事も、必ずどこかで誰かのためになっている、そう考えてみませんか?
そう考えた時、次の次の、更にその先にはどういう世界が広がっていくでしょうか?
まだまだ、私たちに出来る事はありそうですよ。

※1…C2DM:「Cloud to Device Messaging」開発者が、サーバからAndroidのアプリにメッセージを送ることができる機能。

プロフィール
平野 裕介(ひらの ゆうすけ)

Web開発が本職でしたが、今はAndroidの企画関連が仕事に。また、日本Androidの会という、Androidの開発者を中心としたコミュニティにも参画しています。基本的にモチベーションドリブンで開発をします。モチベーションは品質にも直結するという考えから、したくない事はできるだけしない、というスタンスで仕事をしています。そんな私でもなんとかなっている、という指標になれればと思っています。




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平野 裕介(ひらの ゆうすけ)

Web開発が本職でしたが、今はAndroidの企画関連が仕事に。また、日本Androidの会という、Androidの開発者を中心としたコミュニティにも参画しています。基本的にモチベーションドリブンで開発をします。モチベーションは品質にも直結するという考えから、したくない事はできるだけしない、というスタンスで仕事をしています。そんな私でもなんとかなっている、という指標になれればと思っています。